早朝はレイズの咆哮からはじまる。
早朝。
窓から差し込む朝の光に包まれた屋敷は、静けさを取り戻していた。
――本来なら、鳥のさえずりが心地よく響かなかった。
「んぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……! ぬぁっしょい!!」
不気味とも勇ましいともつかぬ、男の声が屋敷中に轟き渡る。
その声の主は、もちろんレイズ。
朝一番から庭に立ち、汗まみれになりながら木刀を振り下ろしていた。
木刀が地面を叩くたび、砂埃が舞い、声はますます力強さを増していく。
「んぬぬぬぬぬ……まだだっ! まだ痩せ足りぬ!!!」
すでに額から流れ落ちる汗は、夜の発汗を思い起こさせるほど。
だが本人にそんな自覚はなく、ひたすら己の体と向き合っていた。
――こうしてまた、レイズの鍛練は始まる。
庭に立つレイズを、三つの視線がとらえていた。
ヴィルは腕を組み、満足そうに頷く。
(……うむ。努力の形が、ようやく板についてきたな)
リアノは胸の前で手を組み、今にも泣き出しそうなほど心配げに見守る。
(当主様……どうか、無理なさらないで……)
リアナはその両手を口元に添え、元気いっぱいに声を張り上げる。
「がんばってくださいませ、当主様ー!」
――同じ姿を見ていながら、それぞれの胸に抱く思いはまったく違っていた。
その想いに応えるように、レイズは木刀を握り直し、勇ましく叫べなかった。
「んひぁぁいっ……!」
へなへなと腰が抜け、その場にへたり込んでしまう。
「…………」
微かに笑い声が混じった。
けれど、誰も彼を嘲りはしない。
荒い呼吸のまま顔を上げたレイズの瞳には、確かな光が宿っていた。
(俺は――進むと決めたんだ)
迷わぬ覚悟。揺るぎない意志。
その一瞬を映したレイズの顔を、見守る者たちは皆、真剣に受け止めていた。それはまるで当主の自覚を旨に勇ましく挑む男として
(痩せるために!!)
しかしそれも違うことにだれも気付いていない。




