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5 『わたしの忍者衣装、似合ってますか?』

 まず、士衛組一同は衣装を変えた。

 忍者衣装である。

 男女それぞれの更衣室が用意され、そこでサツキはバンジョーと着替えた。

 サツキは全身黒い忍者衣装で赤いマフラーが差し色になっている。いつもの帽子はかぶったまま。

 バンジョーのほうはオレンジ色の派手な忍者衣装だった。ハチマキも同じオレンジ色。忍者なのに派手なのはご愛嬌といったところだろう。

 大部屋で待っていた玄内が、二人の格好を見て言った。


「様になってるじゃねえか」

「へへん!」


 腰に両手を当ててバンジョーが誇らしそうに胸を張った。


「サツキは刀を手で持ってるが、道具はそれにするのか?」

「いいえ。使う道具は帽子にします。刀は帽子にしまっておこうかと」

「いいと思うぜ。正直、刀を使う場面はないだろう。戦闘によって相手を捕らえたいって場合でもないとな」

「はい」


 話しているうちに、クコたちも戻って来た。

 クコたちもすっかり忍者らしくなっている。


「わたしの忍者衣装、似合ってますか?」


 うきうきしたようにクコが聞いた。

 青い忍者衣装に身を包んだクコは、頭をポニーテールにしている。ハチマキも青でそろえ、忍者にしては清涼感がある。

 ルカは紫色の忍者衣装になっており、髪はクコ同様ポニーテール、靴下が編み編みになっていてくノ一っぽい。王都で袴になったときは変化も少なかったが、今回は新しいルカを見た気分になった。

 ナズナはピンク色の忍者衣装、髪はサイドテールに結わえ、頭巾から飛び出している。頭巾は猫の耳の形なのが特徴的。いかにも子供くノ一といった感じである。バンジョーと同じくらいに目立つが、試練では見つける側だから問題もない。

 そしてチナミは、前からくノ一のような動きを見せていた少女らしく、忍者衣装が特段似合っていた。黒い袴は短めで、着物は渋味のある水色、手甲をつけ、髪はおさげにしている。ぺんぎんぼうやのお面はもちろん装着。

 サツキはうむとうなずく。


「みんな似合ってる」

「サツキ様もお似合いです! 忍者になった気分で感激しています!」


 憧れの忍者になってクコはうれしそうだった。

 だが、喜んでばかりもいられない。これからが大事な試練なのだ。




 現在、午前十時十五分。

 みんなが座る中、


「うっし! 着替えたところで行くか!」


 バンジョーが立ち上がる。

 しかし、ほかの者は座ったままである。意気込むバンジョーを、玄内が注意喚起した。


「馬鹿野郎。なにも考えず飛び出すやつがあるか」


 低く静かな声に、バンジョーは座り直す。


「お? でも、だったらどうするんすか?」

「案のある者はいるか?」


 玄内が促す。

 さっそく作戦会議が始まった。

 最初に、クコが提案する。


「わたしはとりあえずリーダーを決めてその方を中心に作戦を立てるのがいいと思います」

「手順としては悪くねえ。『()(えい)(ぐみ)』って組織もあるんだ。ここで決めずとも、遅かれ早かれリーダーは必要になる。だったら、今決めたほうがいい。で、だれがやるかだ」

「わたしは、年長者の玄内さんにお願いしたいです」

「いや、おれはやれねえ。あくまでおれは、おまえらに協力するだけだ」


 強く芯のあるカメの眼差しを見ると、玄内には玄内の考え方があり、どうしても引き受けてくれそうになかった。


「では、その次に年長になるバンジョーさんはどうでしょう?」


 クコが話を進める。

 これに、サツキもうなずいてみせた。


「妥当だと思う。前に、ルカから仲間が十人を超えたら自分たちも含めて役職を割り振り、組織として動かす必要があると言われた。そのときから考えていたのだが、隊編成については、ほかに案がある者がいなければ俺が提示する。そして、まずそこでリーダーにふさわしいのは、バンジョーかクコだと俺は考える。どちらかにやってほしい」


 ここまでサツキが描いてきた組織予想図では、新選組の仕組みが理にかなう上に美しく感じていた。各隊を設け、それを局長と副長で動かすのである。また、各隊をまとめる隊長もつくり、指示系統を確保したい。ほかの組織についても知識が豊富なわけではない。だが、十人程度であればこんな感じのやり方は素人でも動かしやすいのではないか、とサツキは思っている。

 サツキの頼みに、バンジョーとクコは難色を示した。


「だれもできねーってんならオレが引き受けてやる。だが、士衛組はクコとサツキを中心とした仲間だ。二人がやるのが筋だと思うぜ」

「確かに、わたしの勝手で旅についてきていただいたみなさんです。だからわたしがやるのが筋です。でも、わたしにはとてもできそうにありません……。向いていないと思います。王国のこととサツキ様のことで頭がいっぱいなのに、リーダーシップをとる余裕なんてとても……」

「私もサツキのことで頭がいっぱいだけど、できることがあるなら言ってちょうだい。ただ、私はリーダーの器ではないと思うけど」


 さらりとクールに言ってのけるルカに、クコは弱く微笑む。


「ルカさん、ありがとうございます。サツキ様は、どうでしょうか?」


 聞かれて、サツキは玄内を見る。意見がほしい。


「サツキ。おまえ自身はどんな役職を考えていた? 組織図を簡潔に言ってみろ」


 玄内が促し、サツキは答えた。


「組織図は、ひと言で言えば指令が局長から副長へ流れて副長から残りの者へ伝わります。隊をいくつか設け、各隊長が副長と連携します。まだ人数が集まってないし、新たな仲間を加えたら適役の人材が変わるかもしれません。だから今決めるのはリーダー――つまり局長だけと思ってましたけど、もし自分がやるなら副長か総長です。ここでの総長は、参謀役です。指揮権は持ちません。また、(ゆう)(ひつ)――すなわち、秘書役である文官も兼ねます。そして局長ですが、これは細かいことは考えないでドンと構えていられる者がいい。副長以下の役職の者は、報告・連絡・相談する場合副長を通す予定だからです。性格と立場を考えると、局長はバンジョーかクコがいいと思った。以上です」


 前に、新選組が登場する時代小説を読んだことがあった。その並びの端正さにほれぼれしたし、この組織の実質的な運営をした副長――土方歳三のやり方もサツキの記憶にある。サツキの意識として、新選組の運営は実質的に副長が行っており、それを理解し組織するなら、自分が副長か総長をやるのがいいだろうと、サツキは思っていた。

 玄内は、どこかうれしそうにダンディーな口の端をゆがめた。


「なるほど、悪くねえ。どこで勉強したか知らねえが、サツキは組織の裁量権を持つにふさわしい。人数も少ねえし、大将は、豪胆で器がでかいやつがやるべきってもんでもない。サツキ、この世界の晴和王国じゃあ、昔、旧戦国の世では優しい心を持った者が大将にふさわしいと言われていた」

「俺の世界の母国――日本でも、戦国時代の大将には優しい心を持っているかが重要視されたとも言われています。それを、周りが支え盛り立てればいい。そういう考え方もあったみたいです」


 フンフン、と玄内はうなずく。


「なるほどな。どこの世も同じか。いや、晴和と日本がちっと特殊なのかもしれねえが。しかし、その条件、クコもぴったりだと思うが、おれはおまえも満たしてると思う」

「そうでしょうか」


 自分自身について、サツキはそれほど考えたことがない。だが、優しさに自信があるわけではなかった。

 疑問符を浮かべたようなサツキの顔を見て、玄内は笑った。


「わからねえか? そりゃあそうだろうな。自分のことってのは、自分が一番わかっているつもりでも、鏡でも使わなきゃ見えねえ。鏡でも背中は見えねえ。そんなもんだ」

「……」

「おまえは、クコが抱える国家規模の大事を平然と受け入れちまうほどのお人よしってことだ。その背景に、優しい心が見える。なあサツキ、その局長ってやつをやってみる気はないか?」


 ルカをして一種の超人、天才と言わしめた玄内である。『(ばん)(のう)(てん)(さい)』とも言えるこのカメには、今のサツキの説明を聞くだけで、指揮力を見抜くには充分であった。ばかりではない。お人よしとも言えるほどの優しい心と器がなければ、クコの持ちかけた壮大な計画に加担できるものではない。


「おれは従うぜ」


 このひと言が決め手となり、サツキは承知した。


「わかりました。最初に描いていた予想図とは違うけど、俺が局長になります。異論のある方は?」


 だれも異を唱えなかった。


「サツキ様。すみませんが、よろしくお願いいたします」

「私はどこまでもサツキについていくわ」

「オレも賛成だ。頼んだぜ、局長」

「わたしも……いいと思います」

「同じく。よろしくお願いします」


 クコが丁寧に頭を下げ、ルカ、バンジョー、ナズナと言って、最後にチナミもお辞儀した。


「決まり、だな」


 と、玄内が渋い声で言った。すでに御意見番の貫禄である。

 サツキはふぅと息を吐き、気を引き締める。みなに深々と頭を下げた。


「ではみなさん、士衛組局長を務めます(しろ)()(さつき)です。よろしくお願いします」


 そして、局長として、最初の指示を出す。


「さて。残された時間は七時間半といったところ。忍者を捕まえて七点を集めるため、小隊編成します。全員でいっしょに行動するよりも、また一人ずつ単独で行動するよりも効率がいいからです。各隊の振り分けを発表したら、みなさんは隊ごとに行動してください」

「おう! その前に、飯は持っていけよ! こんなときのおにぎりを作っておいたんだ!」


 バンジョーがニカッと笑うと、玄内が甲羅から取り出した。


「まあ、預かってるのはおれだがな」


 玄内とバンジョーからおにぎりを渡される。

 ありがとうございます、とクコが受け取り、お昼は各班ごとにということで、サツキは切り出した。


「では、各隊を発表しますね」

いつも読んでいただきありがとうございます!

やっと士衛組のリーダーが決まりました。局長はサツキです。

ここからサツキを中心にした組織としての動きも出てきます。

今回はサツキたち士衛組メンバーの忍者衣装を掲載します。


【サツキ】

挿絵(By みてみん)


【クコ】

挿絵(By みてみん)


【ルカ】

挿絵(By みてみん)


【バンジョー】

挿絵(By みてみん)


【ナズナ】

挿絵(By みてみん)


【チナミ】

挿絵(By みてみん)



イラスト担当の弟が描いてくれたのを見て、和服以外があまり想像できなかったルカが似合っていたのがうれしかったです。

チナミは元々くノ一衣装あるいはくノ一設定も考えていたキャラクターで、デザインもベースをポニーテールかおさげか迷ったのですが、結局今の形に落ち着きました。やっぱり衣装チェンジを見られたほうが楽しいですからね(笑)

玄内は忍者衣装がありませんが、ちょっと見てみたくもなりますよね。

明日はリラパートで、オウシとスモモ以外の鷹不二水軍の一軍艦メンバーも登場します。よろしくお願いします!

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