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閑話〜子爵令息は王女の招待を受ける(前編)〜

今回はリュックとイレーヌのお話です。

「…ダブルデート?なにそれ?」


友人であるデュマ侯爵家のジェラールから話を聞いた時、まず最初にそう聞き返していた。これまでのリュックの生活の中には存在しなかった言葉。


(デート…は分かる。男と女が二人きりで会うこと。それがダブルってどういうこと?)


リュックの素朴な疑問にジェラールは顔色一つ変えずにそっけなく答えた。


「2組のカップルでデートすることだよ。カップルが2組でダブル」

「…それのどこが楽しいの?」

「うーん…楽しいからっていうより、気楽だからってことだと思うけど」

「…?」


意味が分からずますます首を捻るリュックに、ジェラールが少しイライラしたような顔をした。


「要するにさ…リュックとイレーヌ嬢は一度会ったきりで、まだお互いのことをよく知らないだろ?そんな人達がいきなり2人きりで会ったりしたら会話も弾まないし、うまくいかないことの方が多いんだよ。そういう場合に友達同士の男女2人ずつだと同性同士で話したりとかもできるし、2人きりよりも緊張せずに話せるよね」

「ふーん……じゃあルイーズ様とジェラールは、僕とイレーヌが話しやすいように一緒にいるってこと?」

「まぁ、そういうことになるね。…僕としては、ルイーズ様と二人きりの方が断然いいんだけどさ。ルイーズ様からのお誘いじゃ断るわけにもいかないし」


そう言って不満げに口を尖らせたジェラールは、ここのところずっと機嫌が悪い。ジェラールの妹であるヴィクトワール曰く、ジェラールは”脱落間近”なんだそうだ。どういう意味なのか聞いてみたけれど、「ご自分でお調べになってください」と教えてもらえなかった。


(今度イレーヌに会った時に聞いてみようかな)


ジェラールの誕生パーティーで初めて顔を合わせたイレーヌ・ヴァリエ子爵令嬢は、パッと見特に目立つところのない平凡な貴族令嬢だ。人目を惹くルイーズ王女の後ろに控えているため余計に目立たないが、リュックは彼女のオーラをとても綺麗だと感じた。


ルイーズが持つ魔力はあまりに圧倒的過ぎて、近くにいると魔力にあてられて疲れてしまう。その点イレーヌの魔力はあったかくてすごく心地良い。好奇心旺盛なリスみたいにクリクリした茶色の瞳で見られると、不思議と心が浮き立ってくる。


リュックとジェラールがルイーズの招待を受けてから数週間後、王城の離宮でルイーズ王女主催のささやかなお茶会が催された。


「本日はお招きどうもありがとうございます」

「…ありがとうございます」

「こちらこそ、足を運んでくれてありがとう。今日は私達4人しかいないから、どうぞ気楽にしてね」


ジェラールに倣って挨拶したリュックに、ルイーズがにっこりと微笑む。ルイーズは王女なのに気取ったところがなくてとても話しやすい。身分が低いからとイレーヌやリュックを見下すような態度も見られないし、リュックが敬語が苦手なのも気にする様子もない。


(でも、僕にはやっぱり眩しすぎる…)


ルイーズ自身が嫌いなわけではないが、リュックには彼女の持つオーラが強すぎて近くにいるのが少し辛い。ルイーズ主催のお茶会に行くことを聞いた父親が何故かとても厳しい顔をしていたことを思い出して、リュックはついルイーズから視線を逸らしてしまった。


「おい、リュック。ルイーズ様が話しかけてるのにその態度はないだろう」

「いいのよ、気にしないで。こんなところに呼ばれたら緊張するわよね。イレーヌと2人の方がいいなら私達は庭に行ってるわ」

「え…ルイーズ様……!?」


リュックの態度を見咎めたジェラールがすかさず注意したが、ルイーズは全く気にする様子もなく席を外すことを提案してきた。急に2人きりになると聞いて慌てたイレーヌが目を白黒させる。


「ああ、それいいね!僕はルイーズ様と外を散歩してくるから、君たちは2人でゆっくり話しなよ」

「ダブルデートなのに一緒にいなくていいの?」

「僕は元々ダブルデートしたかったわけじゃないし…。せっかくルイーズ様がチャンスを作ってくれたんだから、イレーヌ嬢と仲良くなりたいんなら自分でなんとかしろよ」

「……わかった」

「いきなりハードルが高すぎる……」


呆然と呟いたイレーヌが心配そうにリュックを見たものの、リュックは特に緊張した様子もなく至って平常通りだ。


(2人きりと言っても周りに人はいるんだし、慌てることなんて何もないはず…… 私の方が精神年齢は高いんだから、しっかりリュックをリードしなきゃ……!!)


「ルイーズ様。僕、薔薇園の方に行きたいなぁ」

「いいわね。今ちょうど見頃だから行ってみましょう」

「やったぁ!……じゃあまた後でな、リュック」

「うん」

「イレーヌ…貴女らしく、ありのままで接すれば大丈夫よ。きっとうまくいくわ」

「……はい」


ジェラールにエスコートされ、にこやかに手を振りながら薔薇園へと去って行くルイーズ。


(庭園を散策する美少年と美少女……なんて眼福なの……!!)


オタク根性丸出しで2人を目で追っていたイレーヌがふと視線を戻すと、テーブルを挟んで向かいに座るリュックが珍しい生き物を観察するようにじっとこちらを見つめていた。


「あの……何か……?」

「うん、すごくキレイだなって思って」

「き、綺麗…………ああ、離宮のお庭ですか?……今はいろんなお花が咲いていてとても綺麗ですよね」


まさかリュックが女の子に向かって綺麗だなんて言うはずないだろうとイレーヌがテラスの外を見たが、それに対するリュックの答えは意外なものだった。


「ううん、違う。キレイなのは庭じゃなくて、イレーヌだよ」

「わっ、わたし……!?」

「うん。あったかくてふわふわしてて……」

「………?あったかくて、ふわふわ……?」


初めて貰った異性からのストレートな褒め言葉に思わずドキッとしたイレーヌだったが、その後に続いたリュックの言葉を聞いて頭の中にクエスチョンマークが浮かんだ。


長くなりそうだったので二話に分けました。

次回もう一話続きを更新してから、第3章終了となります。

ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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