11 『忍者の方たちは、よく考えて仕掛けを作られているんですね』
金髪忍者は尻もちをついて驚愕している。
背格好はバンジョーと似ていた。現在、ここ鳶隠ノ里でバンジョーが着替えた物と同じ衣装でもあった。
「忍者です!」
「捕まえるわよ」
「速攻」
クコが叫び、ルカが唱えたときにはサツキが走り出している。まだ周囲のまきびしに身動きを取りにくくしている忍者は、どうするか一瞬だけ悩んでジャンプした。
「ニン!」
「悪いな」
サツキはつぶやき、帽子を投げた。
「上には行かせない」
少し前、狼に変化する魔法を使う忍者フウガを捕まえたときと同じ、《魔導帽八重桜》の効果を使う。
「膨らめ! 八重桜」
《魔導帽八重桜》はぼっと膨らみ、忍者は帽子に頭から突っ込んだ。
帽子にぶつかった忍者は、強い反発が働き、下に向かって落ちてくる。サツキとクコはまきびしを避けつつ忍者の真下へと走っていき、
「ノォオォォォーッ!」
忍者が叫んで涙を流したところで、ルカがすっとまきびしを地面の中へと引かせた。
落下してきた忍者は、サツキとクコの間に着地し、二人に同時にタッチされた。
「やりました! 捕まえました!」
「ルカ、ありがとう」
「いいえ。二人の判断が速かったのよ」
ここで、『傍ら』の《傍》によって投げた帽子がサツキの手元に戻ってきて、キャッチした。
「お命、助かりましたニン。かたじけないニン」
ホッと肩を落とした忍者に、クコが声をかける。
「おもしろい忍術でした。すごいです」
「あれは魔法なんだニン。拙者、忍者に憧れてメラキアからやってきた軽荒楠風琵と申すニン」
と、フウビは丸くなって顔を球体の表面に出現させた。
「この《団子虫ノ術》は、丸くなれる。忍者になるために身につけた魔法だニン」
「そうでしたか。忍術じゃなかったのは残念ですが、わたしも忍者には憧れていたのでお気持ちわかります」
「ワオ! 仲間だニン!」
「はい!」
「ニンニン!」
「ニンニンです!」
クコとフウビが意気投合したようだが、ルカは話を打ち切らせてもらう。
「さて。これで二人目ね。そろそろお昼になるし、いいペースじゃないかしら」
「ナズナとチナミも一人は捕まえたようだしな」
これで三点目。残りは四点になる。
フウビはそんなサツキとルカに言った。
「この試練に参加してる忍者は十人以上いるニン。みなさんなら試練突破できる気がするニン」
「ありがとうございます」
サツキがお礼を述べ、ふっと視線を後方へ投げる。
「サツキ様?」
相変わらずサツキの表情の変化に敏感なクコが、変化を察知する。
「うむ。だれかいるようだ。次のターゲットはそっちだな」
「じゃあ、行きましょうか」
「はい。では、フウビさん。また」
「健闘を祈るニン!」
フウビの応援を受け、三人は走り出した。
廊下を走っていると、忍者を発見する。
忍者は、三人の姿を見返り、壁に背中を預ける。そして、そのままくるっと壁を回転させて消えた。
「どんでん返しですね!」
「だな」
「行きましょう」
「うむ」
と言いつつ、サツキは口の前で人差し指を立てて、クコとルカの背中を押した。
「?」
「……」
クコとルカはどんでん返しの壁に駆け寄り、クコが壁に背中を預け、ルカがクコにぴったり横からくっつくように備える。クコが壁を回転させようと押すが、さっきの忍者と同じように回転せず、逆向きに壁を回転させ、二人は壁の中に入った。
くるっと回転した壁。
二人が中に入るのと同時に、さっきの忍者が出てきた。
忍者は、二人が張りつく壁の反対面に張りつき、入れ替わりにあっさり出て来たのである。
サツキは襖の影に隠れ、息を整え、サッと駆け出す。
「捕まえ――」
が。
片目の隠れた髪型のこの忍者は、そんなサツキの動きも読んでいたように、流れる動作で対処した。
畳をひっくり返し、壁を作った。
これによって、サツキは視界を失い、忍者に逃げられる。
「いませんでしたよ」
どんでん返しから顔を出したクコとその後ろのルカに向かって、サツキは言った。
「あっちに行った。追うぞ」
「はい!」
「わかったわ」
三人が走って探す中で、廊下は行き止まりにぶつかり、その手前に部屋があった。
「廊下に仕掛けはなさそうだ。時間から考えて、さっきみたいなどんでん返しや仕掛け戸を使わないと外へ出られない。そして、その仕掛けは廊下にないとみえる。となると――」
「この部屋に、まだいるわね」
サツキとルカの解説を聞き、クコは部屋に足を踏み入れ、ぐるっと見回す。
「部屋であれば、隠れる所もたくさんありそうです」
「とにかく調べよう」
「そうね」
「はい」
一つしかない入口の襖の他は、壁に囲まれた部屋である。部屋の中央には囲炉裏があり、タンスや押し入れ、掛け軸など、怪しいところは多い。
調べながら、クコが聞いた。
「サツキ様、さっきはどうしてわたしたちだけがどんでん返しを?」
「どんでん返しの基本でもあるんだ。あそこに入って行ったのをみると、追いかけて入るだろう?」
「はい。現にそうしました」
「実は、どんでん返しは半回転しかしない。入ったのと同じ向きに入ろうとしてもたつく。その隙に隠れることができるんだ。で、追っ手が逆に回転させて入ると、このわずかな時間に隠れたと思い込み、中を調べたがる。そんな人間心理を利用して、壁の反対面に張りついて入れ違いに出てくる。そんな裏をかいた動きをしてくる可能性も考えて、俺は外で待っていたんだ」
「忍者の方たちは、よく考えて仕掛けを作られているんですね」
「うむ。感心してしまうよ」
クコがタンスの引き出しを開ける。
それを見てルカがつっこむ。
「一番下の段なら地下への秘密通路があるかもしれないけど、真ん中に隠れられるわけないじゃない」
「えへへ。一応です。魔法の可能性もありますし」
照れたように笑うクコである。
しかしそのクコが、今度は囲炉裏を丹念に見ていると、カタッと音をさせた。
「わわっ!」
「どうした?」
サツキが見ると、囲炉裏がスライドして、地下への入口が顔を覗かせていた。
クコが驚嘆の声を上げる。
「これは……抜け道です!」
灰の入った木枠ごと動かせる構造になっており、スライド式の隠し扉のようになっていた。




