かつての強キャラのつながり
再び、ひとときの平穏が訪れていた。
先ほどまで張り詰めていた空気は薄れ、アルバードには静かな時間が流れている。
その頃。
屋敷を後にしようとしていたグレサスは、不意に足を止めた。
視線の先には、並んで立つレイズとクリス。
かつてなら目も向けなかったであろう少年と。
かつて共に戦った男がいた。
グレサスは小さく息を吐く。
「……レイズ」
そしてクリスを見る。
「それがお前の選んだ主人か、ウラトス」
軽い口調。
だが、その声には確かな重みがあった。
クリスは迷わない。
即座に答える。
「えぇ」
その瞳には一片の迷いもない。
「レイズ様はいずれ、グレサスを越えます」
グレサスの眉が僅かに動く。
クリスは止まらない。
「そして」
誇らしげに言う。
「ヴィル様すらも越える」
沈黙。
風が吹き抜ける。
そしてクリスは言い切った。
「とんでもない傑物になられるお方です」
グレサスは目を細める。
その視線は自然とレイズへ向いた。
しばらく見つめる。
まるで値踏みするように。
いや。
可能性を見定めるように。
「ほう……」
やがて小さく笑った。
「俺もか?」
肩を揺らす。
「大きく出たものだな」
だが、その表情に不快感はない。
むしろ楽しそうだった。
純粋に。
心の底から。
「面白い」
グレサスは笑う。
「いつか戦う日が来るだろう」
レイズを見る。
「その時を楽しみにしている」
そして。
ふと表情を和らげた。
視線をクリスへ向ける。
「ウラトス」
その呼び名にクリスは静かに反応する。
「……何でしょうか」
グレサスは少しだけ視線を逸らした。
らしくない仕草だった。
「すまなかったな」
短い言葉。
「貴様の主人を」
一拍。
「私は見下していた」
それは謝罪だった。
剣神グレサスが口にするには、あまりにも珍しい言葉。
だがクリスの表情は変わらない。
むしろ冷たいままだった。
「謝っても」
低い声。
「許すわけがありません」
グレサスが苦笑する。
クリスは続けた。
「次に会う時は覚悟してください」
真っ直ぐな視線。
そこには本気しかなかった。
グレサスは肩を竦める。
「相変わらずだ。だがそれもまた…」
そう言って背を向けた。
そして振り返ることなく歩き出す。
その背中は次第に遠ざかっていく。
レイズは黙って見送っていた。
不思議な感覚だった。
二人のやり取りを見ていると分かる。
グレサスとクリス。
二人の間には、自分の知らない時間がある。
戦場を生き抜いた者同士だからこそ分かる何かがある。
レイズは小さく呟いた。
「そうか……」
視線は遠ざかる背中へ向く。
「お前たちも繋がってたんだな」
クリスは何も答えない。
だが否定もしなかった。
その沈黙が答えだった。
そしてレイズの胸には、別の感情が湧き上がる。
強くなりたい。
誰よりも。
そう思う。だが。
脳裏に浮かぶのは目の前の現実だった。
グレサス。ヴィル。セバス。
そしてクリス。
化物ばかりである。
レイズは遠い目になる。
「いや……」
小さく呟く。
「グレサスを越える?」
首を振る。
「その前にクリスすら無理…だろ…」
思わず本音が漏れた。
脳裏を過るのはゲーム時代の記憶。
どれだけ育成しても。
どれだけ装備を整えても。
絶対に勝てなかった強キャラたち。
今の自分は。
その領域を一人で越えなければならない。
レイズは空を見上げた。
青い空が広がっている。
その先にある未来は、まだ見えない。
だが。
目指すべき背中だけは確かにそこにあった。
「まだ……先は長そうだ。」
そう呟きながら。
レイズは静かに苦笑した。




