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平成之半妖物語  作者: アワイン
7-2章 知っていく一面深化していく絆
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5 学校の怪異2

「まず、本題に入りたい。俺達はある怪異と遭遇したにはしたが、数が多いんだ」

《数? 何体だい?》


 澄に問われ、直文は答える。


「四体。途中で見かけた少女の像に、姿見の鏡に写った少女。包丁を持って襲いかかってくる少女か」

「あっ、逃げてるときに壁にめり込まれた人を見たような気がします。多分、五体かと……」


 途中で ■が情報を追加し、直文は驚いた。


「はなびちゃんはそこまで見ていたのか。ごめん、俺は君を逃がすことに必死だったから……」


 謝る彼に名無しの少女は「気にしないでください」と笑う。二人の話を聞き、澄は難しそうな声を出した。


《……数がいるね。学校だからという理由もあるだろうけど……結界内に怪異を多く閉じ込めてもその結界の術者にメリットはないはず》

《先輩。もしかして、七不思議の類じゃないですか?》

《七不思議……確かにありえるかもしれないね。奈央》

《えへへ……あっ、でも、七不思議と言っても七つ以上の場合もあるから、どちらかというと学校の怪談かも……》


 奈央の言葉に直文は考え込む。


「……あり得るだろう。けど、俺はこの学校で不思議な話は聞いたことあるぐらいで、七不思議は聞いたことないような気がする。前の俺は知っていたかもしれないけれど……」

「そもそも、私達の見てきたものが現実の学校にないものでした。私が見たものは壁のシミで人の顔に見えることはあるかもしれないけど、浮き上がって見えることはなかったような気がします」


 名無しの少女が話すと、携帯から悩ましい奈央の声が聞こえた。


《……うーん、なんか思い出しそうなんだけど……情報が少ないかな……》

「奈央ちゃん。どうすればいい?」


 電話画面に向けて ■は質問すると、間をおいてから奈央が答える。


《調査の続行かな。まずはオカルトの定番。音楽室と理科室かな。学校の七不思議では人体模型が動くとか、ベートーヴェンが喋るとか言うから》

「音楽室は五階にあるから……近いのは理科室かな。問題は怪異に襲われないようにすることだけど……」


 名無しの彼女は考えていると、直文が探るように廊下と天井と床下を見る。


「……移動している怪異は二体だけ。他は一箇所に留まっている感じだ」

「移動する怪異……男子学生の子と包丁のあの子のことですね。包丁の子は近くに来ていませんか?」

「今のところは。けど、校舎内にいるのはまずい。君の強力な霊媒体質のこともあるから、遠ざけておきたい。校舎の外に出るよう仕向けよう。顕現」


 直文は人形の紙を二つだし、床に二枚ほど投げ飛ばす。今の直文と名無しの少女がドッペルゲンガーのように現れた。直文の命令をすでに知っているのか、二人は戸を開けて廊下を出ていく。

 二体の式神は階段の方に走っていく。通り過ぎていく足音を聞きながら、遠くから濁ったような声が響いた。

 直文と ■は部屋から出てこっそりと窓を見ると、二体の式神は外を出て、運動場に向かう。二人を追いかける方に包丁の少女は走っていた。

 うまく言ったらしく、少しの間は囮になってくれるはずだ。遠くに行ったのを確認し終えたあと、直文が携帯に声をかけた。


「田中ちゃん、とおるちゃん。俺達は調査を継続する。何かわかったら連絡する形でいいかな」

《わかった。なおくん、はなび。無事を祈っているよ》

《はなびちゃん! 気を付けて! 久田さん、絶対に守ってくださいよ!》

「ああ」


 二人の声に直文は返事をする。通話が切れると、直文はポケットにスマホを仕舞った。直文と彼女は顔を見合わせて頷き、目的の理科室へと向かっていく。

 理科室に近づいていく中、ほんの僅かだがツンとするような酸っぱい匂いがする。直文は目を丸くしたあとに、理科室の戸の前に辿り着く。さらに異臭のようなものがし ■は眉間に皺を寄せた。だが、その前に確かめなくてはならない。戸に手を伸ばす前に、直文が制止の声をかけた。


「待って。はなびちゃん。匂いはわかっているかな」

「えっ、匂いですか……? ええ、はい……」


 返事に直文は険しい顔をした。


「この匂いはホルマリンだ。普通、ここまで臭うことはないし、学校で取り扱うなんてことはない。せいぜい、ここにあるのは生物の授業に使われるぐらいのホルマリン漬けのもののはずだが……」


 ホルマリン。生物や臓器の保存などで使われる水溶液。ホルマリンとはホルムアルデヒドの水溶液の通称であり、独特な匂いがする。しかし、ここまで臭うことはない。ホルマリンのもととなるホルムアルデヒド自体は有害であり、気化すると人体に影響がある。ホルマリンの知識はちゃんとあり、聞いた途端に彼女は理科室の戸から離れた。

 直文は廊下の窓を全開に開け、 ■に話す。


「はなびちゃん。俺がこの先に行く。この程度なら俺は平気だし、理科室の窓と戸を開けて換気し、中に入れるようにしておく。……いいよって言うまで、理科室から離れて待っていてほしい」


 彼女は頷いて理科室の戸から少し離れる。直文は ■が離れたのを確認すると、理科室の戸を開けて、すぐに中に入る。独特な刺激臭が風に乗ってきて、鼻を抑えた。

 理科室から離れているのは正解だったようだ。直文が窓を開けていく音を聞きながら、匂いの元から近づかないようにした。

 風が入り込み、外の空気も入ってくる。匂いがだいぶ薄まってきたのを感じると。


「いいよ」


 声がして、彼女は返事をしようとしたが、すぐに口を閉じる。体が冷えて、良い予感がしなかったからだ。そして、直文の声ではない。しかも、声のした方向が近くの壁から聞こえる。


「いいよ」


 声のした方向に顔を向けると、壁に浮かんでいる男子学生の顔がニヤリと楽しげに笑った。


「いいよ。いいよ、いいよ、いいよ。ぃぃょ、いいよいいよいいよいいよいいよいいよいいよいいよいいよいいよいいよいいよ」


 しかも、彼女の耳元で言っていた。ねっとりとした声で言われ、冷や汗が流れ出てくる。


「いいよ、いいよいいよいいよいいよいいよいいっぃ゙」


 紙一重で彼女の横顔に足がドンっと置かれた。足ドンというやつだが、今の蹴り方は狙ってやったものであり、男の顔はその革靴により踏みにじられている。彼女はゆっくりと腰をついて顔を上げた。直文は光を思わせるほどの冷ややかな表情をしている。彼は自身の上着を脱いで腕にかけていた。目線を踏み潰した壁の顔に向けて唇を動かす。


「失せろ。雑魚」


 声も鋭さがあり、顔は引っ込めた。 ■は己の激しい心臓の鼓動を感じながら、直文は顔を合わせるのを見た。直文は申し訳無さそうに話す。


「ごめん。迂闊だった。まさか、壁の怪異が動くとは思わなかった」

「い、いえ……直文さんは悪くは」

「ううん、俺のせいだ。怖がらせてごめん」


 首を横に振って直文は落ち込む。表情も出ており、わかりやすく落ち込んでいる。記憶を失ってそんなに時間が経っていないとはいえ、大分表情が出てきている。彼女は彼の表情を見つめながら、優しく話した。


「……大丈夫です。それに、私も気をつけていませんでした。だから、お互い様です。この先は気を抜かずにいきましょう」


 彼女の言葉に直文は顔を上げて目を丸くした後、嬉しそうに笑う。


「うん、ありがとう。はなびちゃん。互いに気を抜かずに行こう」


 愛称を呼ばれた少女は力強く首を縦に振る。直文が手を差し出してくると、手を取って彼女は立ち上がった。匂いは先程よりもきつくなく、直文はいい顔をせずに理科室を見ていた。


「ホルマリンの匂いは、擬似でよく似せたなものだった。けど、ホルマリンにつけられていたのは……あまり君に見せていいものではない」

「えっ」

「遠目で一瞬で見たほうがいい。……だいたいわかる」


 直文の言葉を不思議に思い、戸から覗いてみる。

 大きな瓶のようなものの中に人体模型があるが、溶液の中に浮かんでいた。匂いの発生源は瓶に入っているもの。人体模型には模型のような特有のプラスチックのようなものではない。リアリティ、または生々しいほどの。

 気持ち悪くなりすぐに見るのを辞めて、直文に顔を向ける。


「直文さん。あれは、まさか」


 彼は頷き、答える。


「人体模型というが、模型ではない。あれは本当に人だ。そして、骨格標本は人骨だ」


 教えられたことに、 ■は口を両手で押さえ顔色を悪くした。


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