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太陽の魔女  作者: 重山ローマ
プロローグ 太陽の魔女
13/80

遭遇 ①

15


 あさひは始まりのページを開きなおした。

 そこにある言葉はあさひの使っている言葉に近いというだけで、なんとなく読み取れる程度でしかない。

 始まりの魔女が、男だったというのも信じられないが。


 あさひはなんて救いのない使命なのだろうと思った。

 姉は使命のために家を出て行った。

 そして今、彼女は世界を照らしている。


 それが使命なのだ。

 世界のために自らの生を捨て、なんの感謝もされないというのに、尽くし続けなくてはならない。

 見ず知らずの人ばかりの世界なんかのために。


 いや、きっと、見ず知らずの人ばかりの世界のために命を燃やすのは、あさひだけなのだ。


 これまでの人たちは皆、残してきたものがある。

 残されるもののために命を燃やすとしたら、それは苦しく辛いけれど、覚悟のできること――あさひは誰かを置いていく苦しみを甘く見ていたのかもしれない。



16


 あさひは異変に気がつき目を開いた。

 一人になってからというもの、彼女の生活は酷いものだ。

 部屋を汚くしてもだれにも文句は言われないし、遅くまで起きていてもだれにも怒られない。

 魔法の訓練も、少しばかり手を抜いてしまうことがあった。

 現にいま、だらしなく昼寝をしてしまっていたのだ。


 ベッドを転がり、音を立てないように起き上がったあさひは、家の周りの《近づくとなんとなく寒気がする》魔法が切れてしまっていることに気がついた。

 これまでなら姉が、なけなしの魔力で更新してくれていたけれど、もうその人はいないのだ。

 あさひがしなくてはならない。


 気の緩みから生まれたミスだった。

 姉から受け取った本のおかげで、魔女を狙う存在がいることを知っていたあさひは、姉に課題として作らされていた魔具をポッケに詰め込んだ。


 魔法は発動までに時間が掛かる。

 その分魔法を封じ込めた魔具であれば、簡単な魔法しか封じ込めておくことはできないけれど、すぐに発動できる。

 魔法の発動までの時間を、魔具でなんとか凌ぐというのが魔女の戦い方だ。

 といっても、あさひに戦闘の経験なんてものはない。


 あさひは急いで階段に向かい、魔法を展開した。

 二階という場所を認識しにくくなる魔法だ。

 敷地内に侵入されてしまったから、最後の悪あがきである。

 廊下に寝転がって、目をひっそり二つ覗かせる。

 裏口にある気配は、恐ろしいほど希薄だったが、どうやら侵入を躊躇っているようである。


 あさひは、先手を打つべきか悩んでいた。

 見つからなければそれでいいのだ。

 ただ、もし見つかってしまうのなら、先に攻撃をしなくてはならない。

 魔女として家を出る時まで危険はないという話が、姉の本には書いてあったけれど、前例がなくても起きてしまうことはあるだろうとあさひは身構えた。


 律儀に靴を脱ぐ少年の姿が、あさひには観えた。


 一階は人がいないことをはっきりと見せるためにぼろぼろにしてある。

 靴を履かなければ怪我をしてしまう可能性もあるほどのボロ家だというのに、その少年は一歩一歩、靴下だけで裏口から侵入してきた。


 ここで確認のように言ってしまうと、あさひが知っているのは魔法が使える姉だけだ。

 突然侵入してきた少年は彼女の知らない存在であり、危険なのか危険ではないのか判断ができない。


『絶対に他と接触してはいけないわ』


 姉の言葉を守るとすれば、戦闘も避けなくてはならない。

 実際は何もできないただの少年を過剰に警戒するあさひは、彼の一挙一動をじっくりと観察していた。

 透視だけは苦手だった彼女でも、いまの状況で出来ないからと諦めるわけにはいかない。


 しばらく部屋を見渡していた少年は、廊下に顔を出した。

 慌てて頭を引っ込めたあさひだったが、膝を壁にぶつけてしまい、それなりに大きな音が出てしまう。


「ひぃ……」


 恐る恐る下を覗くが、少年は全く気がついていないようだ。

 物音はわかったようだが、二階からだということには気がつかない。

 どうやらあさひの魔法はうまく機能しているようである。


 廊下を横切って、もうひとつの部屋に侵入した少年は、一度くしゃみをしてから目を細めている。

 やけに暗い部屋だから、彼はカバンから明かりを取り出して部屋を照らした。


「なにあれ」


 透視に見間違いがあるとは思えないあさひは、彼が持つ懐中電灯がなにかわからなかったのだ。

 魔具とは違う。

 魔力の流れもないまま、カチリと音が鳴った後に明るくなったのだ。


 魔力反応がないのだ。

 魔法でないことはわかっても、あさひには他に何ひとつわからない現象だ。

 もし暗いのなら、自分で火を出して明るくするのが彼女の常識である。

 それはこの家にいた魔女全員に言えたことだろう。


「ちょっと気になる」


 自分の知らないことに興味が湧いてしまうことは仕方がないのだ。

 その好奇心がなければ、あさひはここまで立派な魔女のたまごにはなれなかったのだから。


 仕組みが気になってしまったあさひの好奇心の矛先は、自然と少年に向いていた。

 押入れにあったものをぽいぽいと外に出して、中に穴を発見したところだった。

 何のためにあった穴なのかはあさひも知らない。

 中には何もないただの洞穴である。

 少年は明かりを投げ落として、もう一つカバンから明かりを取り出した。

 やはり魔力の反応はない。


 一度中に入った少年は、しかしすぐに這い上がってきて、そのまま帰って行く。

 敵ではなかったのだ。

 それが姉の守った人間なのだと、出て行ってからやっと気がついたあさひは、膝を抱えて天井を見上げた。


「感謝されてないんでしょうね」


 魔女は始まりの人から、誰一人感謝されたことなんてないだろう。

 本当ならすぐに《近づくとなんとなく寒気がする》魔法をかけなければならないが、あさひは何もしないことにした。

 また少年がやってくることを期待して。


「だって、気になるから」


 明かりの正体だけは、はっきりさせたかったのだ。


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