自然と眠れる夜
許可を得たレイズは、どこか誇らしげに胸を張った。
「じゃあ、今日はそろそろ休む。明日は朝から――俺の美しい走りを見せないといけないからな」
わざとらしくカッコをつけて背を向ける。
その姿を見送りながら、ヴィルは優しい微笑みを浮かべた。
(……本当に、嬉しそうだな)
しかし、同じ光景を目にしたイザベルは、なぜか寂しげに目を伏せる。
胸の奥に小さな痛みを隠しきれずにいた。
――そして、レイズの部屋。
布団に体を預けながら、ふと不安が胸をよぎる。
(……そういえば。鍛錬を重ねると、また“あの乾き”が来るんだよな……)
あの喉を焼くような渇き。
何度も意識を手放しそうになった、あの感覚。
だからこそ、今夜は念入りに水を用意しておいた。
枕元に置かれた水瓶をちらりと見やり、安心したように息をつく。
(これで、明日は大丈夫だ……)
そうして目を閉じる。
――明日の外の世界。
初めて目にする街並み、どんな出会いがあるのか。
期待が胸を大きくふくらませる。
まるで遠足の前日、眠れぬ夜を過ごす小学生のように――
レイズの心はわくわくでいっぱいだった。
「入念にしとかねーと!」
再びレイズは、水瓶を確認してようやく安心したのか、静かに布団へ身を沈めた。すぐに瞼が重くなり、深い眠りへと落ちていく。
その寝顔は、どこか満ち足りた子供のようで――
まるで「明日の遠足」を夢見る小学生のように安らかだった。
……けれど。
翌日、彼を待ち受ける現実は、そんな無邪気な期待をあざ笑うかのように重く、辛いものであった。
このときのレイズは、まだ想像すらしていなかった。




