レイズの決意
イザベルの瞳が揺れた。
「ちゅーとりある……死?」
信じられないものを見るような目。
「レイズ君は……死んでしまうの?」
その問いから逃げることはできなかった。
レイズは静かに頷く。
「ああ」
風が吹く。
草原が揺れる。
「俺のいた世界では……君たちのずっと先の未来を知っているといった方がいいか…」
言葉を選ぶ。慎重に。
だが誤魔化さない。
「そこで――レイズは死ぬんだ…必ず」
拳を握る。
「何もできずに…」
その声は少しだけ震えていた。
イザベルは息を呑む。
胸の奥が締め付けられる。
受け入れたくない。
そんな未来があるなんて認めたくない。
だがレイズは続ける。
「そんな彼を……俺はどうしても放っておけなかった」
視線を落とす。
今まで誰にも言えなかった想い。
ずっと胸の奥に抱えていた感情。
「ずっと気になって仕方がなかったんだ」
なぜなのか。
自分でも分からなかった。
ただ気になった。
ただ放っておけなかった。
それだけだった。
そして今なら分かる。
「だから――」
レイズは空を見上げた。
夕日に染まり始めた空。
「きっと俺がここに来た意味は」
静かに続ける。
「レイズを救ってくれって」
声が優しくなる。
「ここにいるみんなの願いが起こした奇跡なのかもしれない…あるいは…」
風が吹く。
草が揺れる。
イザベルはしばらく何も言えなかった。
そして小さく呟く。
「……そうなんだ」
目を伏せる。
「レイズ君を……誰も守ってあげられなかったんだね」
悲しそうだった。
悔しそうだった。
まるで自分のことのように。
長い沈黙が流れる。
やがてイザベルは顔を上げた。
涙はない。
だが瞳はどこまでも優しかった。
「でも…」
微笑む。小さく。けれど確かに。
「あなたならきっと救ってくれるんだよね。」
迷いのない声。
「そんな気がするから…」
レイズは言葉を失う。
イザベルは続ける。
「ありがとう…」
その声は少しだけ震えていた。
感謝。安堵。祈り。
様々な感情が込められている。
レイズは何も言えなかった。
ただ静かに頷くことしかできなかった。
そうして――
気付けば空は夕焼けに染まっていた。
橙色の光が草原を照らしている。
長い時間を語り合っていたらしい。
レイズは立ち上がる。
そして真っ直ぐイザベルを見る。
その瞳には迷いがなかった。
「だから――」
強く言う。
「絶対に生き残るよ。」
断言だった。
決意だった。
未来への宣言だった。
イザベルは息を呑む。
少し前まで。
変な声を出していた。
魔力切れで倒れていた。
意味不明な言い訳をしていた。
情けない姿ばかり見せていたはずなのに。
今そこに立っているのは違った。
覚悟を背負った一人の男だった。
――カッコ悪いのに。
――どうしてこんなにカッコいいんだろう。
イザベルは胸を押さえる。
心臓がうるさい。理由は分からない。
けれど。目が離せなかった。
レイズの語った未来。自らの死。
それはあまりにも救いのない話だった。
到底信じられるものではない。
だが同時に。イザベルの中には一つの疑問が残っていた。
どうして――
そんな未来になるのだろう。
ヴィルがいる。
セバスがいる。
クリスがいる。
リアノもリアナもいる。
そして自分もいる。
これほど多くの人が。
これほど深くレイズを想っているのに。
どうして誰も救えなかったのだろう。
どうして誰も守れなかったのだろう。
どうして――その未来を変えられなかったのだろう。
その疑問は。
レイズの胸の中でも静かに広がっていた。
違和感。矛盾。
未来と現在が噛み合わない。
知れば知るほど。出会えば出会うほど。
疑問は深くなっていく。
そしてレイズはまだ気付いていない。
その違和感こそが――
この世界の真実へ繋がる、小さな入口であることを。




