だ、だれかタオルを、、
先に湯から上がったヴィルは、何事もなかったかのように姿を消していた。
湯船には俺ひとり。
「……あぁ、極楽だ」
熱い湯に肩まで沈み、全身を伸ばす。幸せに包まれる瞬間だった。
ふと手を握ろうとして、違和感に気づく。
「はぁ……力が入らねぇな……」
それは過酷な鍛錬の代償。
一日中木刀を振り続けた腕は、すでに痺れるように力が抜けていた。
仕方なくゆっくりと湯から上がる。
だが――その瞬間。
脱衣所の入り口に立っていたのは、リアナとリアノ。
すっぽんぽんの俺と、目が合った。
「…………」
静止した時の中で、三人の視線がぶつかる。
そして次の瞬間。
それはそれは美しいほどに澄み切った悲鳴が、脱衣所に響き渡った。
「キャーーーーーーーーーーー!!!」
リアナでもなく、リアノでもない。
――俺の叫びだった。
「キャーーーーー!!!」
俺の悲鳴は屋敷中に響き渡り、ほどなくして騒ぎを聞きつけた使用人たちがぞろぞろと脱衣所へ駆けつけてきた。
「な、何事ですか!?」
「お、お当主様が……!」
視線が一斉に俺へ注がれる。
全裸のまま立ち尽くす俺は、羞恥心で頭が真っ白になった。
「……だ、だれか……タオルを持ってまいれ……」
かろうじて絞り出した言葉。
すると、リアナとリアノが駆け寄り、両側からそっと体を拭いてくれる。
「レイズ様、失礼いたします……」
「すぐにお召し物をご用意しますから……」
優しい手つきが、むしろ惨めさを倍増させる。
周囲にはずらりと並ぶ使用人たち。
その全員が固唾をのんで見守る中、俺の体からはみるみるうちに――
みずみずしさが失われていった。
(……なにこれ。なんで俺だけ、こんな公開処刑みたいな目に……)
涙目でうなだれる俺の姿を、使用人たちは神妙な面持ちで見守り続けていた。