未来の知識だけではどうにもならない。
イザベルは、頬を赤らめるレイズをじっと見つめ、満面の笑みを浮かべた。
「ねぇ? どうやったの? わたしにもできるの?」
あまりに真っ直ぐな問いに、レイズは顔をまともに見られない。
視線を逸らし、わざと低い声で呟いた。
「……これは、選ばれし者だけの力。おまえには教えない」
どこか強がったような響き。
けれど――それは虚勢ではなかった。
死属性をもつ者だけが扱える、唯一無二の特権。
いかに洗練された魔力であっても、この力の前では「無」に帰す。
誇らしげに胸を張るレイズ。
その力は――本気で構える相手にとって、決定的な一撃を放つ「必殺の切り札」になり得るものだった
イザベルは頬をふくらませ、すこし拗ねたように言った。
「……どうせそれも未来の知識なんでしょ?」
レイズは大きくため息をつき、肩をすくめる。
「……ああ、そうだよ」
素直に認めながらも、低く静かな声で続けた。
「けどな――知識だけじゃ、この力は扱えない。理解して、掴んで、ようやく手にできるものだ」
その言葉に、イザベルは瞬きをして小さく息をのむ。
レイズは遠い記憶を思い出すように呟いた。
「もしこの力の本質を知っていたら……“キャラ”の序列なんて簡単にひっくり返る」
死属性――。
ゲームの世界でも、ごく限られたキャラにしか許されなかった特異の属性。
しかもそれを持つ者は、基本的に後半でカイルの味方となる、とある存在だけだった。
当初は“使いにくい”とすら思われていたその力も――。
運用を理解した瞬間、プレイヤーたちは気づかされる。
――これは、とんでもない能力だと。
そしてこれは未来の知識だけで手に入るものではないことを。




