過去のレイズを知る②ヴィル
ひとしきり泣いたあと、俺は袖で涙をぬぐい、恥ずかしそうに口を開いた。
「……ありがとう。リリアナ。その……」
続けようとした瞬間、リリアナは柔らかく微笑んで言った。
「また随分と細くなりましたね。服を見繕うのも大変なんですよ?」
その軽やかな冗談に、思わず苦笑いがこぼれる。
「……ぁあ、ごめん」
素直にそう謝った自分に、自分でも驚いた。
そしてリリアナもまた、少し目を丸くしていた。
小さい頃から自分を見てきた彼女は知っている。
昔のレイズは――負けず嫌いで、素直じゃなくて、そして泣き虫だったことを。
なのに今の俺は、こうして自然に感謝も謝罪も言える。
それが、どこか誇らしくもあり、くすぐったくもあった。
「……ほんとに、大きくなって……泣き虫なのは変わりませんけれどね」
そう言って、リリアナは名残惜しそうに腕をほどき、優しく諭すように続けた。
「ちゃんと、ご飯は食べるんですよ」
そう告げると、彼女は静かにその場を離れていった。
俺はその背中を見送りながら、苦笑をもらす。
「……ご飯はいらないって、言おうと思ってたんだけどな」
そう思ったはずなのに――なぜかリリアナに言われると、ぐぅと腹の底から音が響いた。
まるで、体そのものが「食べたい」と訴えているかのように。
そして部屋に戻り、しばらくすると廊下から規則正しい足音が響いた。
リアナの軽やかなものとは違う。
重みがあり、確信に満ちた歩み。
その足音が扉の前で止まり、低く落ち着いた声が響いた。
「……入りますよ」
ノックの音とともに扉が開く。
入ってきたのはヴィルだった。
俺は思わず顔を上げる――泣き腫らした瞼を隠す間もなく。
「……ヴィル……」
その姿を見て、思わず声が漏れた。
ヴィルは一歩近づき、俺の顔をしっかりと見つめる。
その眼差しは厳しさを湛えながらも、深い優しさに満ちていた。
「……後悔しましたか?」
短い問い。だがそこには、試すような色も、責める響きもなかった。
ただ孫を思いやる祖父の声。
俺は小さく首を振る。
「……してない」
その答えに、ヴィルの表情がわずかに緩んだ。
そして――深く頭を下げた。
「……それはそれは、良かったです」
低い声に安堵が混じる。だが次の言葉は、まるで自分を責めるように沈んでいた。
「ですが……あなたには……いえ、レイズには――とても辛い思いをさせてしまいました」
その大きな体を折り曲げて、当主が孫に頭を下げている。
胸に熱いものが込み上げ、俺は言葉を失った。




