夏休みが始まる!
「節度と計画の持った生活をしますように。では、これをもって二学年三組の一学期を修了といたします」
担任の女史の、このひと言で夏休みの開始が決定された。
ホームルーム終了の鐘が鳴ると共に、静かにしていたクラスが、ウズウズしていた心を一気に解き放つ。
夏休みだ!
高校2回目の夏休みだ!
静ひつな空気から一転して、ザワザワと活気溢れる教室内で、前方から冷ややかなオーラを纏った輝さんが、スーと、近付いてくる。
うん。
私の彼女は、やっぱりお嬢様だったんだな。
最近の距離の近さから、忘れそうになる。
と、同時に後ろからは騒がしい大きな声がかけられる。
「よー!!日衣心!夏休みだなあ!夏休みだなあ!?」
夏海と見文だ。
テンション高いのは夏海だけで、見文は隣でニコニコしている。
十年来の腐れ縁の2人。
この光景も変わらないなあ。
2人の関係性を知っても、やっぱり大事な友人という認識は変わらなかった。
動揺はしたけど.......山ほど。
「夏海は、夏海は、部活だな!あははは!夏休み意味ねー!」
「夏海。テンションおかしくなって、自分の事夏海呼びになってるよ♪私も部活だけどね」
やっぱり去年と同じく2人とも部活に精を出すようだ。
輝さんは?
去年は分からなかったけど、知り合えた今年なら......。
「私も週に1度の道場通いですわ、おひいさん」
それは良かった。
話が旨い。
遠慮なく輝さんを誘える。
「輝さん!よかったら、夏休み私と一緒にバイトしない!?」
ずずい!
と身を乗り出して、輝さんの手を両手で握る。
輝さんは、気圧されたように身を下げたけど色好い返事で、
「かまいませんわ、おひいさん。おひいさんの誘いを断る私ではありません。どんなお仕事ですか?」
「水族園!水族園の中の飲食店の調理と、レジ打ち!」
「ハッハッハッ!水族園か!イチャつくにはいいとこだなあ?輝さん!」
「夏海?働きに行くんだよ?でも、四六時中一緒に水族園なら、それは仕方ないか」
「いや、まあ、あの......。気をつけます、暴走しないように」
輝さんが、恥ずかしそうにうつむいた。
「ちなみに、花知華先輩の紹介で、先輩に教えてもらえるよ?」
『え!?2人だけじゃないの!?』
3人の息がピッタリと一つに......。
うらやましいなあ、もう。
特に仕出かした感じは、私の中には無かったんだけど、駄目でしたか?
──「ふん!花知華ちゃんの後輩君達だね?明日から入れる?そうかい、助かるよ。うん、履歴書も、もらうね。ふん!」
簡単な面接は5分も経たずに終わった。
履歴書もいったかなあ?
これ。
鼻息も荒く、個性的な店長だった。
40代前半ぐらいの、お腹がポッコリ出た脂っぽいおじさんだった。
悪い人には見えないが、個性的だ......。
「ふん!しかし、可愛らしい女子高生2人組みだな。看板娘ってやつか!夏休みの間、クソ忙しいけれど辞めないでよ?頑張って!ふん!」
「わ、分かりました、頑張ります。ありがとうございます」
『失礼しましたー』
輝さんと2人、店の小さな事務室から出ていく。
「面接という感じはしませんでしたわね」
「うん。身構えていったんだけど、あっさりして拍子抜けしたね」
「そりゃーオレの紹介だからな」
『は、花知華先輩!!』
真後ろに立たないで下さい。
心臓に悪い......。
輝さんと2人、声を揃えてしまった。
「なんて事はなく、よっぽどの人間じゃなきゃ、即採用なんだけどな。久しぶりだな、塚輝!明日から働いてもらうぜ?」
「この感じ......。温泉旅行以来の気がします!」
「おひいさん、お仕事です」
「そうだぞ~塚!こき使ってやるから、覚悟しろよ~。って、まあ元気そうで安心した」
京子ちゃんの事もあって、心配してくれてたのか。
やっぱり口は悪いけれど、良い先輩だなあ、花知華先輩。
「まあ、付き合い始めだしイチャつくのに一生懸命で、大丈夫とは思ったがな!」
うん。
この感じ、花知華先輩だ。
「まあ、今日は面接帰りに水族園の中ぶらついて帰んなよ。水族園デートだな♪バイトし出したら、嫌でも見れるがな!」
「ありがとうございます先輩。では、失礼しまして水族園デートさせていただきますわ」
「おー!去らばだ、塚輝!」
私の腕を組み、花知華先輩と別れて歩いていく輝さん。
はて、どうしたんだろう?
なんか急いでいるんだろうか?
「おひいさん!水族園デートですよ!」
ムフー♪
と、こちらも店長に負けじと鼻息荒くした輝さん。
ああ。
楽しみ過ぎて、急いだのね。
「望まれるままに。むしろ望みどうりだね、どこから回ろうか、輝さん♪」
「淡水魚のコーナーから参りましょう!」
バイトの面接帰りの水族園デート。
乙女2人のテンションが急上昇!
輝さんとの夏休みが始まった!
続く