78話 「首都攻防戦」④
20160516公開
≪中の状況を≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。視覚に投影します≫
俺たちは『ラカ・クヌ・ナク』の群れの体力を温存させる為に、逸る気持ちを抑えて東西街道を平均時速13㌔ほどで東進して来た。
『中の国』の首都「ファティエル」が見えてから一旦北側に進路を取り、1㌔北に在る橋を渡って大回りで東側に出て『新防壁』の破壊部から進入したところだ。すぐに『チイサイノ』の半分を使って、半円状に展開させて橋頭堡を確保する。
「ファティエル」全域を捉えた衛星写真上に人間、『益獣』、『害獣』の現在位置が無数の点で表示された。
東側の「外市街」と「新市街」はほとんどの住民が避難をしていた。その人口を受け入れたファティエル川西側の「新市街」と「外市街」は東側から避難して来た住民でごったがえしている。
だが、幸いな事にパニックには陥っていない。
対して「旧市街」は意外と残っている人間が多い。ここで逃げないという姿勢を見せる事で覚悟を宣言する気なのだろう。まあ、ファティエル川という自然の濠が存在する事が心理的に大きいのだろうが。
だが、ファティエル川東側は全く様相が違っていた。まさしく「混乱」という一言だった。『益獣』と『害獣』が至る所で動き回っている。『害獣』たちは群れも作らずにバラバラに『益獣』に襲いかかっていた。特に『東の国』からやって来た難民が作り上げていた「外市街」では密度が濃い。『益獣』の9割と『害獣』の8割くらいがそっちに入り込んでいた。
唯一秩序立っていたのは、東西街道と交わる位置に造られた「新市街」の城門を背にした200人くらいの人類くらいなものだ。
≪千恵ちゃん、この周辺の『害獣』に大きい方はどれくらい居る?≫
≪ちょっと待って下さいね・・・ 多くても10頭ですね、てんちょーさん≫
≪『ラカ・クヌ・ナク』、『ワカイノ』と『チイサイノ』全部をこの一帯に居る『害獣』の掃討に回してくれ。この先は『オオキイノ』と『フツウノ』で行く。あの壁の中は家の残骸も残っているから見通しが悪いし、道も家の瓦礫だらけだ。機動力は使えない。そこで、一旦、南の端まで行って、壁を壊して中に入る。そこからは北に向かって片っ端から敵を踏み潰して行く≫
≪ワカッタ≫
『矮級敵獣』98頭と『標準害獣』919頭がそれぞれの班を作って南北に分かれて行った。
彼らも実戦を何度も経験したので、この状況下なら危なげなく戦えるだろう。むしろ問題は800頭の『害獣』を相手にする俺たちだ。
≪まずは正面の壁まで進もう≫
輪形陣を作って、東西街道沿いに『旧防壁』まで進む間に10頭ほどの『大型害獣』に遭遇したが、外輪の『フツウノ』にあっさりと殺られた。もう『大型害獣』であろうが、『巨大害獣』であろうが、何度も戦った事で倒す為のノウハウは身に付いたって事だ。
『旧防壁』は城門ごと幅10㍍に亘って破壊されていた。
≪士長とあずさ君は、悪いが『オオキイノ』20頭と『フツウノ』40頭でここの蓋をしてくれないか?≫
≪いいですよ。ここを塞がないと意味が無いですからね≫
≪分かりましたけど、私、あまり役に立たないですよ?≫
≪いやいや、あずさ君、怪我した子を治療をして上げるだけでも大助かりだ。『ラカ・クヌ・ナク』、ここに残す『オオキイノ』と『フツウノ』を選んで、怪我したらあずさ君の治療を受ける様に伝えてくれ≫
≪ワカッタ≫
『旧防壁』を右手に南下を開始したが、南の端に辿り着くまでに4頭の『大型害獣』に遭遇したが、これも瞬殺だった。
一旦、集団を停めて、俺は『膝突』から降りて、1人で『旧防壁』に向かった。
『旧防壁』から50㍍ほどの距離を開けて、片膝をついてM3銃架に載せられた12.7㎜重機関銃M2を発現させた。
以前、石井青年と発現させる兵器の話をした時に『さすがにそれは大人げない』という事で、お蔵入りしていたのだが、今回は対生物に使用しないので発現させた。
槓桿を引いて戻す。遊底掛け金外しを止め金で固定する。ざっと『旧防壁』に開ける突破口をイメージし終えたら、引金を引き続けながらイメージに沿わせて撃ち続けた。
十数秒後には、『旧防壁』の外壁を形作る煉瓦に幅3㍍ほどの凹形のミシン目が刻み込まれた。
俺は『旧防壁』まで歩いた後で、12,7㎜×99㎜ NATO弾に抉られた煉瓦の強度を調べた。
5,56㎜の10倍以上の重量を持つ弾頭だけに、弾痕は全て貫通していた。
≪『ラカ・クヌ・ナク』、何頭かで押してくれ≫
≪ワカッタ≫
1分も掛からずに突破口は開いた。
12.7㎜重機関銃M2を消して、ハチキュウを発現させて『膝突』を呼んだ。
俺は愛馬に乗りながら、『ラカ・クヌ・ナク』に頼む。
≪『ラカ・クヌ・ナク』、吠えてくれ。それでこの付近の混乱を一旦収める≫
『害獣』系の種は聴覚がかなり退化しているので、それで大きな効果を得られるわけでは無い。むしろこちらに何か居るという事に気付くだろう。
だが、『益獣』には効果が有る。今の様に走り回られるよりは多少は動きを鈍らせた方がやり易い。
≪ワカッタ≫
『西の国』の荒野で知った事だが、『ラカ・クヌ・ナク』はかなり大きな吠え声を上げられた。
そして、これは彼女も知らなかった事だが、彼女の吠え声には『益獣』の動きを一時的に鈍らせる効果が有った。
『膝突』の首筋に手をやって、軽く撫でてやる。耳がパタッという感じで寝たので『ラカ・クヌ・ナク』に命令した。
≪やってくれ≫
俺と千恵ちゃんの2人が両手で耳を塞いだ事を確認すると、彼女は大きく息を吸い込んで、吠えた。
戦場に、この戦いが最終段階に入った事を知らせる雷鳴の如き鳴き声が響いた・・・・・
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