リアナの怪力。
ずるずるとリアナに引きずられ、部屋まで案内されていく。
レイズは小声で抵抗する。
「そ、その……リアナ。この部屋は思い出してはいけないことがあってだな……」
だがリアナは聞く耳を持たない。
「失礼します!」
そう言って勢いよく扉を開け放つ。
レイズは「あぁぁ……」と頭を抱えながら中を覗く。
そこに広がっていたのは――
まるで何事もなかったかのように整えられた綺麗な部屋。
破れた絵も、剥がれたカーテンも、血の痕も、すべて跡形もなく消えていた。
リアナは満面の笑みで言う。
「はい、レイズ様。どうぞ横になってください!」
そうしてレイズは、リアナにひょいと抱えられてベッドへ寝かされる。
「……え? 今、俺……持ち上げられた?」
小柄で、どこか天然なリアナ。
だがその腕に宿るとてつもない力を感じてしまい、レイズは背筋を震わせる。
震えるレイズを見て、リアナは勘違いしたように優しく声をかける。
「……さぞ大変なことがあったのでしょう。こんなに震えて……。今、お布団をかけますね」
その声音は慈悲深く、動作はあまりにも丁寧だった。
そっと掛けられた布団は、まるで母のようなぬくもりすら感じられる。
「……おやすみなさいませ、当主様」
深々とお辞儀をして、リアナは静かに部屋を去っていく。
――しんとした部屋の中に一人残されたレイズ。
布団にくるまりながら、小さく震える唇で呟いた。
「……おまえだよ……」
レイズは布団の中で目を細めながら、ふと思い出す。
――初めてリアナと出会ったときのことを。
あの頃の彼女は、俺に対して怯えるような仕草ばかり見せていた。
だが今はどうだろう。
力強く支え、真っ直ぐに俺を導こうとしてくれる。
「……いつの間にか、ずいぶんたくましくなったな……」
心の中で、まるで弟や妹に語りかけるような気持ちで呟く。
「お兄さんは……嬉しいよ」
そのまま安心したように、静かに眠りへと落ちていった。




