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汝の名は、魔王ー魔王と天使の物語ー  作者: 木彫りのクマ
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臣下と忠誠


::::::::::::::::::::::



後日


正殿―― 謁見の儀



魔王は正殿に入るなり、じろりと部屋中を眺め見た。

予定にはない謁見の儀。朝餉の後で唐突に知らされたそれに不快は隠せない。



「はっ。謁見とは何であったか。これは決起集会の間違いではないのか?」


「決してその様なことは。皆から至急謁見の申し出があったので、一堂に会したまででございます。本日の謁見には…」



手にした巻物をバラリと解き、流暢に参加者の名を述べあげる近衛。

それとは対照的に臣下達は重々しい表情で、目を伏せたまま微動だにしない。

皆、気まずさを感じながらも集まらずにいられなかったのだろう。



「魔王殿!」


近衛が族長達の名を読み上げるのを阻み

ズイ、と身を乗り出して口を開いたのは 竜王だった。


「竜王。お前がこいつらを集めたのか?」 


「皆、思うことは同じであったというだけですじゃ」


「前回は我々も、天使の事で混乱しておった! 今日こそしかと、お話を聞かせてもらいましょうぞ!!」


「ふん。混乱したならば、いっそ混乱したままでいればいいものを」



淡々と文句を吐き出しながら、中央の御帳台へと進む魔王。

その背に向かい、老いた竜は火を吹く勢いで捲くし立てていく。



「皆、冗談で集まっているわけではないのですぞ!」


「これが暇人の集いだったのならば、俺とて出向いたりしておらぬ」


「魔王殿には未だ、王たる者の自覚が足りておらぬ!! 先代魔王殿におかれてはこのような――…



魔王はその言葉を聞き、簾中に入る一歩手前でピタリと足を止めた。

開いた扇から瞳を覗かせ、竜王を捉える。



「……その言葉は俺への愚弄か――?」


「なっ」


「違うとでも? ならば、我が父への忠誠か?」


「――っ」ビタン!



返す言葉を失い、竜王は大きく尻尾を床に打ち付けた。

そしてそのまま、ゆっくりとその巨頭を垂れて鎮まっていく。



仕える『魔王』への愚弄など、決して許されない。

もとより愚弄するつもりなどはなく、言葉が過ぎるのはただの老婆心なのだ。



(……魔王殿は“魔王殿”じゃ、いつまでも若君ではあらせられぬ。わしの振舞いは改めねばならぬことも承知…。 じゃが……)



竜王はもともと、力強い賢王だった先代に忠誠を誓って仕えていた家臣だ。

先代の在位中は、何度も幼かったこの魔王を叱咤し、厳しく忠言を繰り返した。



(厳しくも思慮深くあられた、先代魔王殿――。

その元で、強く立派な後継を育てるべく情熱を燃やした日々は、未だつい先日の事のように思えますのじゃ……)



継承も戴冠の儀も終え、“魔王”が交代したのはつい先秋のこと。

 


この国の王達には、伝統的な風習として

『より多くを次代に継承する事が王の誉れである』という考えがある。


この風習の中で、先代は見事に全てを手放してみせた。


残したのは小さな東屋と一人の女房だけで、もはや奥殿にすら居を持たない身となった。

知恵こそ残ってはいるものの、“人格者”以上の評価を得ることはできない。

そんな身分へと、自分を押し下げたのだ。


だが何よりも見事だったのは、そんなことではない。

最も誇るべきは、『臣下』の全てが若き魔王に継承された事だったと竜王は考えている。



(主君が替われば臣下も変わるもの。離れる者が出るのは、これまで当然じゃった。

じゃが先代から今代へと変わる際には、誰一人として離れるものが居らんかった……)



『臣下達は皆、王の誉れとなりたかった』――



若き魔王に忠誠を移譲することこそが、

臣下達に出来る 先代魔王への最期で最大の礼であり、忠誠だったのだ。

そんな時代の魔王に仕えた事は、竜王にとっての誇りでもある。


だからこそ今、忠誠を誓うべきは この『魔王』ただ一人でなくてはならない。

先代の誉れに、傷をつけてはならないのだ。


(……ならないというのに…。ワシは先代王という“個”に、未だ執着をしておるのか…?)




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