レイズとして生きていく覚悟を決めた。
ヴィルは深く息をつき、ゆっくりと目を閉じた。
「……本当に良かった」
その声音には、安堵がにじんでいた。
だが同時に――確かに未練が混じっている。
(……そうか。本来なら、“本当のレイズ”に継がせたかったんだな)
その思いは痛いほどに伝わってきた。
それでも、なぜレイズが“荒れに荒れた”のかは、まだ謎のままだ。
ふと、クリスの口から出た名前が頭をよぎる。
――「メルェ」
(あぁ……そうか。そこから全てが狂い出したのか)
胸の奥で確信めいたものが生まれる。
俺は知らず知らずのうちに、レイズという人物の本当の事情に迫りつつあった。
おれは静かに誓った。
「……おまえも救ってやるレイズ」
その瞬間、初めて本当の意味で、レイズとして生きていく覚悟を決めたのだった。
イザベルは涙を浮かべながら微笑み、やさしく頷く。
「うん。レイズ君ならできるよ。だからね? 私も手伝う。一緒にがんばろうね?」
その言葉はあまりにも温かく、胸の奥に深く届く。だが同時に、その優しさが伝われば伝わるほど、あの“ゲーム”の世界がどれだけ歪んで作られた悲しいものだったのかを突きつけられているようでもあった。
ヴィルは二人を見つめ、ふっと笑って言った。
「少々、話が長くなってしまいました」──その声には、確かな安堵が滲んでいた。
かつては力強く、どっしりと屋敷を支えていたその存在感が、しかし今はどこか小さく、愛おしく見える。
静かな夕餉の光の中で、ヴィルの背中がいつになく柔らかく感じられたのだった。
ヴィルは満ち足りた表情で立ち上がると、その場を静かに去って行った。
本当はまだ聞きたいことが山ほどあったが、今はこの覚悟が固まっただけで十分だと、俺もどこか納得していた。
食卓にはまだ山ほどの料理が残されている。イザベルは優しく皿を見つめながら、そっと言った。
「レイズくん、私も手伝うからね?」
俺は胸の内に湧き上がる力を確かめるように息を整え、少しだけ得意げに顔を上げた。
「このくらい、ぺろりんちょさ。」
そうして自慢のお腹を、さすってみせた。
そう言って箸を手に取ると、二人の間に小さな笑いが生まれ、重かった空気がふっと和らいだ。




