50話 「荒野の戦い」Ⅴ
20160409公開
あずやんこと岡田あずささんと、最近はよく相談をしている事はお互いの母親には内緒だった。
相談の内容は好きになった人にどうすれば上手く振り向いてもらえるか?というものだ。
俗に言う「コイバナ」だけど、歳が離れ過ぎていることからこっちを子供扱いする事が大きな問題だ。
でも、最近は頼られる事も増えたので、チャンスが見えて来た。
頑張れ、わたし!
でも、こっちに来るまではこんな事で悩む日が来るなんて想像も出来なかった・・・
次の『敵獣』はかなり元気だった。反応も衰えていないし、両腕と尻尾を上手く使って取り囲もうとしている歩兵をぎりぎりで寄せ付けていない。
ただ、右足に炎弾を数発喰らったせいか、その機動力が封印されている。
わざと視線に捉われる様に俺は真正面に立って、ハチキュウを構えた。
まあ、そんな事をしなくても、人間の内包ピコマシンの濃度の違いを感じているらしい『敵獣』は早かれ遅かれ俺に気付いていた筈だ。
「全員、下がれ!」
そう叫んだ俺の本当の狙いは、歩兵に向けてだけでは無かった。
一瞬の間を開けて、取り囲んでいた歩兵が後ろに下がった瞬間に炎弾が『敵獣』の右顔面に命中した。
その炎弾によって『敵獣』が堪らず顔を持ち上げて絶叫とでも言うべき鳴き声を上げた。
がら空きになった喉元にハチキュウから放たれた炎弾が吸い込まれて行く。
崩れ落ちて行く『敵獣』から視線を陣地に向けた。
千恵ちゃんがサムズアップをしていた。俺もお返しをした。
ああ、戦場でする様な行為では無いのは分かっている。
だが、生き物を殺させるなんて、女子中学生にさせて良いような行為では無い。
せめて心理的な負担を軽くする事くらいはして上げなくては、大人として無責任だと思う。
さすがにそろそろ一息付きたいが、その間に殺される歩兵が発生すると悔やみ切れないので4頭目の『敵獣』に向かった。
4頭目は4つ有る目が全て炎弾と槍で潰されていた。それが逆に凶暴性を増しているのか、これまでで一番活発に動いていた。そのせいで歩兵は取り囲むどころか、逃げ惑っていた。
俺という存在に気付いたのか、一瞬動きを止めると、俺の方に向かって走って来た。
俺を咥えようとする首の動きを読んだ後で、俺は後ろに跳んだ。
それまで俺が居た空間には、10個の炎弾が浮かんでいる。
その内3つを口の中に取り込んだ『敵獣』が慌てて吐き出そうと動きを止めた瞬間にハチキュウから放たれた炎弾が正確に真正面を向いている下の両目の中間に命中した。
3発は弾かれて上空に跳弾したが、残る3発が頭蓋骨を突き破った。
次は右の方で暴れている『敵獣』と、真正面の10㍍先で歩兵の1人を口に咥えた『敵獣』にするかだが、俺は迷う事無く真正面に加速した。
理由は簡単だ。未だ意識が有る歩兵の目が俺を捉えて、希望を表情に浮かべたのだ。
多分、間に合わない。
だが、俺に気付いた『敵獣』が咥えている歩兵を邪魔者と認識すれば、もしかすれば放り出すかもしれない。少しでも奇跡の可能性を上げる為にハチキュウの銃口は敢えて下向きにしていた。
勿論、そんな希望はあっさりと砕かれた。放り出すよりも噛み砕いた方が早いと判断した『敵獣』は歩兵を真っ二つにした。
血で染まった口を開けて俺を威嚇した『敵獣』に向けて、ハチキュウを使わずにインターフェイス経由で最大出力の炎弾を放った。しゃがむ事で射線を上向きにした炎弾が着弾すると共に『益獣』の顔面が爆ぜた。
「五つ・・・」
俺は我知らず、呟いていた。
あと2頭。
視線を右へ向けると、10㍍ほど離れた場所で、真正面から槍を使って牽制していた槍兵が槍を右手で払われて身体が泳いでいた。
ここからでは、位置関係の問題で射線を取れない。取り囲んでいる槍兵が邪魔だった。
間に合わないと分かっていたが、走って向かう。
身体を泳がせた槍兵が隣で大盾を構えていた槍兵にぶつかって、2人とも倒れた。
あと4㍍。
俺に気付いた手前の僧兵が脇にどいてくれたので射線が取れた瞬間に走りながらハチキュウを構えたが、『敵獣』が倒れた2人を同時に薙ぎ払う方が早かった。
槍兵の上半身が俺の方に飛んで来たが、受け止める事でロスする時間が致命的な隙を生むので一瞬のサイドステップで躱す。槍兵の血を大量に浴びるが目を閉じる訳には行かないので、右目だけ閉じて左目でヤツの動きを追った。
あと2㍍。
真っ赤に染まった視界の中で、俺に視線を合わせていた『敵獣』が頭を下げて急加速して来た。
とっさに前傾姿勢を取りながらハチキュウを前に掲げて、その突進を受け止めるが、運動量の差で押し負ける。こっちで使われているブーツを軍靴風に改良したブーツが悲鳴を上げながらなんとか持ちこたえてくれた。停まった時には5㍍は押し出されていた。
『敵獣』が顔を振って俺を跳ね飛ばそうとするが、ハチキュウの銃床でカウンターを取った。とは言え、致命的なダメージでは無いので、すぐにもう一度首を振って来る。もう一度カウンターを取って、この距離でこの攻撃では俺の方が有利だと思わせた。3度目、4度目とカウンターを叩き込むと、ヤツも埒が明かないと思ったのか、距離を置いて腕の攻撃に切り替えようと首を上げた瞬間にハチキュウを胸の前で掲げたまま炎弾を撃ち上げた。
今回の襲撃のパターンから俺たちの事を学習していると考えていたが、やはりそうだった。
さっきの『敵獣』の反応から確信をしていたが、ハチキュウは一方の端からしか攻撃出来ないと決めつけていた『敵獣』は無防備な喉元に3発の炎弾を受けて崩れ落ちた。
「六つ・・・」
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