58話:終戦
激しい戦いが続く中、それぞれの実力と覚悟が少しずつ明らかになってきました。敵の力もまた想像以上であり、戦局は決して楽観できるものではありません。そんな中で、仲間を守る者、立ち向かう者、それぞれの決断が物語を大きく動かしていきます。
この戦いがどのような結末へ向かうのか、その一端を今回の話で感じていただければと思います。どうぞ最後までお楽しみください。
狐面が後ろで腕を組みながら立っている。
まるで散歩でもしているかのような余裕の姿勢だ。
しかし次の瞬間。
狐面の足が滑るように動く。
源蔵「っ…!」
鋭い回し蹴りが源蔵の横を薙ぐ。
源蔵は身を沈めて紙一重で避け、そのまま刀を振り上げる。
だが狐面は腕を使わない。
後ろに跳び、着地と同時に足払いを放つ。
源蔵は刀の峰で受け、体勢を立て直す。
その時。
上空から風が唸る。
源蔵の背筋に嫌な感覚が走る。
源蔵「……!」
長年の勘が警鐘を鳴らす。
源蔵は咄嗟に横へ飛ぶ。
直後。
ズドォンッ――
天狗が空から急降下し、地面に強烈な蹴りを叩き込んだ。
瓦礫と土煙が大きく跳ね上がる。
天狗面「外したか」
源蔵は着地しながら息を整える。
源蔵「上と下かいな…」
天狗が再び空へ跳ぶ。
狐面は変わらず腕を組んだまま歩く。
狐面の足が静かに前へ出る。
そのまま低い蹴りが源蔵の足を狙う。
源蔵は刀で払う。
だが間髪入れず次の蹴り。
さらに回し蹴り。
狐面は一切手を使わない。
それでも攻撃は鋭く、間合いが読めない。
源蔵「器用な真似しよる」
狐面「いえ」
狐面が軽く首を傾ける。
狐面「少し試しているだけですよ」
その瞬間。
再び上空から影が落ちる。
源蔵は振り返らない。
体が先に動く。
横へ一歩。
天狗の斬撃が地面を裂く。
源蔵はすぐさま距離を取り、二人を視界に収める。
完全に挟まれている。
天狗面「狐!舐めてかかるなよ?」
狐面「分かってますよ」
狐面の足が静かに構えを取る。
狐面「ですが、この人間…思っていたより面白い」
遠くの瓦礫の上。
般若面がククリナイフをお手玉のように投げながら、源蔵の戦闘を眺めている。
刃がくるくると宙を舞い、指先で軽く弾かれてはまた空へ返る。
般若面「へぇ……」
低く笑う。
般若面「やっぱり別格だなぁ」
視線の先では、源蔵が二方向からの攻撃を捌き続けている。
その背後から、足音。
コツ、コツ、と一定のリズム。
隈取面と小面面が並んで歩いてきた。
般若面は振り返りもせず、ナイフを回し続ける。
般若面「お前らも逃がしたみたいやな」
小面面がすぐに声を荒げる。
小面面「隈取のせいだよ!!」
隈取面は肩をすくめる。
隈取面「すまん」
般若面が片目を細めるように面を傾ける。
般若面「まぁいい」
投げたククリナイフを空中で掴み、もう一本と揃える。
般若面「俺らの目的は四核師の生け捕り、他はどうでもいい」
その言葉に、小面が少し不満げに鼻を鳴らす。
小面面「でも後で面倒になるじゃん」
隈取面がぼそりと呟く。
隈取面「俺翁面に怒られるのいやなんだよ、あいつ何考えてるかわかんねぇ、」
般若面が肩を揺らして笑う。
般若面「一緒に怒られてやるよ」
刃先を軽く鳴らす。
般若面「ん?この気配...お前ら下がれ!」
声が鋭く変わる。
般若、小面、隈取の三人が反射的に後方へ跳ぶ。
足場を蹴り、距離を取る。
その直後――
ドォンッ!!
上空から何かが落ちてきた。
地面が抉れ、砂埃が一気に巻き上がる。
視界が白く塗り潰される。
瓦礫が転がり、風が遅れて吹き抜ける。
その奥。
ゆらりと、影。
二つの光。
目だけが、闇の中で鋭く光る。
般若面の肩がわずかに強張る。
般若面「……」
小面面「なに、あれ……」
隈取面「……」
三人の視線が一点に集まる。
同時に。
源蔵の前で動いていた狐面と天狗面の動きも止まる。
狐面「……」
天狗面「これは……」
空気が変わる。
重く、圧が増す。
源蔵の背筋に走る感覚。
だが――
源蔵は、それを感じ取った瞬間。
口元を歪めた。
源蔵「ふぅ……」
小さく息を吐く。
源蔵「やっと来よったか」
刀を肩に担ぎ、二人を見据える。
源蔵「おいお主ら」
狐面と天狗面に向けて、低く言い放つ。
源蔵「四核師」
一歩踏み込む。
源蔵「2人相手するほどの力量は、あるか?」
???「すみません...おくれました、うちの生徒の安全は確保済み...後は、源蔵さんの安全確保すれば俺の仕事は終わりです」
ゆっくりと一歩、また一歩と影が前に出る。
足音は静かだが、場の空気がそれに合わせて重くなる。
狐面がわずかに目を細める。
狐面「あなたは...」
影が砂煙を抜ける。
整った立ち姿。
無駄のない所作。
???「俺は禍津学園現3年担任にして、四核師の1人...十神扇と言う者だ」
その名が落ちた瞬間。
空気が張り詰める。
天狗面が舌打ち混じりに呟く。
天狗面「十神...厄介なやつが来やがったな...過去に外冠死業を半壊滅まで追い詰めた2人組...その1人だ」
狐面が静かに息を吐く。
狐面「……」
天狗面が続ける。
天狗面「狐面...こりゃ、あれっぽっちの報酬じゃ割に合わねぇよ」
狐面がゆっくりと頷く。
狐面「そうですね」
視線は十神から外さない。
狐面「ここでいま戦えば1人...いや、私達の全滅も視野に入れないといけなくなる...」
天狗の後ろに影が落ちる。
ドンッ――
重い音と共に、巨躯が降り立つ。
象頭の異形。
天狗面「十神家に伝わる十の神、そのうちの一神、ガネーシャ...」
十神「よくご存知で...」
狐面が静かに口を開く。
狐面「知らない方がおかしいですよ、たった数年で四核師まで上り詰めた最強に近い男....」
十神がわずかに目を伏せる。
十神「最強...か、そんなんじゃねぇよ、俺は...」
その背後。
ガネーシャの影が揺れる。
ぬっと、もう一つの影が歩み出る。
荒々しい気配。
神格の圧。
源蔵が目を細める。
三つの気配が場を支配する。
その瞬間。
十神の視線がわずかに動く。
ほんの一瞬。
十神の能力――未来視が、背後の殺気を捉える。
十神「……」
振り向かない。
迫る刃。
般若がククリナイフを突き出す。
だが。
十神の身体が半歩ずれる。
刃は空を裂く。
そのまま十神は軸を回す。
ぐるり、と一回転。
肘。
鈍い音。
般若の顎を正確に打ち抜く。
般若面「がっ――」
回避する間もない。
体が宙に浮き、そのまま吹き飛ぶ。
瓦礫を転がりながら後方へ。
その軌道の先。
狐面が足を出す。
ドン、と止まる。
般若面「いてぇ、おもい、おもいのか?重すぎるなぁあ!」
狐面「隈取と小面は?」
般若面が顎をさすりながら指を向ける。
般若面「あそこだ」
視線の先。
空気が裂ける音。
隈取面が吹き飛んでくる。
その腕の中。
小面面が抱えられている。
地面に着地。
踏み止まる。
小面面「なんなのよあれ!」
隈取面がすぐに体勢を立て直す。
視線を飛来方向へ向ける。
そこに立つのは――
三つの顔を持つ異形の神。
圧倒的な威圧。
場の空気が沈む。
十神が静かに言う。
十神「阿修羅...よくやった」
狐面「こうなれば逃げるが勝ちですね」
淡々とした声音。
だが判断は速い。
隈取面が思わず声を上げる。
隈取面「えぇ!?翁面に怒られるの嫌だよ俺はァ!」
天狗面が苛立たしげに舌打ちする。
天狗面「死ぬよりかはマシだろ、つべこべ言わず固まれ」
短く、鋭い指示。
般若、小面、隈取が一瞬で動く。
散っていた位置から一箇所へ集まる。
狐面はその中心で、静かに一歩前へ出る。
そして――
深く、丁寧にお辞儀をする。
面の奥は見えない。
だが、顔だけをゆっくりと上げる。
狐面「今回の仕事は失敗ですが...次は成功させます」
視線は真っ直ぐ。
源蔵と十神へ向けられる。
狐面「源蔵さん、十神さん...また会いましょう」
その直後。
天狗が羽団扇を振る。
ブォンッ――
凄まじい風が巻き起こる。
砂埃が一気に舞い上がり、視界を覆い尽くす。
瓦礫が浮き、周囲の音がかき消される。
源蔵が目を細める。
十神は動かない。
風が止む。
静寂。
そこにはもう――
誰もいなかった。
源蔵がふらりと揺れる。
視界が一瞬歪み、そのまま膝をつく。
源蔵「ぐっ…」
地面に手をつき、息を整える。
十神がすぐに駆け寄る。
十神「源蔵さん!大丈夫ですか?」
源蔵はゆっくりと顔を上げる。
源蔵「あぁ、すまない、少し無理をしたようだ...」
十神「すみません、俺の受け持ってる生徒を学園に送ってから来たので、もう少し早ければ...」
源蔵が軽く首を振る。
源蔵「来てくれただけでもありがたい...助かったよ...」
一息置く。
源蔵「っんで、泰斗はどうなった?」
十神が一瞬だけ間を空ける。
十神「泰斗...?あ〜!息子さんですか!安心してください!」
――――――
神宮寺が周囲を見回す。
神宮寺「なんだこいつ、敵ではなさそうだが、」
視線の先。
巨大な影。
大きな翼を持つ神が静かに佇んでいる。
先ほどまで戦場にいたはずの仲間たちは、すでに別の場所へ移されている。
瓦礫もなく、風も穏やかだ。
エルメスが神宮寺達を安全な場所に隠した後だ。
大熊が肩で息をしながら呟く。
大熊「この量の人間を1匹で運ぶとは...大した力だな、なんなんだ、」
源蔵がふらりと揺れる。
視界が一瞬歪み、そのまま膝をつく。
源蔵「ぐっ…」
地面に手をつき、息を整える。
十神がすぐに駆け寄る。
十神「源蔵さん!大丈夫ですか?」
源蔵はゆっくりと顔を上げる。
源蔵「あぁ、すまない、少し無理をしたようだ...」
十神「すみません、俺の受け持ってる生徒を学園に送ってから来たので、もう少し早ければ...」
源蔵が軽く首を振る。
源蔵「来てくれただけでもありがたい...助かったよ...」
一息置く。
源蔵「っんで、泰斗はどうなった?」
十神が一瞬だけ間を空ける。
十神「泰斗...?あ〜!息子さんですか!安心してください!」
――――――
神宮寺が周囲を見回す。
神宮寺「なんだこいつ、敵ではなさそうだが、」
視線の先。
巨大な影。
大きな翼を持つ神が静かに佇んでいる。
先ほどまで戦場にいたはずの仲間たちは、すでに別の場所へ移されている。
瓦礫もなく、風も穏やかだ。
エルメスが神宮寺達を安全な場所に隠した後だ。
大熊が肩で息をしながら呟く。
大熊「この量の人間を1匹で運ぶとは...大した力だな、なんなんだ、」
ガタッ――
鈍い音と共に、空気が揺れる。
その場の空間がわずかに歪み、そこから現れたのは――
青い髪をした巨体の男。
圧のある存在感が、一瞬で場を支配する。
???「エルメス...向こうは終わったようだぞ」
低く、よく通る声。
真鴉が目を細める。
真鴉「エルメスって言ったら...神じゃねぇか」
???がゆっくりと視線を向ける。
???「おぉ、知ってるのか...」
福留が一歩前に出る。
福留「あなたも?」
巨体の男がわずかに口元を緩める。
???「俺はオーディンだ、知っておるか?」
その名が落ちる。
輝が軽く息を吐く。
輝「知ってるも何も、大分有名な方ですよね」
オーディンが腕を組む。
オーディン「なんだ、お前ら、意外にスっとしてるな」
少し不満げに続ける。
オーディン「もうちょっと驚いてもいいのだが」
神宮寺が静かに言う。
神宮寺「お前らは十神家の能力だろ?」
オーディンの眉がわずかに動く。
オーディン「それも知ってるのか」
真鴉が肩をすくめる。
真鴉「俺は知らなかったがな」
輝も頷く。
輝「俺も」
福留「同じく」
大熊が腕を組み直す。
大熊「神宮寺以外は知らんみたいや」
オーディン「はぁ、兎にも角にも、扇が呼んでおるからエルメスや、連れてってやれ」
低く言い放つ。
その直後。
オーディンの足元の地面が、ゆらりと揺れる。
まるで浅瀬の水面のように波打ち始める。
大熊「なんやこれ…」
波紋が広がる。
そして――
オーディンの体が、そのまま沈んでいく。
抵抗もなく、自然に。
輝「消えた…?」
完全に姿が沈み切る。
波打っていた地面も、すぐに元の固い地面へ戻る。
大熊が駆け寄り、しゃがみ込んで手をつく。
大熊「……」
コン、と軽く叩く。
完全に硬い。
気配も、何も残っていない。
神宮寺は何も言わず、ただエルメスを見る。
エルメスが静かに翼を広げる。
無言の合図。
全員が自然と集まる。
次の瞬間。
ふわりと体が浮く。
景色が一瞬で流れ――
着地。
そこには、十神と水を片手に息を整えている源蔵の姿。
十神「おう!2年!初めましてだな...俺は十神扇...とが先って呼んでもいいぜ?」
軽い調子の声。
神宮寺が一歩前に出る。
神宮寺「十神先生...お久しぶりです...助かりました」
深く、頭を下げる。
その姿に、周りがわずかに目を見開く。
十神が少し驚いたように目を細める。
十神「ん?神宮寺くんだよね?」
神宮寺「は、はい...そうですが?」
十神がふっと笑う。
十神「雰囲気変わったねぇ」
少し間を置いて、続ける。
十神「今の方がいいよ、前より」
神宮寺がふと目を伏せる。
過去がよぎる。
一人で全てを背負おうとしていた日々。
誰にも頼らず、ただ強くなることだけを求めて、体を酷使していた時間。
父からの圧に応えようと、無理を重ねていた自分。
だが――
今は違う。
守り、守られる関係の、
背中を預けられる仲間がいる。
天狗面との戦闘時。
あの時、源蔵は迷わず自分ではなく仲間を優先させた。
厳しいだけの存在ではなかった。
不器用で、分かりづらいだけで。
確かにそこにあったもの。
守るものを持つのは弱さだ、だが、強さでもある。そう言いたかったのだろう
神宮寺の口元が、わずかに緩む。
神宮寺「ふっ...ねぇ、おや、コホンッ...父さん...」
源蔵「おい」
神宮寺「ん?」
源蔵「今...なんつった?」
神宮寺「父さんって...」
源蔵「ちっ...気持ちわりぃ泰斗みたいなシャバ僧に父さんって呼ばれたかねぇよ...」
ぶっきらぼうに吐き捨てる。
そして、水を一口飲む。
その手は――
ほんのわずかに震えていた。
神宮寺は気づかない。
だが。
十神の目だけが、それを捉える。
十神は何も言わず、一歩前に出る。
自然な動作で、源蔵の前に立つ。
神宮寺へ視線を向ける。
十神「まぁまぁ、その話は後にしようぜ」
軽く場を流すように言う。
その背中の向こう。
水の入ったコップに。
ぽたり。
一滴。
また一滴。
小さな雫が落ちる。
源蔵は俯いたまま。
誰にも見られない位置で――
静かに、笑っていた。
十神「しっかし、あの面のやつら、俺がいなかったらあんたら全滅してたぞ...どっからあんなの湧いて出てきたんだ?」
軽口のようでいて、声には僅かな緊張が混じる。
源蔵がゆっくりと息を吐く。
源蔵「俺の結界を難なく突破できてる時点でそんじゃそこらの輩ではないであろ、外冠死業の使いと見て間違いない」
十神が頷く。
十神「だよなぁ、俺もそうだと思ってる...」
視線を遠くにやり、思考を巡らせる。
十神「十中八九...外冠死業幹部の誰かの直属の精鋭隊だろうな」
空気が一段、重くなる。
源蔵「お主は誰のだと思う?」
問いは短いが、重い。
十神がわずかに口元を歪める。
十神「アーノルドの部隊はこいつらがやっただろ?」
一瞬だけ視線を輝たちへ向ける。
輝たちの表情が固まる。
十神はすぐに視線を戻す。
十神「他の漸義やケサランパサランの可能性もあるが…」
少し間を置く。
十神「俺は、鴉天狗か静瀬のどちらかと睨んでる...」
その名が落ちた瞬間、空気が張り詰める。
十神「個々の実力が凄まじかったからなぁ」
静かに続ける。
十神「相当な手練に教わらないとああはならない」
源蔵が目を細める。
十神「さて。これからどうする?源蔵さん、うち来ますか?あなたが狙われてる以上また来ますよ、あいつら」
軽く言っているが、その内容は現実的だ。
源蔵が少し考え、息を吐く。
源蔵「取り合えずはな、家政婦達や他何人かもお世話になるが、」
十神がすぐに手を振る。
十神「平気平気ッ!無駄に寮広いからさ」
笑いながら言う。
十神「人数増えたところで誤差みたいなもんっすよ」
源蔵がわずかに目を伏せる。
源蔵「すまない、」
十神が軽く肩をすくめる。
十神「謝んなくていいっすよ!」
一歩前に出て、軽く言い切る。
十神「禍津学園なら結界がある、見つかることはないですから」
その言葉に、場の空気が少しだけ緩む。
十神がスマホを取り出し、軽い調子で電話をかける。
十神「任務終了〜!源蔵さんも生徒たちも無事だよ〜!建物結構壊れてるから人避けしつつ直しといて〜あとよろしく〜」
一方的に要件を伝え、そのまま通話を切る。
十神「さて、帰ろうか、源蔵さん立てます?」
源蔵が体を起こそうとする。
源蔵「すまない、肩を貸し...ッ!」
その瞬間。
ぐい、と体が持ち上がる。
神宮寺が無言で源蔵の肩を担いでいた。
神宮寺「立てよ父さん...俺が貸してやるから...」
源蔵が眉をひそめる。
源蔵「ちっ...生意気なやつめ」
だが、その言葉に棘はない。
十神がその様子を見て、ニマニマと笑う。
十神「いいねぇ〜」
ぽつりと呟く。
その瞬間――
ほんの一瞬だけ、十神の視界が揺らぐ。
過去の記憶。
幼い頃の声。
扇「兄ちゃん!兄ちゃん!」
振り返る影。
???「ん?どうした?扇...」
無邪気な声が続く。
扇「今日も十神家の術教えてくんないの?」
優しい声音が返る。
???「まだ早いな...もうちょっと強くなってからな」
――そこで途切れる。
十神「...兄ちゃんも回道も...俺の記憶から薄れかけてる...な、」
小さく、誰にも聞こえないように零す。
輝が首を傾げる。
輝「十神先生?なんか言いました?」
十神はすぐにいつもの調子に戻る。
十神「いや、なんでもない。行こうか」
軽く手を振る。
エルメスが翼を広げる。
風が舞い上がる。
全員がその中に包まれ――
そのまま、禍津学園へと帰還した。
薄暗い廃墟の中。
瓦礫に腰掛け、背を壁に預ける中年の男。
視線は宙へ向けられている。
何かを考えているようで――
何も考えていないような、空白。
だが。
口元には、不敵な笑み。
静かに、ただ静かに笑っていた。
――――――
輝達は寮へ戻るや否や、その場に倒れ込む。
輝「疲れたぁ、」
力が抜けた声。
纏が駆け寄る。
纏「おかえり...輝くん...」
安堵の色が滲む。
水瀬が手を叩く。
水瀬「みんな、1人ずつ処置しますんで、並んで並んで!」
テキパキと指示を出しながら、怪我の確認を始める。
纏も隣で支えながら、一人一人を見ていく。
真鴉「いてぇな…」
福留「ほんとにね…」
大熊「気合いでなんとかなるわ!」
そんなやり取りが、少しずつ日常を取り戻していく。
一方で。
白川はまるで別世界。
白川「現四核師が2人も...!!」
目を輝かせながら紙を差し出す。
白川「百目鬼校長のサインの隣に!飾ろっ!」
源蔵と十神の前でそわそわしている。
十神が笑いながらペンを取る。
十神「いいねぇ、そういうの」
源蔵は小さくため息をつきながらも、ペンを受け取る。
源蔵「まったく…」
そう言いつつも、しっかりとサインを書く。
白川「宝物だ…!」
大事そうに紙を抱える。
その光景を、神宮寺が少し離れたところから見ている。
神宮寺「……」
静かに息を吐く。
戦いは終わった。
だが。
何かが、確実に動き始めていた。
神宮寺が源蔵の前に立つ。
見下ろす形でだ。
源蔵「なんだ?」
神宮寺が一瞬だけ言葉を選ぶ。
神宮寺「父さん...ごめん、俺誤解してたよ、俺の事何も興味ないと思ってた...違ったんだよな?」
源蔵が鼻を鳴らす。
源蔵「ふん...」
その時。
コツ、と足音。
天城が寮の階段からゆっくりと降りてくる。
天城「源蔵様は神宮寺様が初めて霊力を解放させた時...心配で電話までかけてきてたんですよ?」
場の空気が一瞬止まる。
神宮寺の目がわずかに開く。
源蔵「天城ッ!貴様ァ!!」
顔を赤くしながら怒鳴る。
十神が横で肩を震わせる。
十神「ツンデレ親父」
源蔵「十神ッ!ぶっ殺すぞッ!!」
怒号が響く。
だが。
神宮寺の口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。
ソファで寝かせられていた名藤の目が開く。
次の瞬間、勢いよく飛び起きる。
名藤「はっ!あの小面はっ!」
息を荒げ、周囲を見渡す。
大熊が腕を組みながら答える。
大熊「もういねぇよ、終わった、負けたんだよ」
名藤の表情が一瞬固まる。
名藤「負けた?旦那様はどこにっ!」
焦りを隠せない声。
源蔵が静かに言う。
源蔵「ここだ、落ち着け名藤」
その声に、名藤の視線が向く。
名藤「……旦那様」
安堵と緊張が入り混じる。
そのやり取りの声で――
他の者たちも目を覚ます。
北村がゆっくりと体を起こす。
北村「ここは?」
剩「学園...?」
早乙女がゆっくりと周囲を見渡す。
早乙女「負けたって...私たちがですか?」
天城が静かに頷く。
天城「そうだ」
北村がはっとして姿勢を正す。
北村「うわっ!天城様もいらっしゃるんですか、」
天城が軽く肩をすくめる。
天城「そりゃ禍津学園の寮だからな」
名藤が拳を握りしめる。
名藤「……」
悔しさが滲む。
大熊がその様子を見て、ぽつりと言う。
大熊「全員でかかっても勝てへん相手やったわ…」
真鴉「格が違ったよなぁ」
静かに空気が沈む。
だが。
輝がその空気を切るように口を開く。
輝「でも、今生きてここにいる」
全員の視線が向く。
輝「負けたけど…終わってないだろ」
神宮寺が小さく頷く。
神宮寺「……あぁ」
源蔵が目を細める。
源蔵「次がある」
その一言が、場に落ちる。
静かだが――
確かな火種のように。
源蔵「今回で分かったことがある、天城...今の戦力じゃ外冠死業と戦うなんか夢のまた夢だぞ、俺は片腕使いもんにならんくなったから戦力にはならない、十神がおるにしろあっちの最高戦力と戦うことになれば...」
重い現実が落ちる。
十神が肩を回しながら口を開く。
十神「俺レベルか少し劣るほどのやつが少なくともあと5人は欲しいな」
軽く言っているが、その内容は絶望的だ。
源蔵が頷く。
源蔵「そうや、天城、百目鬼が行けそうやが、あと3人...」
大熊が腕を組みながら言う。
大熊「もう1人の四核師が来てくれればって感じか?」
源蔵が小さく息を吐く。
源蔵「あいつは五分五分だな、気まぐれで助けてくれるし、敵にもなりうる」
場が静まり返る。
福留がぽつりと呟く。
福留「そんなに厳しいんですね...」
真鴉が舌打ちする。
真鴉「でもやるしかねぇだろ」
輝が前に出る。
輝「足りないなら...俺らがその分強くなればいいだけだよ」
神宮寺が横目で見る。
神宮寺「簡単に言うな」
輝が笑う。
輝「簡単じゃないのは分かってる」
拳を握る。
輝「でも、やるしかない!!」
その言葉に、空気が少しだけ変わる。
源蔵が目を細める。
源蔵「……」
十神がニヤッと笑う。
十神「いいねぇ、その目」
天城「はぁ、まぁ、今日は休め、明日からまた任務だ」
真鴉「はぁ!?」
福留「嫌だぁ〜!!」
大熊「ちょいと多すぎやしないか?」
天城がため息をつきながらも、真っ直ぐ言う。
天城「お前らの成長をなるべく早めたいんだ、分かってくれ」
源蔵が口を挟む。
源蔵「しかし休息も必要だぞ」
天城が頷く。
天城「そこは大丈夫ですよ」
少し間を置いて続ける。
天城「2年から3年に上がる時に1ヶ月休みを取る、お前ら全員ほぼほぼポイントは同じように進んでる、このままいけば全員で3年に上がれる、猿渡は一足早く上がったがな」
真鴉「マジかよ…」
輝が小さく息を吐く。
輝「全員で…か」
十神が首を傾げる。
十神「ん?俺聞いてない」
天城が即答する。
天城「今言った」
十神が軽く頷く。
十神「りょ」
場に少しだけ笑いが戻る
真鴉「てかさ猿渡だけってことは、」
雷牙「俺たち置いてかれた」
食堂の方から、珍しく肩を落とした雷牙と、その横でなだめる翠馬が歩いてくる。
雷牙「なんかぁあいつ最近俺らに隠し事してんだよなぁ、急に強くなるしさぁ」
翠馬「落ち着けって、兄ちゃん…」
輝が顔を上げる。
輝「いま猿渡は?」
天城が簡潔に答える。
天城「単独任務だ」
一瞬、空気が変わる。
真鴉が目を丸くする。
真鴉「すげぇなぁ、俺まだ単独なんてできる気しねぇもん」
福留「僕も無理だよ…」
大熊「せやな、まだ早い気するわ」
神宮寺は黙って聞いている。
雷牙が拳を握る。
雷牙「くそ…なんであいつだけ…」
輝が小さく呟く。
輝「…まぁ気を落とすなって」
雷牙が顔を上げる。
雷牙「……あぁ」
翠馬が苦笑する。
天城が静かに全員を見渡す。
天城「焦るな」
短く言う。
天城「お前らは確実に強くなってる...それだけは分かる」
その一言が、静かに全員に落ちた。
輝「ふわぁ〜、ねむ、」
纏「輝くんもう寝る?」
輝「お風呂だけはいって寝る」
真鴉「俺もそうする、今は休みてぇ」
福留「まぁ、毎度毎度死にかけてるから休憩はしたいよね」
大熊「風呂や風呂!」
男子陣がゾロゾロとお風呂へ向かっていく。
水瀬が後ろから声をかける。
水瀬「上がったあと食堂来てくださいよ〜包帯巻くので〜」
その時。
神宮寺がふと振り返る。
ほんの少し、柔らかい表情。
神宮寺「うん、ありがと」
そう言って、そのまま大浴場へ入っていく。
扉が閉まり――
寮は静かになった。
一拍の沈黙。
水瀬「え?今の...聞き間違い?」
纏が目をぱちぱちさせる。
纏「いや、ありがとって言ったよね」
水瀬が前のめりになる。
水瀬「言ったよね!?」
源蔵が重い腰をあげた
源蔵「すまんな、バカ息子が...今まで苦労かけたな」
水瀬が少し慌てて手を振る。
水瀬「いえいえ!前の神宮寺さんに慣れてただけなので...少し...びっくりしましたよ、何があったか後で聞かないと...」
纏が小さく笑う。
纏「軽食用意しとこ、ってもうこんな時間...流石に眠いわね」
水瀬が気遣うように見る。
水瀬「寝てもいいよ?私やっとくけど、」
纏が首を横に振る。
纏「大丈夫だよ、一緒にする」
水瀬が嬉しそうに頷く。
水瀬「分かった!よし!簡単なおにぎりでいいかな」
纏「いいと思うよ、食堂の人もう寝ちゃったから凝ったのは無理だもんね」
二人は並んでキッチンへ向かう。
静かな夜。
小さな灯りの下で、湯気が立ち始める。
風呂場にて――
神宮寺が服を脱いでいる。
椅子に座る大熊と真鴉は、まるで彫刻でも眺めるかのように静かに見ている。
大熊「絵になるなぁ」
真鴉「悲しくなるぜ...ん?」
ふと、真鴉の視線が一点に止まる。
真鴉「Oh..... Big Magnum」
大熊「どうした?まから...」
同じ方向へ視線を向ける。
大熊「Oh...Yeah......」
神宮寺が首を傾げる。
神宮寺「ん?お前ら入らないのか?」
真鴉が咳払いをする。
真鴉「入りますよ」
大熊も立ち上がる。
大熊「入らせていただきますよ」
神宮寺「どうした?」
浴槽へと続く扉を開く。
湯気の向こう。
福留が静かに髪を洗っている。
そして――
輝が湯船の中でバシャバシャと泳いでいた。
大熊「泳ぐな!」
すぐさまツッコミが飛ぶ。
次の瞬間。
真鴉が助走をつけ――
そのまま飛び込む。
大熊「飛び込むな!」
水しぶきが上がる。
福留「ちょっ…目に入るって…!」
真鴉が顔を上げる。
真鴉「なぁ輝...男として負けた気がするわ神宮寺に」
輝がきょとんとする。
輝「どうした?」
神宮寺がゆっくりと入ってきた。
神宮寺「うるせぇぞ黙って入っとけ」
全員「はーい」
騒がしかった空気が一瞬で収まる。
湯気の中、静かに時間が流れる。
――
風呂から上がり、各々体を拭いて食堂へ向かう。
水瀬「はいはい、座ってください〜」
纏「無理しないでね」
椅子に座らされ、順番に包帯が巻かれていく。
福留「しみるぅ…」
真鴉「情けねぇ声出すなよ」
輝はおにぎりを頬張りながら纏と話している
輝「うまっ…!」
纏が少しだけ安心したように笑う。
纏「よかった...それ私が握ったやつだから心配だった...」
水瀬「みんなちゃんと食べてくださいよ〜回復遅れますからね〜」
神宮寺も静かに座り、おにぎりを手に取る。
神宮寺「……」
一口、噛む。
ゆっくりと飲み込む。
その表情は、どこか落ち着いていた。
真鴉「塩足んねぇなぁ、取ってくるか」
立ち上がろうとした瞬間。
水瀬「怪我人は座ってて!」
ピタッと動きが止まる。
次の瞬間、卓上の塩がふわりと浮かび――
そのまま真鴉の前にすっと置かれる。
真鴉「お、おう…」
福留が感心したように見る。
福留「便利だねそれ」
水瀬が肩をすくめる。
水瀬「使えこなせればって感じだね、この力、ほんと助かってる」
纏が微笑む。
纏「みんな助かってるよ」
大熊「ほんまやで、動かんでええんはありがたいわ」
真鴉が塩を振りながら頷く。
真鴉「戦闘でもその精度出せたら最強だな」
水瀬が少しだけ苦笑する。
水瀬「それが難しいんだよね〜」
輝が口をもぐもぐさせながら言う。
輝「でも、今ので十分すごいって」
水瀬が一瞬驚いて、少し照れくさそうに笑った。
水瀬「自主練してるんだけどねぇ、やっぱ難しい」
白川が興味津々で身を乗り出す。
白川「どんなのやってるんですか?」
水瀬が指先を軽く動かす。
水瀬「木から落ちてくる葉っぱを掴む」
真鴉が思い出したように言う。
真鴉「俺の弾丸掴んだから行けるんじゃないか?」
水瀬が苦笑する。
水瀬「あの時は極限状態だったから」
真鴉「なるほど」
福留が頷く。
福留「追い込まれた時の集中力ってすごいもんね」
大熊「でもそれ常に出せたら主戦力になるよな」
水瀬「ほんとそれなんだよね〜」
纏が静かに言う。
纏「でも、水瀬ならできるよ」
水瀬が少し驚く。
水瀬「そうかな?」
輝が頷く。
輝「できるって、さっきの見て思った」
水瀬が小さく笑う。
水瀬「じゃあ、もうちょっと頑張ってみよっかな」
輝「よしっ、寝よっ!」
真鴉が時計を見る。
真鴉「もう2時じゃねえか」
福留があくびを噛み殺す。
福留「明日も早いのに...」
纏が静かに微笑む。
纏「おやすみ、輝くん...」
みんなゾロゾロと自室に入っていく。
廊下に残る足音も、次第に消えていく。
真鴉「なぁ輝」
輝「ん?」
真鴉が少しだけ視線を落とす。
真鴉「俺強くなれてるのかな」
少し考えてから、軽く笑う。
輝「俺と比べたらすっごい成長してるでしょ、霊力も能力も使えるようになったんでしょ?すごいよほんと」
真鴉が頭をかく。
真鴉「そうなのかなぁ、地味だしなぁ能力...」
輝が即答する。
輝「あるだけまし!」
真鴉が吹き出す。
真鴉「そうだな!」
少しだけ空気が軽くなる。
輝「じゃ、おやすみ」
真鴉「おう、おやすみ」
今回の話は「敗北」と「再起」を軸にした回になりました。
外冠死業との実力差が明確に描かれ、現状の戦力では到底届かないという現実が突きつけられましたが、その中でも各キャラクターの成長や関係性の変化が見えてきたのが大きなポイントです。
特に神宮寺と源蔵の関係は一つの転機を迎え、「強さ」だけではなく「人」としての繋がりが描かれました。不器用ながらも互いを認め始めたこの関係は、今後の戦いにも影響してくると思います。
また、輝を中心とした仲間たちのやり取りでは、戦闘後の緊張感から一転して日常の温度が戻り、「負けたけど終わりじゃない」というテーマが自然と表現されています。
次回59話ーーヒーローらしく




