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律渦は災禍  作者: sniper
第一部
20/27

教授その壱

お待たせしましたすいません。部活や講義やレポートやエロゲで時間が無くて……。

今度は気をつけます!(根拠のない宣言)

「単刀直入に言うわ。神楽ちゃんに手伝ってほしい」

「まぁ、そうですよねぇ」

律渦の様子からも、まるで進歩が無いのは解っている。朱音さんたちが何をやっていたのかは、毎朝のお迎え以外把握していないが。

「ところで、あれから結局何をしたんですか?」

私は好奇心からそう訊ねた。すると、麻里さんが微妙な笑顔を浮かべて答えた。

「まず遊びに誘ったんだよ。水曜日の午後だったかな」

「断られたけどね」

麻里さんの言葉に、半ば被せるように付け加える朱音さん。あの、ちょっと怒ってません?そんな朱音さんに苦笑いを浮かべつつも、麻里さんが続ける。

「何で?って訊いたら、レポートがあるから無理って」

「そうですか……」

確かに、まだ復学してない以上、継続的に提出しなければ単位認定を受けられない。その忙しさから誘いを断ったというのなら納得がいくだろう。しかし私がここ数日見るには、律渦はあまり忙しそうにも、ましてや疲れたようにも見えなかった。

「それで手の内が尽きたから、こうして私を召喚したと」

「恥ずかしいことこの上ないけどね」

朱音さんがやや不機嫌そうに返す。この前、私にあれだけ反対の意を示していた意見を採用せざるを得なくなってしまったのだから、こういう反応になっても仕方無い。しかし,

いつもクールな朱音さんにしては珍しい表情の変化だ。もしかして、眠気で理性が薄らいでいるせいだろうか。

「それで、協力はしてくれるのかしら」

「前も言いましたが、勿論引き受けさせていただきます。そもそも私の問題でもあるのですから」

私の大切な、実の姉のことなのだ。これでもし退学なんてことになったら、無力感と罪悪感に私まで大学に落ちてしまいそうだ。

「そう。なら今度は遠慮無く頼らせてもらうわ」

私の表情が少し真剣味を帯びていたからだろう。朱音さんは殊更に微笑んで頷いて見せた。

その様子を右側から見ていた麻里さんは、こちらもまた微笑みを(ただし何やら温かい眼差しで)浮かべて呟いた。

「前から思っていたけれど、神楽ちゃんって律渦が大好きだよね」

「えっ、まぁ……姉ですから」

藪から棒な言葉にふっと言葉を詰まらせるも、結局つまらない一般論を返す。

「ふふっ、否定はしないところがなんか可愛い」

が、それさえこちらをからかう材料にしてしまうお姉さま方。

「麻里さん……」

私は逃げるように目を逸らすしかなかった。



「ということで、律渦の通う大学に着いたわけですが―――」

「いやちょっと待ってください」

麻里さんの司会っぽい台詞をぶった切り、私は後部座席から窓の外を眺めた。

「あの……何ですか?この展開。意味が解らないのですけど……」

スタバを出た後、寄りたい所があるからついて来いと言われて、促されるままに車に乗り込んだのだが……。ちなみに、この軽自動車は朱音さんのものだ。免許を持っているのならよくあるが、大学一年で、しかも現役合格で車自体も持っているというのは珍しい。

「流石に許可も無く講義に参加させるわけにはいかないでしょう?だから教授にアポを取りに来たのよ」

困惑にきょろきょろしていると、朱音さんがちゃんと納得の出来る説明をしてくれた。

「成る程……」

流石に自由な大学といえども、高校生が平日に、しかも無断で講義に参加するというのは、いささか非常識か。理由を説明すれば割と寛容らしいので、けじめをつけるかつけないか、ということなのだろう。

「心配しなくても、今日は休日だから教授以外はほとんど図書館に篭ってるよ」

教員免許なんかとは違い、弁護士等の免許は単位を取るだけでは取得出来ない。論述式の問題もある司法試験の対策に、皆参考書の豊富な図書館で勉強しているようだ。

「……解りました。でも、事前に説明ぐらいはしてほしかったですね」

動揺させられたことに対する若干の憤りを籠めて麻里さんを見ると、ばつが悪そうにたはは~と笑った。



国立大学法人高田大学―――。

県内の国立大学の中ではトップレベルの学校でありながら、その規模の小ささ故にあまり全国的な知名度は無い。単科大学であり、法学部の中で弁護士コース、検察官コース、行政書士コースという風に分けられている。その制度と規模から、あまり人気が無さそうでレベルも大したことが無いように見えるが、法学部のある国立大学は県内ではここ高田大学が唯一なので、自然と人が集まり、レベルが高くなっているのだ。

「確かに、想像していた大学よりかは幾分か小ぢんまりとしてますね」

「あははっ、オープンキャンパスで皆そう言うよ」

私の率直な感想に、麻里さんが笑いながら返した。私達三人娘(一人偽)が歩いているのは、門をくぐって真っ直ぐ進んだところにある噴水の辺りだ。今は私がぐるりと辺りを眺めているせいで、三人とも立ち止まっているが。

「そもそも法学部だからね。大きな施設や設備が必要無いんだよ。これが理系だと、ここの三倍以上は確実にあるね」

麻里さんの言葉に、テレビで見た実験機材や、薬品などの保管された冷蔵庫を思い浮かべる。確かに、あれらの設備を備えるとなると、敷地自体にも、かなりの広さを要求されるだろう。

「でも、図書館だけは別格よ」

そう頷いていた私に、朱音さんが顎をクイッとしゃくりながら付け足す。その動きの延長線上を目で追うと、白く無機質な、地上六階建ての建物が目に映った。

「あれが図書館……。え?校舎じゃなかったんですかっ?」

少し他と様子が違うな程度にしか思っていなかったものが、まさか巨大な図書館だったとは。果たしてどれ程の蔵書が詰まっているのか。割と大きな市立図書館でも、この三分の一ぐらいだろうから……。ははっ、流石は法学部ということだろうか。

「凄いですねぇ……」

「うん。過去の判例とか論文が集まってるからね。あれぐらいないと足りないの」

私の感嘆の言葉に、麻里さんが自慢げに語った。確かに、過去の判例は、刑事・民事両方を合わせたら莫大な数に上る。裁判の資料というだけでかなり分厚くなるのだから、あれだけの大きさは必要だろう。

「で、そろそろ進もうと思うのだけど」

と、のんびりと眺めていた私達に、朱音さんがやや冷たい声色で先を促した。

「あっ、すいません」

「ごめんごめん」

二人して謝りながら、朱音さん先導の元、再び歩みを再開した。



私が参加するのは、水曜の一~三限とのことだった。

「お世話になるのは二人とのことでしたが……同じ人が二つも講義を担当しているのですか?」

事前に挨拶しに行く教授は二名ということだったから、三コマ出ると聞いて不思議に思ったのだ。そんな私に、麻里さんが振り返りつつ答える。

「いや、一つは二コマ連続で行うんだよ。三時間ぐらいぶっ通し」

「へぇ……大変そうですね。起きてられるか心配です」

“俺”なら絶対起きてられない自信がある。

「皆ノートを取るのに必死で、寝てる人なんてほとんどいないけれどね」

私の笑い交じりの台詞に、朱音さんが釘をさす様に呟いた。

「……それは本当に大変そうですね」

雰囲気上、絶対に寝られないことが判明した。これは前日早めに寝ないといけないな。

「さて、着いたわよ」

朱音さんが足を止める。認証装置の備え付けられた扉には、高倉研究室と書かれたプレートが貼りついていた。

朱音さんは扉の前に立つと、軽く握った裏拳を二回、軽く振るった。

コンコンッ

硬質なノック音が、人気の無い廊下に響く。

「………………」

中からの返事は無い。

留守なのだろうかと、麻里さんの視線を向けたその時。

ガチャリ

扉が開き、中から男性の声が聞こえてきた。

「はいはいっと……ん?なんだ三島か―――と、田井中に……誰だ?まぁいいや。お前が訊ねてくるなんて珍しいな」

現れたのは、一人の中年男性だった。ぼさぼさの髪に無精髭。くたびれた無地のTシャツにジーンズと、中途半端にだらしのない姿は「これが教授?」と首を傾げたくなるものだった。私に目を向けても興味無さ気にすぐ逸らしたことといい、全体的に無気力という感じだ。

「今日来るって連絡した筈だけど?」

「あっれ~?そうだったか」

朱音さんの冷ややかな返しに、男性は寝癖を弄りながら目を逸らした。どうやら口では言いつつも思い出したらしい。

朱音さんはそんな様子に溜息を吐き、不機嫌そうに眉を顰めた。話を進めるべく口を開く。

「今度の水曜の講義のことで、話があるんだけど」

男性は寝癖を弄っていた手でポリポリとこめかみを掻くと、何かを思い出す様に斜め上を見た。

「水曜?あぁ、そういや一年の講義あったな。まぁとりあえず入ってくれ。そこのお二人さんも」

怠そうな見た目とは裏腹に、話の運びは早い。私達三人は促されるまま、研究室の中へ足を踏み入れた。

どうでした?どうもしない?泣くよ?

ということで次回もお楽しみに!

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