感覚の読み違い
そうして、レイズとリアノは再び魔族の元へ向かうため、町を抜けて歩を進めていた。
「そうそう、ここに……」
レイズが何気なく口を開き、視線を向けた先――その光景は、彼の想像を遥かに超えていた。
かつて荒れ地だった場所には、今や家々が立ち並び、人々が住み始めていた。
水湧かし装置の周囲には行列ができ、子供から老人まで大勢が集まり、次々と水を汲んでいる。
水は飲み水としてだけではなく、洗い物や料理、果ては薬草を煎じるのにも使われ、様々な形で人々の暮らしに息づいていた。
レイズは思わず足を止め、呟いた。
(……俺はただ“ここを歩いてたら喉が渇くし、水呑み場があったらいいな”程度に思っただけだったのに……)
それは彼にとっては小さな思いつきに過ぎなかった。
だが人々にとっては、それは生死を分けるほどの変革だったのだ。
「……すごい……」
リアノが思わず息をのむ。
アルバードの屋敷で快適な暮らしに慣れていたため、目の前の光景にはただただ驚くしかなかった。
そのとき、装置を使っていた人々がレイズに気付き、次々に駆け寄ってきた。
「ありがとうございます!」
「これのお陰で、本当に生活が豊かになりました!」
老若男女が一斉に頭を下げ、感謝の言葉が口々に溢れる。
その光景に、リアノは胸を熱くし、レイズはただ頬をかきながら――どこか照れ臭そうに視線を逸らした。
人々の感謝を受けながら、レイズはふと周囲を見渡し、心の中で呟いた。
(……そうか。水属性持ちじゃなきゃ、こんな場所にはそもそも住めないよな。)
アルバードの屋敷では、二属性持ちは当たり前のように存在し、全属性を扱えるクリスさえいる。
だからこそ、レイズにとっては「水を出せる」など取るに足らぬことに思えた。
だが現実は違った。
この世界で属性を授かること自体が珍しく、多くの人々は属性無しで生きている人々もいる。
ましてや水を自在に生み出せる者など、ほんの一握りに過ぎなかった。
だからこそ――レイズの「喉が渇いたら水飲み場があればいい」という軽い発想は、人々にとっては生活を一変させる奇跡となったのだ。
自分では些細なことのつもりだった。
だがそれは完全に、レイズの感覚の“読み違い”だった。




