↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/108

13

王都の中心にある目抜き通りに規則正しい蹄の音が響く。綺麗に舗装された石畳の道を走る豪華な4頭建ての馬車を目にした通行人は、その車体に付いている獅子と薔薇の紋章を見て皆一様に頭を下げた。


「わぁ…!これめちゃくちゃ気分いいですね〜」

「…イレーヌ、殿下の御前ですよ」

「あ……申し訳ありません!」


車窓から見える景色に思わず感嘆の声をあげたイレーヌが、先輩であるマルセラに嗜められて慌てて謝罪の言葉を口にした。ルイーズ付きとしての初めての外出に思ったよりも緊張していない様子のイレーヌに、思わず笑みが溢れる。


「ふふっ…でも、イレーヌの気持ちも分かるわ。私も初めてお父様、お母様と公務に出かけた時は、物珍しくてずっとキョロキョロしていたもの」

「殿下もそうだったのですか?」

「えぇ。だからイレーヌもすぐに慣れると思うわ」

「はい…」


安堵した様子のイレーヌにまだ渋い表情のマルセラだったが、馬車が大きな道を曲がって貴族の屋敷が並ぶ区域に入ったことに気づき、降りる準備を始めた。


「殿下、間もなくデュマ侯爵家に到着いたします」

「わかったわ」


マルセラに声をかけられて頷いたルイーズがチラリと見てみると、イレーヌが急に緊張した面持ちで深呼吸を始めた。


(……前世からの推しキャラに会うってどんな気分なのかしら?)


今日は数日前に11歳の誕生日を迎えたジェラールの誕生日パーティーに出席するため、デュマ侯爵家に招待されている。ただしパーティーといってもごく内輪の親しい者のみで行われる小ぢんまりとしたもののようで、人数も全部で10人足らずの会らしい。参加者はルイーズの他に、ジェラールの妹ヴィクトワール、従兄弟であるロッシュブール公爵家の子供たち、それからファーブル子爵家リュックとドニの兄弟である。


ルイーズが『君バラ』のキャラの中で誰が一番好きだったのが尋ねると、イレーヌはあっさりとジェラールだと白状した。そのため、ジェラールの誕生日パーティーに同行すると聞いた時のイレーヌのはしゃぎっぷりは大変なものだった。さらに今回はリュックも来るということで、イレーヌも侍女としてではなく将来の学園の同級生の一人として参加することとなった。侍女のお仕着せでなく実家のヴァリエ子爵家から届いた若草色のドレスを身に纏うイレーヌは、緊張の中にもワクワクした表情を隠しきれない様子だ。


イレーヌによると、リュックは誰に対してもタメ口だったり魔法の話を始めると止まらなかったりと、かなりマイペースな性格らしい。ゲームの中ではレイラの婚約者という設定らしいが、レイラも毒舌でマイペースな方なので、どう考えても合わない気がする。今のところ二人の間の婚約話は聞かないが、水面下で密かに話が進んでいたりするのだろうか?


そんなことを考えていると馬車の速度が少し落ち始め、石造りの門を抜けてしばらく走った先に大きな屋敷が見えてきた。馬車寄せで止まった馬車のドアが開けられると、ドアの外からジェラールが手を差し伸べてきた。


「おはようございます、殿下。デュマ侯爵家へようこそいらっしゃいました」

「ジェラール殿、おはようございます。本日はお招きありがとうございます」


差し出された手に軽く手を乗せ、ゆっくりとタラップを降りて行く。ドレスを引き摺らないよう後ろからイレーヌが裾を持ってくれる。さらにその後から、荷物を持ったマルセラがついてきた。


今日のルイーズは、真っ白なプリンセスラインのドレスに身を包んでいる。襟ぐりや袖、裾がシルバーのフリルレースで飾られており、さらにふんわり広がったスカート部分に細かいクリスタルが散りばめられていて、動くたびに光を反射してキラキラ光ってとても美しい。


眩しそうに目を細めたジェラールが、ルイーズに向かって蕩けるような笑みを浮かべた。


「今日のお召し物も素敵ですね。雪の妖精と見間違えてしまいました」

「ありがとうございます。…そんなに褒められたら、プレゼントを追加しなければいけないかしら?」

「いいえ、とんでもない。私にとってはルイーズ様がいらしたことが何よりのプレゼントですので。これ以上を望んではバチが当たってしまいます」

「まぁ、ふふっ」


今日はデュマ侯爵家としての正式なお招きなので、少々堅苦しいのは仕方がない。王女と息子の和やかな雰囲気を見て安心したのか、ルイーズに向かってデュマ侯爵と夫人が揃ってにこやかに腰を折った。


「王女殿下におかれましては、まことにご健勝のこととお慶び申し上げます。本日は我が息子の誕生日パーティーにお越しくださいまして、心より御礼申し上げます。侯爵家一同精一杯おもてなしさせていただきますので、どうぞお寛ぎくださいませ」

「デュマ侯爵、ジョセフィーヌ様、御子息のお誕生日おめでとうございます。わたくしも本日は楽しみにして参りましたの」

「ありがたいお言葉でございます。…さぁ、こちらへ」


通された部屋は、ちょっとした舞踏会が開けるぐらいの大広間だった。王族を招待するとあって気合いを入れたのか、室内楽団まで呼んであってルイーズは少し驚いた。


「ルイーズ殿下、よくおいでくださいました」

「デュマ夫人、ごきげんよう」

「本日は楽団も呼んでありますので、ぜひジェラールと踊ってあげてくださいな」

「…っ、えぇ。そうですね、ぜひ」


(……なるほど。この楽団は祖母であるデュマ夫人の差し金なのね)


ルイーズの顔を見るなり孫息子とのダンスを勧めてきたデュマ夫人の勢いに押される形で思わず頷いてしまうと、それを聞いたジェラールが嬉しそうに顔を綻ばせた。


「ルイーズ様、僕と踊ってくれるの?」

「これ、ジェラール!言葉が崩れていますよ!」

「よろしくてよ、デュマ夫人。せっかくのお祝いの席だし、こんなに同級生が集まっているのだもの。わたくしも無礼講でいきたいわ」

「さっすがルイーズ様。話が分かるね」

「ジェラール!」

「はーい、気をつけます」


夫人に見えないようにペロリと舌を出したジェラールが、ルイーズににっこりと微笑む。隣でイレーヌが「美少年のテヘペロいただきました!」と小声で言うのが聞こえて、つい吹き出しそうになった。


そんなやり取りをしていると、すでに到着していたロッシュブール公爵家の兄弟が3人揃ってこちらにやってきた。


「ルイーズ様、ご機嫌麗しゅう。今日のドレスもよくお似合いですわ」

「こんにちは。こちらのドレスもセリア・ランベールなの?」

「はい。この冬の一押し素材だそうです」

「…そう言われれば、不思議な布ね」


王都で人気のデザイナー、セリア・ランベールの広告塔になっているカミーユは、いつも最新の素材とデザインのドレスを着ている。広告費も兼ねて普通よりも安く提供してもらえるらしい。今日のカミーユは、濃いめのボルドーに近い色の光沢のある生地のドレスを着ている。後ろに大きなリボンがついていてとても可愛らしいデザインだが、光の加減によって少し違う色にも見える面白い生地だ。


「他の色でも作れるそうなので、ご興味があれば王城に参上するよう申し伝えますわ」

「そうね…お願いしようかしら」

「かしこまりました」


にっこりと笑って腰を落とすカミーユは、相変わらずの美少女ぶりだ。この姿をジャックに見せてあげたかったなぁと思っていると、ルイーズの前に高い影が差した。


「今日も綺麗だよ、ルイーズ。君を一番に見ることができなかったのが悔やまれるよ」

「アラン様こそ…今日も素敵よ」

「そうかい?ありがとう」


濃紺のタキシードに身を包んだアランが、嬉しそうにグレーの瞳を細めてルイーズの手にキスを落とす。頭一つ分ぐらい高いところにある顔を見るために、ルイーズは自然と見上げる形になる。甘い雰囲気でじっと見つめ合う2人の間に、本日の主役であるジェラールがズイッと割り込んだ。


「はいはい、ストップ。なんでアランが主役みたいになっちゃってるの?ここは僕の誕生日パーティーなんだけど」

「あぁ、そうだったね。ルイーズが可愛くて、つい」

「つい、じゃないよね?わざとだよね?」

「そんなわけないじゃないか。被害妄想も大概にしないと、ルイーズに嫌われるよ?」

「ルイーズ様はそんなに心が狭くないよ。…ね?そうでしょ?」

「え、えぇ…」

「席に案内するよ、ルイーズ様」


素早くアランからルイーズの手を奪って歩き出したジェラールを見て、「プッ…」と小さく吹き出す音が聞こえた。どこから聞こえたのかとルイーズが周りを見回すと、部屋の端の方で楽しそうにこちらを見ている赤い髪の少年と目が合った。


新年明けましておめでとうございます。

年末は忙しすぎて更新できませんでした…。

まだまだ試練の時が続きますが、少しでも皆様の楽しみになれるように書き続けていきたいと思います。

未熟な私ですが、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

活動報告も久しぶりに更新しましたので、よろしければ覗いてやってください。

今年もどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。