転生が始まる
ここは……俺のいた世界じゃない。
そう確信した瞬間、背筋に冷たいものが走った。
あたりを見回すと、石畳の道の向こうに立派な屋敷がそびえている。
重厚な門構え。その前を行き交うのは、黒と白の衣装に身を包んだメイドたち。
どう見ても、現代日本ではありえない光景だった。
俺は無意識に、自分の手を見下ろす。
「……は?」
そこにあったのは、見慣れない太い指。
俺の手は本来、細くすらりとしていたはずだ。
いや、正直に言えば――不健康なほど細かっただけだが、それでもこんな丸みを帯びた手ではなかった。
だが――これは違う。
指が。
めちゃくちゃ、太い。
「う、うそだろ……?」
慌てて腹に手を当てる。
……分厚い。
頬を撫でる。
……丸い。
嫌な汗が、じわりと額を伝う。
これは――まさか。
「太ったキャラに……転生したのか?」
言葉にした瞬間、現実味が増す。
「デブキャラ転生!? なんでだよ!」
思わず叫びそうになるのを堪え、俺は周囲を見回した。
「鏡は? 鏡はどこだ……!」
一刻も早く、自分の姿を確認したい。
だが、屋敷の前を行き交うメイドたちは、俺の存在に気づいていながら、露骨に目を逸らしていた。
まるで“触れてはいけないもの”を見るかのように、そっと距離を取って通り過ぎていく。
――なんだよ。
俺、そんなにひどいのか……?
胸の奥がざわつく。
鏡を探す足取りが、急に重くなる。
見るのが怖い。
だが、恐怖よりも勝ったのは好奇心だった。
震える足を一歩踏み出した――その瞬間。
「……っ! お、重てぇぇぇ……!」
全身に鉛でも巻きつけられたような感覚。
足を動かすだけで筋肉が悲鳴を上げる。
腕を持ち上げようとすれば、鈍い抵抗が返ってくる。
これが――この肉体なのか。
「最悪だ……なんで、こんな……」
息が荒くなる。
はぁ、はぁ、と情けない呼吸音が響く。
それに、ここはどこなんだよ。
汗を滴らせながら辺りを見回すが、使用人たちは俺と視線を合わせようとしない。
顔を伏せ、避けるようにすれ違っていく。
「な、なんなんだよ……!」
そのときだった。
ひそひそ、と小さな声が耳に届く。
使用人たちが、何かを囁き合っている。
俺のことを――話している。
恥ずかしくもあり。
そして悲しくもあり。
なによりも…あまりにも未知だった。




