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ルイーズは、時折考えることがある。この世界において、"ルイーズ"という人物の生い立ちが、何故これほど複雑であるのかということを。


ゲームにおける"ルイーズ"の立ち位置を端的に言うと、『君にバラの花束を』の中ではヒロインであるマリベルのライバル、『Princess of Roses』の中ではヒーローであるクラウド皇子の攻略対象───つまり、それなりに主要人物といえる。


とはいえ、彼女に関するエピソードは攻略ルートによっては語られない部分も多く、やはり主役であるマリベルやクラウド皇子と比べると圧倒的に出番は少ない。


ゲーム上の立ち位置からいえばカミーユも全く同じなわけだが、彼女の場合はここまでのややこしい設定はない。ちなみにカミーユの場合は、ロッシュブール公爵家の女性にのみ引き継がれるという能力の持ち主で、歴史的に有名な賢王ベネディクトの妃マグリット以来の能力者という設定なのだそうだ。……もちろんこれはイレーヌ情報だ。


片やルイーズの方は、高名な魔導士として戦死した祖父にちなんで名付けられ、伯爵令嬢として育てられたのち王家に引き取られるわけだが、ストーリーの進行上は初めから王女だったとしてもなんら差し支えないわけだし、ましてや実はアレクサンドル王ではなく息子のアンリ王太子の隠し子だったなどという設定は特に必要だとも思えない。


にもかかわらず、ここまでルイーズに関する設定を複雑にした理由は、一体なんなのだろうか?


(全属性持ちのことといい、主人公でもないのに設定が多すぎる気がするんだけど…)


この疑問をイレーヌにもぶつけてみたところ、しばらく考え込んでから彼女はあっさりとこう答えた。


「うーん……キャラメイク担当の単なる趣味なんじゃないですかね?」

「は!?キャラメイク担当の趣味…?」

「はい。ゲーム雑誌のインタビューか何かで、クリエイターがそんなことを言ってるのを見た気がします。ルイーズ王女の難攻不落なイメージを出すために、設定を少々盛ったとかなんとか」

「少々、盛った…」


(いやいやいや、少々なんていうレベルじゃないでしょう!)


まだゲームが始まるまではあと5年もあるのに、もうすでにお腹いっぱいだ。これにさらにマリベルを巡って事件が起きたりクラウド皇子がいろいろやらかしたりし始めたら、本気でキレてしまいそうな気がする。


「私はアラン様と仲良く暮らしたいだけなのに……」

「そうですよね。私もできればリュックと平和にイチャイチャしたいです」

「ぷっ……」

「もうっ…ルイーズ様!笑わないでくださいよ…!」

「だって、平和にイチャイチャって……」

「むうぅ…」

「っ…あははっ…!!」


プクーッと頬を膨らませたイレーヌを見て、とうとう堪えきれずにルイーズが笑い始めた。


「ルイーズ様もアラン様とイチャイチャされているじゃないですか!私もリュックと"あーん"したいです!!」

「ちょ、ちょっとイレーヌ!その話を今持ち出さなくても…!」

「ルイーズ様が大笑いするからですよ。いいなぁ……ルイーズ様は、また公爵領でアラン様とたくさんイチャイチャできるんですもんね…」

「そんな、たくさんだなんて」

「いいえ!まちがいなくそうです。アラン様は絶対やる気満々ですよ!確かにそれを見ているのもすっごく楽しいんですけど」

「いや、やる気満々って…」


鼻息も荒く断言するイレーヌを見て顔が熱くなってくるのを感じたルイーズだったが、ふとあることを思い付いて目を輝かせた。


「じゃあ、その前にイレーヌもリュックとデートすればいいじゃない!」

「えっ…リュックとデート、ですか?」

「そうよ!だって婚約前提でお付き合いするんでしょう?それならデートしたっておかしくないわよね?」

「それはそうですけど…」


リュックとイチャイチャしたいと息巻いていたさっきまでの勢いは何処へやら、急にモジモジし始めたイレーヌにルイーズはたたみかけた。


「私がリュックとのデートを設定するわ!そうね…ジェラールと4人で会うのなら大丈夫でしょう?いわゆるダブルデートってやつね」

「だっ、だぶるでーと……」

「そう!ダブルデートよ!」


呆然と呟いたイレーヌに、ルイーズはニッコリ微笑む。


「そうと決まったら、デュマ侯爵家とファーブル子爵家に手紙を出さなきゃね。離宮の庭を借りれるかどうかカトリーヌお義姉様に聞いてみるわ」

「えっ…王城の離宮をお借りするんですか!?」

「ええ。私は警備の関係で簡単には外に出られないから、ここに2人を招く方が早いのよ。……だめかしら?」

「いいえ、とんでもない!私のためにそんなことまでしていただくなんて畏れ多くて…」

「あら…大切な侍女のためなら、これくらいはなんということもないわ。それに、私もリュックとイレーヌがイチャイチャするところを見たいもの」

「………ルイーズ様、完全に楽しんでますよね?」

「いいえ?まさか。そんなわけないじゃない」


ジト目で見てくるイレーヌに朗らかに笑い、ルイーズはふと表情を戻した。


「──ねえ、イレーヌ」

「はい、なんでしょう?」


急にトーンが変わったルイーズに、イレーヌも緊張した面持ちで聞き返す。ルイーズは頭にある考えをまとめながら、慎重に口を開いた。


「これから公爵領に行くまでにやるべきこと、現地でやるべきことをリストアップしようと思うの。まずは、今のグランシェール王国と周辺国の状況を把握するためにデュカスを呼ぶわ。私達が遭遇する可能性のある危険にはどんなものがあるのかデュカスの意見を聞きつつ、警備について話し合う予定よ」

「……『プリロズ』では、アラン様は馬車の事故に遭われたということになっているんですよね?」

「ええ。公爵領の北の方には険しい山があるの。アラン様の話を聞く限り馬車が通れるような道には危ない所は無いということだったけれど、もし事故の原因が人為的なものだとしたら、起こる場所は必ずしも山道とは限らないと思うの」

「人為的なものって……まさか、アラン様が何らかの理由で命を狙われるとお考えなのですか?」


ルイーズの言葉を聞いてイレーヌの顔が青褪める。


「アラン様を狙ったものなのか物盗りの仕業なのかはわからないけれど、その可能性もあるという話よ」

「確かにそうですね…」

「私が行くことで明らかに警備の人数は増えるし、備えあれば憂いなしと言うでしょう?あらゆる可能性を考えておいて損はないと思うの。取り越し苦労で済めば御の字だと思って……ね」

「はい…」


不安そうな表情のままのイレーヌに、ルイーズがフワリと微笑んだ。


「私としては貴女についてきてもらえれば心強いけれど、少なくともニ月は王都に戻れないだろうから、断ってくれてもいいのよ。気が進まないのなら無理はしないでね」

「そんな…ルイーズ様だけを行かせるなんてことあり得ません!私も一緒に行かせてください!…確かに私は魔法もまだ使えませんし、マルセラのように護衛もできません。ついて行っても何のお役にも立てないかもしれませんが、ルイーズ様のお側にいたいんです…!!」

「イレーヌ……」


一緒に行きたいと必死に訴えるイレーヌを見て、ルイーズの瞳が潤んだ。


「……ありがとう。役に立たないなんて、全然そんなことないわ。こうやって他の誰にも言えないようなことを貴女と話せるだけで、どれだけ助かっているか…」

「私もルイーズ様とこうやって前世のこととかゲームのことをお話しできて、本当に嬉しいです。……絶対に、アラン様と一緒に無事に戻って来ましょうね!」

「ええ…そうね。どうぞよろしくね、イレーヌ」

「はい!」


いつもの調子を取り戻したイレーヌを見て、ルイーズがいたずらっぽく微笑んだ。


「でもその前に、リュックとのデートを実現させなきゃね」

「っ…そうでした……」

「ふふっ、どんなドレスがいいかしら?一緒に選びましょうね〜」

「うぅ……っ」


他人がイチャイチャするところは見ていて楽しいが、いざ自分のこととなると前世が喪女だったイレーヌには完全にキャパオーバー案件である。しかしそれと同時に、未知の体験をちょっぴり楽しみにしている自分もいたりする。


(ルイーズ様がこうやって私の背中を押してくれるように、私もルイーズ様の背中を押してあげたい)


ニコニコと楽しそうなルイーズが離宮でのお茶会とドレス業者の手配を始めるのを見ながら、イレーヌは胸の辺りがじんわりと温かくなるのを感じていた。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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