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巫女姫の英雄暗殺奮戦記 ~亡国の生き残り皇女ですが、ガチムキ英雄の婚約者様を暗殺しなければなりません。どうしましょう~  作者: 高い塔のプリン


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1 亡国の皇女と婚約者

 人と魔族との長い長い戦いがやっと終わり、私、桃月は12年ぶりに自国へ戻れることになりました。


 歴史あるわが天和(アマナ)国の皇帝であられるお父様、皇太子たるお兄様、若将軍と呼ばれた次のお兄様も戦死なされ、まだ幼かった弟も亡くなって、皇室の生き残りは、人界最大の国家であるトラス聖王国に保護されていた私だけ。

 これからは、私が国を背負っていくことになります。


 人魔大戦の前線となったわが国の荒れようは、聖王国の王宮で5歳の頃から12年を過ごした私には想像もつきません。

 ですが、国を立て直し、残った国民に安寧の日々を与えることが、皇女として生まれた私の使命。この身と命を投げ打ってでもやり遂げねばなりません。

 たとえそれが、私の婚約者となった大恩ある聖王国の英雄を害することであるとしても。


「姫君、今からそのように力を入れていては、この先、とても持ちませんぞ」


 馬車の向かいに座っているリカード様が、笑いを含んだ目でこちらを見ます。

 人魔大戦を終わらせた英雄の一人、リカード将軍です。

 隣にいる侍女の桂が、肘でこっそり私をつつきました。

 私は胸の前で握りしめていた両手に気づいて、頬に血が上るのを感じました。はしたない。結婚前の淑女がとるポーズではありませんでした。


「し……、失礼しました」

「国を思うお気持ちは立派ですが、国元におられる大臣も神官も皆、姫のお味方です。彼らを頼って、できることを一つずつなさっていけばよろしいのです。

 もちろん、私も姫をお助けしますぞ。いくらでも頼っていただきたい」

「ありがとうございます。今までまつりごとも戦場も知らず、安穏と過ごした自分に何ができるかと思うと、つい……。お恥ずかしいですわ」


 将軍は、娘を見守る父親のようなまなざしを私に向けてくださいます。


「姫がお国の民を深く想っておられることはよくわかっております。素晴らしいお心です」

「いいえ、私が頼りないばかりに、聖王国の英雄であるリカード将軍に故国から離れさせることになってしまいました。

 今後、どうしたら将軍や聖王国に十分な返礼ができるでしょうか」


 そう、リカード将軍は聖王国から離れ、私と一緒に天和国へ赴くことになったのです。

 戦場では獅子奮迅の働きぶりで、勇者様とともに魔王を打ち取っただけでなく、王族として政治にも明るいリカード将軍は、平和が戻った今、トラス王と王太子を助ける聖王国の重鎮になるはずでした。

 人魔大戦が終結したとはいえ、国の英雄を他国の復興のために手放すなど、過去に例がありません。

 聖王国のご厚意には、感謝してもしきれません。


 なぜ、そんな英雄が私の国に来ていただくことになったのか。

 それは、若輩者の私一人では、まだ状況の安定しない天和を治めることが難しいからでした。

 治世の手助けをしていただくため、将軍のご威光をお借りすることになったのです。


「トラスには魔王を倒した勇者も聖女もおりますから、お気になさる必要はありません。

 長い戦争で、人の国も数が少なくなりました。歴史ある天和国の復興は、人類全ての望みなのです。私にその手助けができるなら、それこそ男の本懐というものです。それに」


 リカード将軍は、叔父上でいらっしゃるトラス王とよく似た笑顔を私に向けてくださいました。


「名目上とはいえ、私は姫の婚約者なのですから、好きなようにこきつかっていいのですぞ?」

「まあ、そんな」


 私はどう言葉を返していいかわからず、扇で口元を隠しました。

 桂が私を見て、声を出さずに笑っています。


「そんなわけにはまいりません……」


 王族の一人でもある将軍が故国を離れてわが国へ来るためには、私との婚約が必要でした。

 この婚約で、わが国はリカード将軍の知勇と名声と、その背後にある聖王国の大きな援助を得たことになります。

 私と将軍の歳の差は親子ほどもありますが、ほぼ亡国のような状況のわが国にとって、これ以上ない政略結婚のお相手でした。

 帰国の道中、同じ馬車に乗っているのも、私たちが婚約中だからです。

 といっても、まだ婚前ではありますから、私の侍女も一緒です。


 最初のうち、将軍は同乗を遠慮され、従者の方々と並んで馬を駆っておられましたが、国境を超えるあたりから、私の馬車に同乗していただきました。

 体躯に恵まれた将軍にとって馬車の中は窮屈かもしれませんが、こらえていただくことになりました。

 二人一緒に国に入るところを、道中の国民に見せなければならないからです。

 これからは、私と将軍が国を統治していくのだと知らしめるために。


「おお、小竜が飛んでいる。あの山に巣でもあるのかな」


 小窓を見ていた将軍が、空を飛ぶ竜を見つけたようです。


「どこでしょう? ……よくおわかりですのね。私には見えませんわ」

「少し遠すぎますかな。私は、視力だけは良いのですよ」

「まあ、ご謙遜を」

「飛竜は幸運の印。天和国は竜に守られているのですな」


 本当に竜に守られているのなら、魔族の進攻で国が壊滅することもなかったでしょう。

 ですが、私の故国を良く言ってくださる将軍のお心遣いは、素直に頂戴しておきましょう。


「天和国の風景は、将軍のお気に召しましたでしょうか」

「もちろんです。山々も緑が濃くて、実に美しい」


 荒れた山道は馬車の揺れもひどく、快適とは言い難いことも多い道程でしたが、平野の多い聖王国とは違う山々の景色をリカード将軍は楽しげに小窓から眺め、心からこの旅を楽しんでおられるご様子です。

 そして、戦場で竜に助けられたときのお話を私にしてくださいました。


「竜族は気難しいが、一度交わした約束は絶対に違えません。助力を頂けたのは僥倖でした」

「将軍の実直なお人柄が竜族にも伝わったのですね」

「さあ、どうでしょう。そうであったならうれしいのですが」


 将軍の人となりはトラスの王宮にいた頃からよく知っています。

 豪放磊落でありながら、謙虚で飾らず、人望の厚い方です。勇者様は将軍を師か父のように思っているとおっしゃっていました。

 尊敬できる方です。

 婚約が決まったとき、将軍は年齢差を気にしていて、嫌なら断ってもいいと私に言ってくださいました。婚約者という身分でなくても、何らかの形で天和国を助けることはできるだろうと。

 優しい方です。

 若輩者の私ですが、この方を失望させないようにできる限りの努力はしようと、このときは本心からそう思いました。


 馬車の旅もあと少しです。



読んでいただきありがとうございます。

この作品はコメディです。

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