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平成之半妖物語  作者: アワイン
7-1章 再演もしくは誰ヵ之続編
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7 ep 名前と記憶を失った彼女と直文2

 彼女は目を開けた。夕暮れの光が顔に当たり、まばゆさに一瞬だけ目を瞑るが、身を起こして完全に開眼する。カーテンを閉め忘れたらしく、彼女はベッドから降りてカーテンをし、部屋の電気をつけた。


「……夢、だったんだよね」


 起きたばかりか、頭がぼうっとする。食器棚にあるマグカップを手にし、水道水から水を出して飲む。家の水道水よりも美味しく、ふぅと息をついた。洗いおきに置いて、彼女は時計を見る。

 夕食は五時頃に作られ、販売されるらしい。それ以外でも外にある店からお金を支払えば食材を買えると聞いた。記憶がない状態で料理を作るわけにいかず、彼女は外に出ようかと考えたとき、インターホンが聞こえてきた。

 怪しい人物なら出るなと教えられているが、ここに怪しいと言える人物はあまりおらず、誰かはなんとなくわかった。

 玄関の前に行き、靴を履いてドアを開ける。


「はーい……って、直文さん?」

「あっ、はなびちゃん。良かった。いた」


 無表情であるが、安心した声を出す。


「君は、夢を見たかい?」

「! はい、見ました。直文さんの小さい頃から十代の頃の姿を見ました。すごく可愛らしかったです」


 直文は頬を赤く染め、考えるように話す。


「男に可愛らしいって嬉しくないって茂吉から聞いたけど、君に言われると悪くないな」

「そうなのですか? でも、そう言われると照れますね……」


 頭を掻くのと同じように頬を赤く染める彼女に、直文は表情を柔らかくして話す。


「ああ、君も可愛らしかったよ。君があの夢の中でとっても元気な声を上げたのには驚いた。愛らしかったよ」


 真正面から優しい木漏れ日のような笑顔で言われ、彼女は顔を完全に赤くする。5歳の精神性でも恐らく羞恥心で隠れる。彼女は赤い顔をどうにかしようと、直文の表情について話す。


「な、直文さん! 夢の中だけでなく、今も顔に表情が出てます!

笑ってますよ!」

「……えっ、本当?」


 また目を丸くする彼に、 ■は何度も頷く。直文は頬を触り、困惑したように ■を見る。


「……えっ、なんで? こんなに早くに表情が出るってこと……あるのか?」

「記憶を失う前の直文さんは表情が豊かだったから……表情筋は固くなかったとか?」


 ドキドキしながら言うと直文は難しそうな顔をする。


「……それは、あり得るかもしれないけど……そうじゃないような?」

「理由、何でしょうね」


 何かわからず考えようとすると、直文から声がかかる。


「はなびちゃん。もしよければ、この先俺の表情の練習に付き合ってくれないか? 君の前だけで笑えただけでもいいけど、この先仕事に支障をきたすのは良くないから……」

「構いませんよ。直文さんには守ってくれている分の恩返しができて嬉しいです」


 にこにこと笑うと直文は無表情になり、頬を赤くする。無表情に戻った直文に、 ■は「あっ」と声を出す。


「直文さん、失礼します」

「ふぇ?」


 彼女が直文の頬を摘んだ。口角を上げたり下げたりを繰り返す。ほぐしているようにも見える。手を放し、彼女は楽しそうに笑う。


「笑顔が必要なときやリアクションがない時、無表情になったら私がこうして口角の近くをつまんでほぐすなんていかがですか? ちょっとした罰です」

「……罰になってないような……まあいいか」


 頬を触りつつ直文は笑みをこぼし、 ■に聞く。


「一緒にご飯でもどうかな? 食堂の料理の品が結構充実していたから一緒に見たいし、君と話してみたい。どうかな?」


 不安そうに聞く直文に彼女は表情を輝かせて、嬉しそうに笑う。


「はい、ぜひです!」


 その嬉しそうな笑顔は夜空に咲く大輪の花の如くであった。




 食事を取り終えた後、直文は彼女を部屋の前に送る。ドアが閉じ、施錠される音を聞いた後、直文は自室の方に足を向けた。

 歩きながら食事の風景を思い浮かべる。食堂のメニューが色とりどりになっており、西洋などの料理が独自に日本で進化を遂げていたのには直文はびっくりしていた。オムライスというものがあり、卵がふんだんに使われていたのにはさらに驚く。料理を見るだけでも、どれだけ時代が進んでいたのか改めて実感できる。

 直文は足を止め、無表情のまま様変わりした本部を見た。

 かつて木造の建築であったものはコンクリートや鉄筋などが使われ、道も舗装されて石畳のような道となっている。

 取り残された感覚はあるが、彼は呟く。


「──さみしい。でも、変わらないな」


 雰囲気だけは変わっておらず、何処か安心する。直文は名無しの少女のいる建物を見つめた。

 記憶を失う前の彼女は、どんなふうだったのか気になった。愛称にある通り、花火のような明るい笑顔を多く浮かべていたのかと思ったが、彼は首を横に振る。

 それはないと気持ちが訴えているからだ。今の名無しの状態で空白の名を呼ばれ続け、塗りつぶされた文字を見るのは現実に疎外感があるだけだ。

 胸にある切なさと悲しさ。怒りが直文に息をつかせる。胸の上を掴み、なぜ自分が彼女に対して多くの感情が湧き上がるのか考えた。

 最初に出会った時を思い出す。

 その時は見知らぬ誰かであったが、警戒心や不信感は抱けなかった。

 きょとんとした可愛らしい少女。見たときに優しく暖かく包み込むような思いが湧き上がってきた。彼女にまとわりついた力と抱いた思いから、前の自分が嫁にしたのかと思った。しかし、違うと茂吉や澄の反応で把握する。その後から彼女と話すたびに胸が苦しくなり、笑顔や優しい言葉に胸の鼓動が早鐘を打つ。

 今でも先程の行いを思い出すと、胸が熱くなる。顔が熱くなるのを感じながら直文は空を見て、言葉を吐く。


「……優しくて、笑顔が素敵な女の子。傍に居て色んな場所を見せてあげたい。幸せになってほしい。傍に俺が居なくても幸せであってほしい。でも、俺は──」


 言葉の先を出そうとし、彼は口を閉じる。うまく言葉にすることができないからだ。記憶がないことに悔しさを覚え、目が少しだけ熱くなる。前の自分がずるいと思ってしまったからだ。

 頬が熱くなり、苦しくなる胸を掴み、彼はなんとなくわかってしまった。


「……そうか、俺の思い出だけの記憶はなくても、はなびちゃん。彼女に対する思いだけは、渡したくなかったんだな」


 頬に流れる一筋の雫と共に腑が落ち、彼は空を見続ける。


「今の俺は、君に何ができるんだろう」


 ポツリとつぶやき、声をかけられるまで空を見続けていた。




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