もう一度
登録したからには何か書きたいと思いついてた話にしてみました。
ヒトの世は、いつでも争いが絶えない。
あの小さな出会いと冒険から幾日が過ぎ、今私の村は正に戦火の真っ只中にあった。
長年いがみ合ってきた海の国と山の国の諍いの火蓋が切って落とされたのだ。
この村は両首都のほぼ真ん中でどっちの勢力も必ずここで激突するのは、誰の目にも明らかだった。
バチバチと燃え上がり響いてくる振動は村中の家屋が焼け落ちていく音。
生きるか死ぬかの中、村人達は唯一の宝である家族と身を寄せ合いながら着の身着のままで旅立っていく。
私の教会も壁に伝う火の勢いが徐々に全体に行き渡りつつある。
今、私に出来るのは私の石の足元に泣き崩れているメロディさんに崩れ落ちてくる火の粉や瓦礫が降り注がないように、僅かに残った神力で守る事ただそれだけだった。
壁もほぼ無くなって開けた視界の先では、この村の中で一番力の強いと人々に噂された『戦の神』の石像が、その恩恵に与りまた利用価値ありと見だした兵士達によって引き倒され、粗末な荷車に積まれてここから持ち出されようとしているのが見えた。
行ってしまうのね…
私にだけ見える、その積まれた『戦乙女の像』の上に座っているあの水色のワンピースの女神は、私に背を向けたまま泣き続けたまま連れていかれてしまった。
メロディさん…
「…アンジェライト様? 大丈夫です、私も共に参りますので…」
ありがとう。 でも、もういいよ。
私の囁きに、泣き腫らした目のメロディさんが顔を上げる。
ほら、後ろを見て。
「? !?」
振り返るメロディさんが思いっきり見開いた目のまま駆け出し、そしてそこに立っていたもう一人の修道女さんに抱き付く。
彼女は、私の教会の真向かい、『水の神』の伝道師。
メロディさんとは実の姉妹だったんだけど、怪我でこの辺境の村に飛ばされる事になったメロディさんの支えになりたいと、聖国行きの話を蹴ってこの村を安住の地と決めたと知ってた。
2人とも、私の話し相手になってくれてありがとう。
そう囁いて私の最後の神力がメロディさんの怪我して動けない片翼を包む。
さあ、これで飛べるから、火の勢いが落ち着いたら逃げて。
「そんなっ!?」
わかってるよ。 メロディさんの優しさは。
生きて、その優しさで傷ついていくこの世界を少しでも救ってね。
それが私の願いです。
恐らく、水の神様に同じように諭されてこっちに来ただろう、メロディさんの姉妹が安堵した表情になって彼女を抱き上げ床を蹴って飛び上がる。
ありがとう。 2人で無事に逃げてね。
ゆっくりと上昇していく2つの泣き顔が見えなくなるまで見送って…
私はもう一度石像から抜け出し、すでに床しか残ってない教会の中に立つ。
住人も略奪者もいなくなった村の中へと歩きだすと、正面の同じように焼け落ちた教会の前に座り込む影を見つけた。
…やっぱり、貴方もだったのね。
顔を上げたのは、私の心に残っていた少年の姿の『水の神』。
私達はここから離れられない同士なのね。
「…お前だけじゃ、危なっかしいしな」
初めで見た笑顔はどこか自嘲的。
聞いていい?
どうして私を見る時に睨んでたの?
「………」
ゆっくり立ち上がる彼が、目の前に立つと同時に私を強く抱きしめる。
「……神はこういう気持ちになってはいけないと思ったから…」
そっか… 『最期』だからいいよね。
私も最初に睨まれた時から気になってたの。
私達のそれぞれの背後で、教会内に最後まで残っていたの石像が炎に飲み込まれ崩れ落ちていく。
そして、ゆっくりと消え始める私達の身体も…
また、次の世界で会えたら、きっとわかるよね。
それから、戦火の記憶も薄れかけてきた幾年後。
鳥人の国の中、小さな集落で2つの産声がほぼ同時に響き渡った。
戦火から生き延びた鳥人姉妹の産んだ新たな命。
一人は飛行能力が里一番の姉妹の姉が抱く漆黒の髪に翼を持つ男児。
そして、かつて『癒しの乙女メロディ』と呼ばれた妹の抱く白い髪に白い翼の女児が嬉しそうな産声を上げていた。
読んでくださいましてありがとうございます。




