イケメンクリスの登場。
夕暮れまで、レイズは真面目に鍛錬を続けていた。
木刀を振り上げ、振り下ろすたびに全身から汗が噴き出す。
呼吸は荒く、頭もぼんやりとしてくる。
(……なんで、俺はこんなことをしてるんだろう)
(なんのために生まれたんだろう……)
(……俺の大好物って、なんだったっけ……?)
最後の思考は、もはや疲れすぎてわけが分からなくなっていた証拠だった。
だが次の瞬間、レイズの目の奥に再び光が灯る。
「……そうだ! 俺は……!」
絶対に成し遂げなければならない。
世界を救うとか、そんなちっぽけな話ではない。
「――痩せるんだ!!!」
叫びとともに木刀を握り直すレイズ。
再び気力を振り絞ろうとしたその時。
「……レイズ様。そろそろお戻りになりませんと」
涼やかな声が背後から響いた。
振り返ると、そこには一人の執事が立っていた。
「君は……?」
「クリスと申します」
月明かりに照らされた横顔は、切れ長の瞳に端正な顔立ち。
礼儀正しく一歩引いた姿勢ながら、隠しきれない威圧感が漂っている。
レイズは一目で理解した。
(……こいつ、ただならぬ強者だ……!)
そして、同時に。
(……くそっ、めちゃくちゃイケメンじゃねえか……!)
俺はクリスの前で、決して情けない姿を見せまいと踏ん張った。
軽やかに――そう、何事もなかったかのように木刀を元の位置に戻そうとする。
「んぬぬぬぬぬぬぬぬ……!!!」
……全身を震わせ、顔を真っ赤にしながら、どうにか元の場所へ木刀を押し戻す。
その姿を見て、クリスは驚いたように目を細めた。
「……本当に、大したものです」
「ふっ……あぁ、では行くぞ」
俺は低く響く声で答え、できる限り格好をつけてみせた。
だが――現実は無情だった。
全身は汗でびっしょり、髪は顔に張り付き、服は身体に貼りついている。
もし細身で鍛え上げられた体なら絵になる場面だったかもしれない。
だがそこに立っていたのは、金髪碧眼の丸々とした少年。
その姿は「勇ましい」よりも「必死で苦労している子ども」にしか見えなかった。