ゲームに登場しなかった理由。
レイズは思い出していた。
イザベルとのやり取りを。
自分を責めることなく。
拒むこともなく。
ただ優しく包み込むように、大切に接してくれた彼女の笑顔を。
(……そうか。)
(イザベルは関係ない。)
胸の奥で、一つの答えが少しずつ形になっていく。
(ゲームに、イザベルがいなかった理由……。)
ゲームの中で。
彼女の名前は一度も出てこなかった。
存在すら語られない。
だが今。
目の前には確かにイザベルがいる。
ヴィルから信頼され。
アルバード家を支え。
そして俺のことまで気に掛けてくれている。
そんな人物が、歴史から完全に消えている。
それはあまりにも不自然だった。
(……もしかして。)
本来なら。
当主を継ぐのはレイズだった。
けれど。
ゲームのレイズは誰よりも荒れていた。
領地も。
家も。
何も背負えなかった。
だから。
代わりにイザベルが立ったのではないか。
アルバード家を守るために。
最後の砦として。
(そして……。)
その先を考えた瞬間。
胸の奥が冷たくなる。
ゲームに。
イザベルはいない。
名前も。
姿も。
何も残っていなかった。
(……まさか。)
(何かがあったのか…。)
(守れなかった……のか。)
それは確信じゃない。
推測に過ぎない。
それでも。
嫌な予感だけは消えてくれなかった。
ゆっくり顔を上げる。
そこには心配そうに俺を見つめるイザベルがいた。
優しい瞳。
穏やかな笑顔。
その姿を見た瞬間。
胸の奥で、一つの決意が生まれる。
(もし。)
(俺が何もしなければ。)
(イザベルも、本来の未来へ…居なかった未来へ進んでしまうのか…?)
奥歯を噛み締める。
胸の奥が熱い。
悔しさ。
怒り。
悲しみ。
様々な感情が入り混じる。
だが。
その全ては、やがて一つへ変わっていく。
覚悟。
レイズは静かに目を閉じた。
深く息を吸う。
そして、ゆっくり吐き出す。
目を開いた時には。
迷いは消えていた。
「……分かった。」
静かな声だった。
だが、その瞳は真っ直ぐだった。
レイズはイザベルを見る。
そしてヴィルを見る。
「俺が絶対に守る。」
力強く言い切る。
「アルバードは滅ぼさない。」
「だから。」
「俺に任せてくれ。」
その瞬間。
食堂の空気が変わった。
ヴィルは目を見開く。
レイズが何を知り。
何を見据え。
何を決意したのか。
その全ては分からない。
だが。
目の前の少年が、本気でアルバードを背負おうとしている。
その覚悟だけは、誰よりも伝わっていた。
ヴィルの口元が、わずかに緩む。
安堵。喜び。そして誇らしさ。
その全てが滲んでいた。
イザベルもまた、潤んだ瞳でレイズを見つめていた。
不安はまだ残っている。
悲しみも消えてはいない。
それでも
彼女は静かに微笑んだ。
レイズは気付いていた。
自分の中で何かが変わったことに。
もう逃げない。
もう目を逸らさない。
守ると決めた者の顔が、そこにはあった。
そして同時に理解する。
本来のレイズ。
メルェ。
ヴィル。
イザベル。
ゲームには存在しなかった人々の話。
その全てが。
まだ自分の知らない、この世界の真実へと繋がっているのだと。




