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訓練場の中央に立つフィリップは、獲物を狩る獰猛な肉食獣のような目をしている。相対するアルベールも、さっきまでの穏やかな表情からは想像もつかないような冷徹な戦士の顔つきへと変わっていた。


(すごい気迫……)


周囲の温度が一気に下がった気がした。ピリピリと空気が震えるような振動を感じる。緊迫した雰囲気の中でこれから始まる魔法のぶつかり合いを、もっと近くで見たい…!!


訓練場を囲む柵へと近付いていくと、柵に手が触れる手前で側に控えていたバルドがそっとルイーズを制した。


「危ないのでお下がりください、殿下」

「え…柵の外でも危ないんですか?」

「この柵より内側には結界が張ってあります。柵に沿っていくつか魔石が置いてあるのが見えますでしょうか?」


言われて見てみると、柵の内側に数メートルおきに赤い魔石が埋め込んである。


「…見えます。あれを使って結界が張られているのですか?」

「はい。先程ガルニエ公ご子息がそのうちの1つに触れて結界を起動させておられました。結界を張ることで内側での衝撃が外に影響することを防いでいるのですが、逆に結界内では安全の保証はできません。結界に触れると体が痺れますので、柵にはお触れにならないようお気をつけください」

「わかりました。気をつけます」


言われた通りに柵からは少し距離を取る。結界が張ってあるのにもかかわらず、空気の振動を感じたなんて凄すぎる。


ルイーズがバルドと話している間に模擬戦が始まっていたらしく、ドーンという大きな音に顔をあげて見れば、少し距離を取った2人の間で大きな水煙が上がったところだった。


「な、なに?なにが起こったの?」

「殿下の炎攻撃をガルニエ殿が水で防いだようです」

「…炎に、水?………ウソでしょ……」

「いいえ、嘘ではありません。殿下は炎と風による攻撃を、ガルニエ殿は水と氷による攻撃を得意とされております」

「………」


水煙が消えた後には、フィリップが炎のトルネード攻撃を仕掛け、それをアルベールが氷の壁で防いでいた。


(すごい…すごすぎる……これ本当にガチなやつだよ!!)


結界の外とはいえ、大きな音や、地響きのような振動、炎の熱は伝わってくる。前世のアニメやゲームでしか見たことのない光景が、目の前で繰り広げられていた。天井の高さから考えてこのレベルもあり得るかもとは思っていたけど、画面の中で見るのとは迫力が桁違いで比べものにならない。


氷の壁が炎のトルネードで溶かされると、今度は攻撃に転じたアルベールが水の渦をフィリップへとぶつけた。自らの体を風に乗せて上空へと逃れたフィリップが、上から幾つもの細かい火の玉をアルベールへと放つ。水の渦を操ってアルベールが火の玉を受け止めると、またもや水蒸気爆発を起こしたように訓練場に水煙が上がった。


息をつく暇もないほどに次々と魔法を繰り出していく2人の動きを目で追うだけでもいっぱいいっぱいで、細かい動きまではよく分からない。ルイーズが今まで見たことがある魔法は、ピエールが手の上で風を起こしたりするようなものだけ。本物の魔導士ってこんなにすごいの!?


(まさに炎の王子と氷の貴公子ってかんじ…)


思わず脳内に浮かんだ単語が、我ながらかなりイタイという自覚はある。でも2人ともめちゃくちゃかっこいいんだもの!これは興奮しないほうがおかしいって!!


ド迫力の魔法の応酬にルイーズがうっかり思考を飛ばしていると、火の玉を放った後上空から着地したはずのフィリップがいつのまにか訓練場の端の方に立っていた。フィリップの目の前にアルベールもいる。


(…え、今……?)


水煙が上がっている間に、2人とも身体を風に乗せて移動したのだろうか?


フィリップが素早く繰り出した蹴りをしゃがんで避けると、アルベールはそのまま足払いをかけて受け身を取りながら横へ転がる。前方へ手をついて回転したフィリップが着地した先へと、今度はアルベールが氷柱を放った。


手から火炎放射のように炎を放って氷柱を消滅させるフィリップ。そのままの勢いでさらに襲いかかる炎をアルベールが水の渦で迎え撃つ。更に攻撃態勢に入ろうとしたフィリップだったが、「はいはい、ストーップ!!」というアルベールの声でピタリと動きを止めた。


「……何故止める、アルベール?」

「何故って……僕一応勤務中なんだけど。すっかり忘れてない、フィリップ?」

「そういえばそうだったな」

「全く君は…。本当に戦闘バカなんだから」

「バカとはなんだ、バカとは!!」

「だって本当のことでしょ」


さっきまでの緊張感は一体どこへやら。2人のやりとりはまるで漫才コンビのようだ。


フィリップを軽くいなしたアルベールは、スタスタと訓練場の端まで歩くと、赤い魔石に触れて結界を解いた。それから、柵に掛けていたマントを掴んでこちらへ歩み寄ってきた。フィリップが衣服の乱れを直しながら遅れて訓練場から出てくる。


「…仕事中に付き合わせて悪かったな」

「可愛らしい王女様のためなら、これくらいお安い御用さ」


そう言ってウィンクしてくるアルベール。……ここにもイケメンが。


「お2人とも本当にすごくて、とても迫力がありました!アルベール様、お忙しいところどうもありがとうございました」

「喜んでいただけて光栄ですよ。…仕事に戻らなければなりませんので、残念ですが私はこの辺で。また今度ぜひゆっくりお茶でもいたしましょう」

「はい!」

「じゃあ、また明日仕事場で」

「あぁ、またな」


ヒラヒラと手を振って執務棟の方に戻っていくアルベールに、フィリップが軽く手を挙げて見送る。


「お兄様、模擬戦を見せてくださってありがとうございます。お兄様もアルベール様もとても素敵でした…!!」

「…そうか?妹に褒めてもらうというのも、なかなか悪くないな」


嬉しそうにニヤニヤするフィリップ。ついさっきまでの野生的な顔つきとは打って変わって少し残念なイケメンと化した兄の顔を見ながら、ふとルイーズは思い出した。そういえば、さっきの模擬戦で気になったことがあったんだった。


「あの、お兄様…さきほどの模擬戦について、一つお聞きしたいことがあるのですが……」

「うん、何だ?」

「…はい。お兄様が放たれた火の玉をアルベール様が水の渦で防がれた後、私にはすぐにお2人が訓練場の端に移動なさったように見えました。水煙が上がってよく見えなかったのですが、どのようにしてあのような短い時間であの場所まで移動できたのですか?」


フィリップはルイーズの質問に「あぁ、それか」と頷いた。


「それを説明する前に、ルイーズは魔法についてどれくらい知っている?王家をはじめ、強い魔力を持つ人間が高位の貴族に多いということは知っているか?」

「はい、知っています」

「…では、ある特定の一族にのみ継承される能力については聞いたことがあるか?」

「以前に少しだけ本で…そういうものが存在するということは読んだことがありますが、具体的には知りません」

「そうか。そこまで知っているなら話は早い」


顎を撫でながら、フィリップは軽い調子で続けた。


「あれは、ガルニエ家の血を引く者のみが使える《空間魔法》というものだ」

「……《空間魔法》?」

「そうだ。空間を歪めて物や人を瞬間的に移動させることができる。…もちろん、移動できる距離には限界があるが。さっきの場合、俺とアルベールは自分達を移動させたということになるな」

「……要するに、瞬間移動、ということですか?」

「そういうことだ」


瞬間移動。


自ら口にしたその言葉で、ルイーズは自分が魔法を使った時のことを思い出した。


(……いや、でもちょっと待って。今、お兄様は何と言った?ガルニエ家の血を引く…?)


「…ガルニエ家の血を引く方だけが使える、とおっしゃいましたが、それはどれくらいの範囲の方を指すのですか?先祖にガルニエ家の血を引いている方がいればいいということなら、貴族の中でもかなり数は多くなるのでは…?」

「そうだな…今までの記録だと、良くて直系から三代までだと聞いている。つまり俺の場合だと、俺の子供は使えるが孫はダメだということだ」

「直系から三代……」


フィリップの話を聞きながら、ルイーズはだんだん血の気が引いていくのを感じていた。


(私は、ガルニエ家の血を引いてはいない……はず。なのに、どうしてあの時パレを瞬間移動させることができたのだろう?)


父は「他人に知られると厄介な魔法」だと言っていた。それに、ジャックの話を聞いた時の母の動転ぶりも、今考えるとやっぱり不自然な点が多い。


(……一体どういうこと?私の父親って、国王陛下なんじゃないの…?)


それとも、パレが消えたというのは、単にジャックの見間違いだったのだろうか。


明らかに様子がおかしいであろうルイーズを驚いていると捉えたらしく、フィリップがさらに爆弾を落とした。


「……初めて聞く話で驚いたか?確かレーヌ家にもあったと思うぞ。《過去視》だったか?」

「もしかして……それは私の祖父が使っていたのでしょうか?」

「おそらくそうだと思うが……。すまない、俺も幼かったゆえレーヌ前伯のことはよく知らないのだ。叔父上は共に戦にも出ていたし、詳しく知っていると思うのだが」

「そうですか…」


《過去視》がルイーズに使えるかどうかは分からないけれど、試してみる価値はある。もし使えるとすれば、自らの出生にまつわる過去の出来事について何かわかるかもしれない。


「……お兄様。魔法の訓練というのは、何歳からできるのですか?」

「魔法に興味を持ったのか?」

「はい。魔導士になるかどうかは別として、ちゃんと使えるようになりたいです」

「そうだな。…普通は魔力の安定する12,3歳頃から訓練するのが一般的だが、王家の者は魔力も強く自分の身を守る必要もあることから、10歳前後には訓練を始める。俺もそうだった」

「では、あと2年ぐらいしたら始められるのですね」

「あぁ。父上の許可さえあればな」


ルイーズはこの時気付いていなかった。この選択がゲームのシナリオに沿うことになるのだということに───。


今回は苦労しました…。

想像力の乏しい私なりに頑張って書いてみたのですが、読み返してみるとまるでポ○モ○バトルのようになっていました……!!

申し訳ありませんm(_ _)m

もっと精進したいと思います。


面白いと思っていただけましたら、評価頂けると幸いです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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