表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/586

ヴィルのもう一人の孫。 挿し絵あり。



ヴィルは静かに机に向かい、羽ペンを走らせていた。

レイズの今後の鍛錬と日程。休養と食事の計画。

一枚の紙に、細やかに書き記していく。


「……これでよし」


彼はその紙を手に取り、屋敷の奥へと足を運んだ。

敷地の片隅にひっそりと佇む別の建物――

そこは、莫大な数の本が整然と並ぶ、まるで図書館のような場所だった。


だが、この部屋に立ち入ることを許される者は極めて少ない。

一般市民はもちろん、アルバード家の人間ですら、限られた者しか利用を許されていない。


扉を開けると、かすかな紙の匂いと静謐な空気が漂っていた。

その中で、一人の少女が椅子に腰かけ、本に夢中になっていた。

年の頃は十五、六。長い髪を耳にかけながら、ページをめくる指先は止まらない。


挿絵(By みてみん) 


その姿を見て、ヴィルは思わず優しい眼差しを向けた。

どこか――レイズを見る時と似た、柔らかな視線だった。


「イザベル」


呼びかけると、少女はびくりと肩を震わせ、本を閉じた。


「えっ……おじいさま!? ちょ、いきなり声かけないでください……!」

慌てた様子で振り返る。


ヴィルは微笑み、静かに告げた。

「貴女にお願いしたいことがあります。協力してくれますか?」


少女――イザベルは一瞬きょとんとしたが、すぐに頬を染めて小さくうなずいた。


そう、彼女もまたヴィルの孫である。

だが――彼女の名は、イザベル・レイバード。


アルバードの名を持たぬ理由は、まだ誰も知らない。

それは後に語られる、静かに秘められた真実であった。


イザベルは、ヴィルから渡された紙を受け取り、静かに目を通す。

やがて小さく微笑んだあと、思わず吹き出してしまった。


「……そっか。レイズ君、やっと進み出したんだねぇ」


その言葉には、柔らかな温もりがあった。

まるで弟を見守る姉のように――けれどそこにはほのかに大人の色香も漂っていた。


さらに目を走らせていくうちに、イザベルは口元を押さえきれなくなり、笑いながら言った。

「ちょ、おじいさま。なによこれ....」


「ふむ?」

ヴィルが首を傾げる。


「なにって……今のレイズの能力を視覚化したもの、ですよ。私なりにわかりやすく書いたつもりですが」


イザベルは肩をすくめ、半ば呆れながらも笑いを堪えきれない。

「そういうことじゃなくて! この偏った能力評価の振り分け! こんなの真面目に描いてたの?」


だが、ヴィルにはその意味がまったく伝わっていない。

彼にとっては、ただ素直に、真剣に――孫の努力を記録した結果にすぎなかった。


イザベルはしばし沈黙し、やがてため息をひとつつく。

「……まあ、いいか。久しぶりにレイズ君とお話しできるんだねぇ」


その瞳に浮かんだのは、懐かしさと喜びの光だった。


ヴィルは立ち上がり、静かに言う。

「では、頼みます。私はレイズのもとへ向かいます」


そうして彼は背を向け、静かな足取りでその場を後にした。


残されたイザベルは、手にした紙を胸に抱き、そっと微笑む。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ