メルェイェイラ
こうして――結局は、いつもと変わらぬ量を食べることになったレイズ。
ヴィルが杯を置き、穏やかに尋ねる。
「さて……今日はこれから、どうするのですか」
元気だと見栄を張った手前、休むとは言えないレイズ。
ほんの一拍だけ迷った後、胸を張って答えた。
「このあとは……イザベルと魔法の鍛練をします」
「ほんとに!?」
イザベルの瞳がぱぁっと輝き、嬉しそうに身を乗り出す。
その表情に少し気圧されつつも、レイズは視線をそらして咳払いした。
食堂を後にする三人。
「……くれぐれも、無理はせずに」
ヴィルは低く、しかし温かみを込めて告げる。
「じゃあね、レイズくん!」
イザベルは軽快に手を振り、背を向ける。
その後――少し食休みをとったレイズは、重たい腹を抱えながら屋敷の庭へ出た。
手入れの行き届いた庭は静かで、風に揺れる草花が涼やかに香る。
食後の軽い運動にはちょうどいいと感じ、ゆっくりと足を進めていく。
やがて――。
木陰の先に、小さな影が見えた。
リアノだった。
彼女は立派な墓前に立ち、じっと目を閉じている。
その横顔には、懐かしさを噛みしめるような、切なさを押し殺すような表情が浮かんでいた。
しばらくの後、彼女は小さく息を吐き、すぐに仕事へ戻るように屋敷へと去っていった。
レイズはその背中を見送り――好奇心と胸のざわつきに駆られて、そっと墓へ歩み寄った。
「……メルェ、イェイラ……?」
石に刻まれた名を読み上げて、眉をひそめる。
なんとも読みにくい名前。
だが――確かにそこには「メルェ」という文字があった。
(……クリスが口にしていた名前……?)
妙な引っかかりを覚える。
一体どんな人物だったのか。
そして、なぜ過去のレイズに――これほどまでに深い影を落としているのか。
その答えを、今のレイズはまだ知らなかった。




