たいようとおうさま
14
『ずっと、ずっと、ずっと昔に、私たちの住んでいる世界には、太陽というものがありました。
人々は、太陽が現れると動きだし、隠れてしまうとゆっくりと休みに入るのです。
つまり、彼らは太陽と共に、生活していたと言えるでしょう。
そんな生活が、世界が長い間続いて――人々はある異変に気付きました。
太陽は暖かいものでした。
ずっと世界を照らしてくれていたから、世界も暖かくなっていたのです。
しかし、少しずつ、ほんの少しずつ――太陽は元気をなくしていったのです。
暖かかった世界は冷え込み始め、太陽と同じように元気を失っていきます。
「このままではいけない」
大きな国の王様が、たくさんのお金を用意して世界中に呼びかけました。
どうにかして冷えきった世界を暖めなければ。
しかし、残念ながらそんなことをできる人間はいませんでした。
もうおしまいだと、王様は嘆きました。
滅びを待つだけの世界は、静かなものでした。
外にでる人影は減り、自ら遠くの世界へ旅立つ人たちも増えました。
その中、一人の青年が王様の元に現れました。
「わたしには、この世界を救う術がある」
王様は彼の話も聞かず、追い返せと喚きました。
嘘をついてお金をもらおうとした学者たちは大勢いました。
王様は既に、人を信じることができなくなっていたのです。
青年が手を上げると、不思議な事に火の玉が浮いていました。
小さな火だったのに、王様にはまるで太陽のように見えました。
王様は彼の足下に駆け寄り、何でも叶えると頭を下げました。
しかし、青年はなにも言おうとはしません。
王様はありったけの料理を用意しました。
青年は首を振ります。
国で一番の女性を連れてきました。
青年はまた同じように首を振りました。
次々に王様は青年のために策を考えましたが、どれひとつも、青年を喜ばせる事はできません。
ついに王様は青年を信じられなくなりました。
「お前は何が欲しいのだ。どうすれば、私たちは救われるのだ」
青年はずっと閉じていた口をやっと開きました。
「わたしの救う世界を知りたかった。わたしが自分の命を捨ててまで救う世界がどれほどすばらしいものなのか、知りたかっただけなのだ」
青年はお城からでると掌から出した火の玉を、飲み込みました。
途端に青年の体は燃え上がり、辺りを照らし始めます。
彼は空に飛び上がり、気付くと世界は、また昔のように暖かい世界に変わっていました。
凍えきった世界は、また新しく生まれ変わったのです。
王様は言いました。
「彼が私に見せられた物は、きっと醜いものばかりだっただろう。彼が欲しかったのは気持ちだったのだ。たった一言のお礼も言われないまま、彼は命を燃やしたのだ」
王様はせめて青年の家族だけでも、と彼の家族を探しましたが、どこにもみつけることはできませんでした』