ヴィルの決定。
セバスはヴィルから命を受けるや否や、すぐに動いた。
屋敷の使用人たちを一堂に集め、その場にはリアナと――訓練場でレイズを見守っていたもう一人のメイド、リアノの姿もあった。
二人は姉妹であり、同じくこの屋敷に仕えている。
整列した使用人たちは一斉に深く頭を下げる。
場を支配する沈黙の中、セバスは低く告げた。
「……ヴィル様は、当主をお降りになった」
その瞬間、場がざわめいた。
誰もが耳を疑い、視線を交わし合う。
「しずかに」
セバスの一喝。
厳しく、容赦のない声音に、ざわめきは一瞬で掻き消えた。
「そして――次期当主は、レイズ様とする」
再び、空気がざわつく。
使用人たちの間に、驚愕と不安とが交錯し、重い波紋のように広がっていった。
「静粛に」
再度響いた声は、先ほどよりもさらに冷たく鋭かった。
「次に同じ無礼を見せる者がいれば、許しません」
場は再び静まり返る。
耳を澄ませば、皆の息遣いすら伝わってくるようだった。
セバスは淡々と続ける。
「執事長はヴィル様が務められる。そして、私はその補佐に回る。――異論は認めません」
空気が凍りつく。
だが、それでも一人の執事が恐る恐る手を上げた。
「……発言をお許しください」
「許す」
「なぜそのような一大事を……そのような重大な決断を、突然に……」
セバスの答えは短く、鋭かった。
「知りません」
場が息を呑む。
「ですが――ヴィル様が決めたことです」
その一言に、誰一人として言葉を続ける者はいなかった。
ヴィルの決断がどれほどの重さを持つか。
それが絶対のものであると、使用人たちは全員、骨身に染みて理解していたからだ。
場には深い沈黙が降りた。