罰と鍛練
レイズはクリスと共に、アルバードが厳重に管理している倉庫へと足を運んでいた。
普段であれば限られた者しか立ち入ることのできないその場所には、いくつもの頑丈な棚が並び、その一つ一つに大量の魔石が保管されている。棚だけでは収まりきらず箱にも詰められ、そのさらに奥の保管庫にも同じような光景が続いているのを見て、レイズはしばらく言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
「…………どうしよう」
思わず、そんな言葉が漏れた。
目の前にあるのは、一つや二つなどという可愛らしい数ではない。それこそ数えることすら嫌になるほどの量であり、ヴィルがこれまでどれだけ徹底して魔石を管理し、安易に市場へ流出しないよう保管していたのかがよく分かる。魔石は便利である一方、扱い方を間違えれば市場そのものへ大きな影響を与えかねない代物だからこそ、アルバードでは慎重に管理されてきたのだ。
だが今、その大量の魔石には新たな役割が生まれている。
メモリアルストーン。
魔法を記憶させ、それを必要な時に誰でも利用できるようにするためのもの。王国との話し合いによって、アルバードは今後メモリアルストーンを安価で王国へ輸出していくことになっており、約束した以上、それを反故にするつもりはない。むしろ広く普及させることができれば、人々の生活そのものを大きく変える可能性があるのだから、レイズとしても積極的に進めたいことではあった。
問題は――。
(俺、学院に行くんだよな……)
レイズは遠い目で大量の魔石を見つめた。
学院へ入学してしまえば、当然ながら今までのようにアルバードで好き勝手に動き回ることはできない。だからといってメモリアルストーンの供給まで止めるわけにはいかず、さらに最大の問題として、普通の魔石をメモリアルストーンへ転換できる者が現状ではレイズしか存在していなかった。
正確には、死属性を持ち、その意味と使い方を理解することができれば他の者にも可能性はある。だが、そもそも死属性を持つ者自体が滅多に存在せず、実際にエクリプスドレインを理解して使用できる者となれば、事実上レイズ一人しかいない。
「…………一人でこれだけの数を、やらないといけないのか……?」
レイズの頬が引きつった。
少なくとも数年単位で王国への輸出を維持すると仮定し、一年間に必要となる数、それを数年分、さらに王国へ輸出する分だけではなくアルバード領内で使用する分まで頭の中で大雑把に算出してみると、考えれば考えるほど嫌な数字が積み上がっていく。
「ここから…………ここまでか?」
棚の端から端まで指を動かしてみる。
軽く見積もっただけでも数千個は下らない。
しかも、ただ触れば完成するわけではない。まずレイズが一つ一つの魔石へエクリプスドレインを使用してメモリアルストーンへ転換し、その後クリスが必要な属性魔法を付与し、完成したものを属性ごとに仕分けていかなければならない。当然ながら魔法を使えば魔力を消費するため、これは途方もない単純作業であると同時に、魔力まで削られ続ける重労働でもあった。
そんなレイズとは対照的に、隣に立つクリスは妙に張り切っている。
「レイズ様、私はいつでも構いません。どうせでしたら、多重属性の魔法を――」
「いや、それはできないんだよ。メモリアルストーンに記憶させられるのは基本的に一つの属性だけだ。だから光なら光、水なら水、火なら火って分けないと駄目なんだ」
「なるほど………」
クリスは素直に頷いたが、レイズはもう一度大量の魔石を眺めながら、心の中で盛大にため息を吐いた。
(…………やりたくないよぉ)
とはいえ、やらないという選択肢はない。
レイズは諦めたように魔石を一つ手に取ると、「エクリプスドレイン」と唱えて死属性の力を作用させ、その性質を変えていった。そうして一つ、さらに一つとメモリアルストーンへ転換し、その横ではクリスが完成したものへ指定された属性魔法を順番に付与していく。
作業そのものは順調だった。
だが、魔石を一つ処理するたびに、レイズの頭の中では別の問題が次々と浮かび上がってくる。
(待てよ……俺、この後も鍛錬するんだよな……?)
木刀の素振りに、クリスとの模擬戦。それだけは絶対に止めるつもりはなく、強くなるためには毎日の積み重ねが必要だという考えも変わっていない。それに明日の早朝にはダークエルフたちのところへ向かわなければならず、学院へ行く以上は通常の学業についていくための勉強も必要になる。
それだけではない。
システィーヌを守ることも、リオネルを絶対にあんな王へとさせないことも、可能な限り早く学院を卒業するための方法を考えることも必要だ。アルバードへ移住してくる人間や魔族たちが快適に暮らしていける仕組みも作らなければならず、領地の発展、新しい発明、王国との関係、ダークエルフとの約束、そして絶対に止めるつもりのない鍛錬まである。
そのうえで今、目の前には数千個もの魔石が積まれている。
「…………」
レイズの手が止まった。
(無理だよなこれ……?)
どう考えても、一人の人間が抱える量ではない。ましてやレイズはまだ十四歳なのだが、それでもやるしかないのだと自分に言い聞かせ、一個、二個、三個、十個、二十個とエクリプスドレインをかけ続けた。
だが――。
「ぜぇ……ぜぇ……」
まだ棚の一角すら終わっていない。
とうとうレイズは魔石を握ったまま天井を仰ぎ、
「やってられるかぁぁぁぁぁ!!!」
倉庫中に響き渡るほどの声で叫んだ。
そんなレイズを見ていたクリスが、ふと何かに気づいたように首を傾げる。
「レイズ様、一つよろしいでしょうか?」
「なんだよ……」
「魔石をメモリアルストーンへ変える魔法……エクリプスドレインでしたか。あれはレイズ様にしか使用できないのですよね?」
「正確には違う。死属性を持っていて、その意味と使い方を理解していれば、理屈の上では他の奴でも使えると思う。ただ……そもそも死属性持ちなんて滅多にいないし、今のところ実際に使えるのは俺だけだな」
「なるほど……」
クリスは何かを考えるように顎へ手を添え、そのままもう一つ疑問を口にした。
「では、以前のラルヴァという魔法についてなのですが、あれも死属性の魔法でしたよね? ですが、あのヴェルなんたらという魔族は使用できていました。あれはなぜなのでしょうか?」
「ヴェルビェイヌァイな!」
名前くらい覚えろ。
そう思いながらも、レイズは説明を続けた。
「あれはメモリアルストーンに死属性魔法を付与してたからだよ。だからヴェルビェイヌァイ自身が死属性を持ってなくてもラルヴァを使えた。ただ、あれは魔力を相当使うし、ヴェル本人も二度と使わせるなって言ってた。それに、そもそもラルヴァなんて文明の発展には必要ないし――」
「でしたら」
「ん?」
「メモリアルストーンに、エクリプスドレインを記憶させればよいのでは?」
「…………」
レイズの動きが止まった。
「…………え?」
クリスは何がおかしいのか分からないというように首を傾げたまま、「エクリプスドレインが死属性魔法なのでしたら、それをメモリアルストーンへ記憶させることも可能なのではありませんか?」と続ける。
数秒の沈黙。
レイズは完全に固まっていたが、やがてその意味を理解すると大きく目を見開いた。
「あ…………その手があったのか!?」
今までの疲労が嘘だったかのように立ち上がり、そのままクリスの両肩を掴む。
「クリス!!」
「は、はい!」
「おまえ!! 天才か!!」
「えっ!? い、いえ! レイズ様に比べれば私など!!」
クリスの表情が一瞬で明るくなる。
だがレイズの頭の中では、それどころではなかった。
エクリプスドレインを記憶させたメモリアルストーンを一つ用意し、それをクリスが使用する。そうすればクリス自身が魔石をメモリアルストーンへ転換し、そのまま各属性の魔法まで付与できる。
つまり――。
「そうか!! じゃあクリスがエクリプスドレインを使って、そのまま属性を付与すれば、一人で全部できるじゃないか!」
「…………はい?」
クリスの笑顔が止まった。
「それはつまり……私一人でやれということでしょうか?」
「そうだ!! クリスがやればいいんだよ!」
「そんな!! レイズ様!? それでは私の仕事が増えるだけではありませんか!?」
珍しく狼狽するクリスを前に、レイズは一瞬だけ考えると、突然それまでの喜びようが嘘だったかのように表情を引き締めた。
「…………クリス。よく聞いてくれ」
「は、はい……」
「この秘密を知る者は……ヴィルと俺と、クリスだけなんだ。この意味が分かるか?」
「…………!」
クリスの瞳が揺れた。
レイズはさらに真剣な眼差しを向ける。
「クリス。俺はおまえを信じている。そして、この方法を知っている者は世界でもほとんどいない。俺とクリスだけが共有していると言ってもいいほどの秘密なんだ」
「レイズ様と……私だけの……」
案の定、クリスの目が徐々に輝き始めた。
レイズはそこを逃さず畳み掛ける。
「それを他の奴に教えるなんて……クリスは、それでいいのか?」
「そんなことは!! 絶対に許せません!!」
「じゃあ!! クリス頼んだ!!」
「お任せください!!」
元気いっぱいに返事をしたクリスを見ながら、レイズは小さく息を吐いた。
(…………ほんとにクリス………)
罪悪感がないわけではない。むしろ、ものすごくあるのだが、本当に助かるのも事実だった。
そしてクリスは早速一人で作業へ取り掛かり、エクリプスドレインを記憶させたメモリアルストーンを使用して魔石を転換すると、そのまま完成したものへ次々と属性魔法を付与していく。その速度は先ほどまでレイズと二人で行っていた時とは比べものにならず、次から次へとメモリアルストーンが完成していった。
レイズはその光景を眺めながら絶句する。
分かっていたことではある。
クリスは強い。
異常な肉体のポテンシャルを持ちながら、魔法の才能まで桁違いで、保有している魔力量も尋常ではない。戦闘能力だけではなく、こうした作業をさせてもクリスという存在はあまりにも規格外だった。
だが、次々と完成していくメモリアルストーンを眺めているうちに、レイズの胸の奥へ小さな罪悪感が芽生えてくる。
(…………俺、クリスを便利な奴として利用してないか?)
自分がやりたくない大量の仕事を言葉巧みに押しつけ、しかも本人が喜ぶように誘導したのだから、さすがに酷いのではないかと思う。
けれど、そこでレイズは少し考えた。
クリスは確かに頼りになるし、自分を守ってくれたことも一度や二度ではない。しかし、その一方で、過去にしてきたことまで消えたわけではない。
それでもレイズは、これまでクリスの過去を責めようとはしなかった。罪を持ち出して罰するつもりもなかったし、クリスが今をどう生きるのかの方が大切だと思っていた。
だからこそ、黙々と作業を続けるクリスを見ながら、一つの答えに辿り着く。
(…………これでいいか)
これは罰だ。
誰かを傷つける罰でも、苦しませるための罰でもない。かつて人を殺すために振るわれていたその桁違いの力を、今度は誰かの生活を支えるために使わせる。
王国へ送り出すメモリアルストーンを作り、人々の暮らしを豊かにする。それだけの力を持っているのなら、それだけ多くの人を助ければいい。
そう考えれば――悪くない。
「レイズ様! こちらの分も終わりました!」
元気いっぱいのクリスの声が倉庫に響く。
「お、おう……じゃあ次、あっちの棚な」
「はい! お任せください!」
嬉しそうに次の魔石へ向かっていくクリスを見送りながら、レイズは静かに頷いた。
(うん。これがクリスへの罰ってことで……)
少しだけ都合のいい理屈で自分自身を納得させながら、レイズはそっと倉庫を後にした。
もちろん、自分だけが楽をするつもりではない。クリスに任せられることは任せ、その代わり、自分にしかできないことをする。
今のレイズが手を伸ばそうとしているもの。
それは――発明だった。
このアルバードに、今まで存在しなかった新たな文明を生み出すこと。
「ふふふ……あれが形になれば、みんなもっと喜ぶはずなんだ」
すでに頭の中には、その形がある。
あとは、それを現実にするだけ。
レイズが一体何を作ろうとしているのか。
それを知る者は、まだ誰もいなかった。
――その頃、王国では。
奇しくもレイズと同じように、一人の男が別の意味で頭を悩ませていた。
国王カイネルである。
彼が考えていたのは、グレサスへの罰をどうするかという問題だった。
王家が代々守り続けてきた神木セフィロト。その枝を許可なく切り落とし、あろうことか神獣を捕らえるための網の柄へと加工した。ジュラで得られたものが王国にとって大きな利益になったことは確かだが、だからといって結果が良ければ何をしても許されるという話にはならない。
ここで何の罰も与えなければ、あの男はきっと次もやる。
いや、下手をすれば次はもっと勝手なことをしでかしかねない。
「…………どうしたものか」
カイネルは机へ肘をつきながら、グレサスへどのような罰を与えるべきか考えた。
たとえば、『王国のために、その魔力を使え』と命じたとする。
そうすればグレサスは、おそらく何の悪気もなく尋ねるだろう。
『何のために?』
『王国のためにだ!!』
そう答えたところで、あの男なら平然と、
『私が強くなる理由がないのであれば、それこそ時間の損失では?』
と返してくるに違いない。
「…………」
想像だけで頭が痛くなってきた。
本人は目の前にいないというのに、会話があまりにも鮮明に成立してしまう。それほどまでにカイネルは、グレサスという男を長年見てきたのだ。
グレサスは強くなれる理由さえあれば、恐ろしいほどストイックに向き合う男であり、鍛錬を怠ることはない。魔力についても同じで、常に大量の魔力を身体へ纏わせ続けているため、一見すればただ無駄遣いしているようにしか見えないのだが、それを咎めたところで、
『これは魔力の総量を増やすための鍛錬です』
そう答えるのは目に見えている。
(王国のために魔力を使い続けることも、十分に鍛錬であろうが……)
だが、グレサスはそういう男なのだ。
自分が強くなることにはどこまでも貪欲なくせに、それ以外のことには驚くほど興味を示さない。
ならば王命で無理やり従わせればいいのかといえば、それも違う。
強く命じたところで逆上するような男ではない。そこまで子供ではないのだが――。
「…………拗ねるのだ、あやつは」
そして、どこかへ行く。
過去に一度、実際に経験しているからこそ、カイネルには分かっていた。
「あまりにも自由すぎる……」
思わず額へ手を当てる。
それでも、そんなグレサスを王国が簡単に切り捨てられない理由も、カイネルは誰より理解している。あの男の強さがどれほど王国を支えているのか。それは国王であるカイネルだけではなく、王国に住む者なら誰もが知っていることだった。
だからこそ、同じことを繰り返しても意味がない。
叱りつけ、命令し、嫌々従わせる。
それではいずれ、また同じことになる。
(どうにか……あやつを王国のために使えぬものか)
グレサス自身が興味を持ち、本人にとっては鍛錬となり、そのうえ王国の利益にもなる。
そんな都合のいい方法があれば――。
そこまで考えたところで、カイネルの視線が机の上に置かれていた一つの石へと止まった。
「…………」
メモリアルストーン。
アルバードから王国へ提供された、新たな可能性。
これを公共のために利用できれば、その恩恵は計り知れず、今後さらなる供給についてもアルバードから約束されている。だが、実際に王国で公共利用するとなれば、どうしても一つ大きな問題があった。
「これを……そのまま置くわけにはいかぬ」
アルバードではすでにメモリアルストーンを公共の場で利用している。それが可能なのは、壊せば二度と使えなくなるという性質を住民へ周知していることも大きいが、それだけではない。
アルバードには人間だけではなく、多くの魔族も暮らしている。
魔族の中には人間とは比べものにならないほど優れた感知能力を持つ者も多く、それが図らずも防犯として機能している。わざわざ魔族が暮らす場所へ忍び込み、メモリアルストーンを盗み出そうなどと考える命知らずは、そう多くないだろう。
だが王国では事情が違う。
公共の場所へ設置するのであれば、簡単には盗まれず、壊されず、持ち去ることも難しい仕組みが必要になる。
「簡単には壊せず……持ち去ることもできぬほどのもの……」
そう呟きながら記憶を辿っていたカイネルの頭に、やがて一つのものが浮かんだ。
まだカイネルが若かった頃。
一人の男が、ジュラから一本の黒い木を持ち帰ったことがある。
ヴィル・アルバード。
当時、王国の騎士として座位一位に君臨していた男がジュラから持ち帰ったその木は、重木と呼ばれていた。
異常なまでの硬度を持ち、それ以上に異常なほど重い木だった。
ヴィルが持ち帰った時の光景を、カイネルは今でも覚えている。あまりの重量に地面はえぐれ、運んできた後には冗談のように深い跡が残り、それだけで一本の道が出来上がったかのようだった。
運ぶだけでも数十名の騎士が必要となり、さらには座位騎士まで加わって、ようやく持ち運ぶことができたほどである。加工も容易ではなく、切断するだけでも座位騎士が武器へ魔力を込め、慎重に少しずつ切り進めなければならなかった。
だが、それだけの苦労に見合うだけの価値はあった。
一度加工してしまえば、そう簡単に壊れることはなく、長い年月を経てもほとんど劣化しない。その頑丈さは普通の木材とは比較にならないほどであり、ヴィルはその時いくつかの枝を切り取り、アルバードへと持ち帰っていた。
先王が何に使うのかと尋ねたところ――。
「…………鍛錬だったか?」
カイネルは思わず遠い目をした。
あれほどの物を、アルバードは鍛錬に利用したのだ。
重木から作られた木刀。
それは今なお形を変えることなく、アルバードに残されているという。
「あれほどの物を鍛錬に利用するアルバードも大概だが……」
呆れながら呟いたところで、ふとカイネルの思考が止まった。
ヴィルは強かった。
誰よりも強かった。
そして今、レイズ・アルバードもまた、十四歳とは思えないほどの力を身につけている。
その二人が同じアルバードで、同じ重木を鍛錬に使っていた。
「…………なるほど」
カイネルの口元が、ゆっくりと上がった。
あれこそが、アルバードの強さを支えてきた理由の一つなのではないか。
そして、それほどの硬度と重量を持つ素材でメモリアルストーンを守るための設備を作れば、簡単には壊せず、盗もうとしても持ち去ることすらできない。公共の場所へメモリアルストーンを設置するための素材として、これ以上に都合のいいものはない。
ならば、話は早い。
問題はただ一つ。
ジュラへ入り、あの重木を見つけ、それを切り出し、王国まで運んでこられる者が必要になる。
「…………誰を向かわせる?」
普通の騎士に任せられる仕事ではない。
何しろ、かつては数十名の騎士と座位騎士まで動員して、ようやく運べたほどの代物なのだ。
だが。
そこまで考えた瞬間。
カイネルは笑った。
「…………ハハ」
答えはあまりにも簡単だった。
異常なまでに強く、重いものを運ぶことすら鍛錬だと考え、しかもアルバードの強さに関わると聞けば間違いなく興味を示す男がいる。
「おるではないか……」
カイネルの笑みが、徐々に深くなっていった。
「グレサス……!」
そうだ。
グレサスを使えばいい。
ただ『重木を取ってこい』と命じるだけでは、あの男は興味を示さないかもしれない。
だが。
『ヴィル・アルバードが鍛錬に使用していた木だ』
『レイズ・アルバードも、それを使って鍛錬している』
『アルバードの強さを支えているものの一つかもしれぬ』
そう説明すれば――
「ハハハハッ!!」
カイネルはとうとう声を上げて笑った。
あまりにも簡単に想像できる。
あの男ならば、間違いなく食いつく。
いや、下手をすれば命令を最後まで聞くより先に、自分からジュラへ向かいかねない。
そしてカイネルは、ようやく気づいた。
ずっと頭を悩ませていたもう一つの問題まで、これで解決できる。
「丁度よいではないか……!」
セフィロトを勝手に切ったグレサスへの罰。
ジュラへ向かわせ、重木を探させ、切らせ、そして自分で王国まで運ばせる。
それだけ重いものを運び続ければグレサスにとっても十分な鍛錬になるだろうし、王国は公共の場所へメモリアルストーンを設置するための素材を手に入れられる。
何より、本人が喜んで働く。
「ハハハ……! そうだ! ならば、これは罰だ! グレサスへの罰になるではないか!」
カイネルの中で、すべてが綺麗に繋がった。
グレサスは鍛錬ができる。
王国は重木を手に入れられる。
メモリアルストーンを公共へ広げるための問題も解決へ向かう。
そして、セフィロトを勝手に切った罰にもなる。
「どうせ自由にどこかで鍛錬をしているだけならば、鍛錬させながら働かせればよいのだ!」
カイネルは満足そうに笑った。
「ハハハ……! これならば、うまくいく!」
こうしてアルバードでは、レイズがクリスへの初めての罰を決め、王国ではカイネルがグレサスへの罰を決めた。
奇しくも、その内容はよく似ている。
強すぎる者を、ただ苦しませるために罰するのではない。その有り余る力を、今度は誰かの役に立つことへ使わせる。
かつて戦場で多くの者から恐れられた力が、今では人々の生活を豊かにするために使われようとしている。
それはきっと、戦いが終わり、少しずつ平和へ向かい始めた今だからこそ生まれた罰なのだろう。
もっとも――クリスはすでにその罰を嬉々として受け入れており、グレサスに至っては、おそらく罰だとすら思わないのだろうが。




