レイズの親は。
どうやらヴィルは、俺が“この世界のレイズではない”ことをイザベルに話してしまったことを不服に思っているらしかった。
慌てて俺は口を開く。
「いや、ヴィル! 相談役を寄越すって……イザベルのことじゃなかったのか?」
ヴィルは一瞬だけ目を伏せ、低い声で応じる。
「……えぇ。これは誤算でした。ですが、いずれ話す時が来ると思っていたので」
どこか申し訳なさそうな響きが混じっていた。
その隣で、イザベルが小さくため息をつく。
「おじいさまが悪いのよ。ひとりでどんどん決めちゃうんだから……。ねえ、レイズ君だって困るでしょ?」
「え……お、おじいさま……?」
俺は思わずイザベルを見つめる。
違和感が、形を持って胸に突き刺さる。
――そうか。
イザベルとヴィルの距離感があまりに自然だったのは……。
「まさか……二人は……孫と祖父!?」
俺は驚愕の事実に、言葉を失った。
ヴィルは深く息をつき、反省したように言葉を紡いだ。
「……えぇ。ですので、この場でしっかり話しておく必要がある」
その声音は重くも穏やかで、場の空気を一変させる。
「イザベルは確かに、私の孫だ。――だが、レイズ。おまえもまた、私の大切な孫なのだ」
「……は?」
あまりの衝撃に、俺は思わず席を立ちかけ――いや、立たずにそのまま皿の上のお肉にかぶりついていた。
ガブリッ。
「……な、なんで今肉を……」とイザベルが呆れ顔でつぶやく。
「し、仕方ないだろ! 驚きすぎて……口が勝手に……!」
そんなレイズの挙動に、ヴィルはくすりと笑みを浮かべるのだった。
イザベルはちらりとレイズを見て、微笑みながら言った。
「だからね、レイズ君と私は従兄妹なの。ちょっと不思議な感じでしょ?」
「従兄妹……? ぁあ、つまり親が違うのか。……そういえば俺の親ってどこにいるんだ? 会ったことがないんだけど」
その問いかけに、場の空気が一瞬で凍りつく。
ヴィルの表情は険しく、そして重々しい声で告げられた。
「……死にました」
ズシンと胸にのしかかるその一言。
イザベルの顔も笑みを失い、視線を落とす。
レイズは咄嗟に返す言葉を見つけられず、ただ無意識に皿のお肉を握りしめていた。




