ウラトスのストーリーを理解する
レイズは深く息をつき、今日の出来事を頭の中で反芻する。
「……クリス。」
心に浮かんだのは、ゲームで幾度となく敗北を重ね、やっとの思いで勝利した“あの男”――ウラトスの姿だった。
――勝利直後、カイルが問いかける。
『一体あなたは……何者なんですか? それに、その強さ……どうして……!』
問いかけに、ウラトスは一瞬だけ遠い目をして、不敵に笑った。
『……私は恩を返せなかった。助けることもできなかった。
そして今も……なにも出来ずにいる。』
次の瞬間。
彼は迷いなく、自らの首を剣で貫いた。
――退場。
あまりにも唐突で、あまりにも説明不足。
プレイヤーたちは揃って「だからなんなんだよ!」とツッコんだ。
だが同時に、その強さと、滲む哀愁。
理解不能だからこそ、ウラトスというキャラは一部のプレイヤーに絶大な人気を誇った。
年齢は公開されなかったが、描かれた姿は四十代後半から五十に見えた。
強さと渋みを併せ持つ“謎の剣士”。
――そして。
レイズは震える胸の奥で、確信にたどり着く。
「あれは……ヴィルに恩を返せなかったんだ」
脳裏に浮かぶウラトスの最後の言葉と、今のクリスの横顔が、重なって見えてしまう。
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ウラトスの言葉が脳裏で反響する。
――「助けることもできなかった」
それは、一体誰を?
答えは明白だ。
レイズ。
彼が守れなかったのは、他でもないレイズ自身だったのだ。
そして、突如として襲いかかってきた理不尽な敵意。
その理由も、今なら分かる。
ウラトスが斬りかかったのは――レイズを殺した“カイル”だったから。
『……今も、なにも出来ずにいる』
その言葉の意味も、はっきりした。
レイズの仇を討つことすらできず、無念を抱いたまま消えていったのだ。
レイズの頭の中で、パズルの欠片のように散らばっていた要素が、ひとつの像を描き出していく。
――そうか。
ウラトスの物語は、ずっと“レイズの死”を背負い続けた者の物語だったのだ。
こうして、ゲームでは決して語られなかった物語の断片を、自分だけが手に入れた。
胸の奥が熱くなるほど嬉しく、誰かに説明してやりたい――そう思えるほどに。
だが同時に、拭いきれない疑問が残った。
――あれほどの強さを持つウラトスが、なぜレイズの側にいなかったのか。
その一点だけは、どうしても理解できなかった。




