SS 勇者様の内政チート?(4)
今回も大変遅くなってしまいました。申し訳ありません。
せめて月に一話ぐらいはと思っていたのですが、毎週投稿している人達にただ頭をたれるだけです。
今回は元々リア充のバカ殿様をさらに幸せにするべきか失恋させるべきか悩みました。今も少し迷ってます。
また、内政チート話で少し疑問に思うことも自分なりに考えてみました。
またまた、中途半端で殆ど時間が経過してません。
いつになったら話が進んでいくのか自分でもわからない無能な作者です。
橘検事に遅くなることを連絡して、僕たちは井上君が紹介してくれたレストランに向かった。
結局、僕と姫様には沢渡さんとタクが同行してくれることになった。
沢渡さんは女性が姫様一人だけでは拙いだろうとのタクの意見に従って加わってくれたのだ。
井上君はこの後、家族といっしょに食事する予定だと言って帰ってしまった。
彼は結構家族想いで国交省で働いているのは、父親を社長にしてくれた大叔父に義理を感じてのことらしい。
異世界から持ち帰った貴金属類も、財閥一族とはいえ経済的には不遇だった家族の為だという。
ちなみに、なぜ経産省でなく国交省なのかと聞いたら、大叔父の会社は土建屋から始まっていて、今も国交省との繋がりが強いためらしい。
今日、彼は留学しているお姉さんの帰国に合わせて、お姉さんの好きなイタリアンレストランと和食の料亭を両方予約していたそうだ。
お姉さんが久しぶりに和食を食べたいというので、使わなくなったレストランを僕たちに譲ってくれることになったのだ。
キャンセル料を取られなくて助かったと笑っていたが、お姉さんの留学費用は彼が異世界から持ち帰った貴金属を換金した中から出したそうだ。
レストランへ向かう道すがら、僕とファランシア姫の後ろをタクと沢渡さんが話しながら付いてくる。
二人の会話は自然と僕たちの耳に届くので、僕とファランシア姫は顔を赤らめてうつむいて歩くはめになった。
「バカ殿様も覚悟を決めればいいのに。」
「覚悟ってどういうことですか。」
「つまり、バカ殿様は姫さんに惹かれているし、姫さんもバカ殿様のことが好きだということさ。
たまたま、最初の姫さんとの縁談が政略結婚だったことと、誤解と外見に惑わされてそれを断ったから、バカ殿様はそれを気にして一歩を踏み出せないでいる。」
二人は僕たちに聞こえることを気にすることもなく話し続ける。
「ファランシア姫が志村さんのことを好きだと判るんですか。」
「熱烈な恋愛感情とは違うと思うよ。でも好意は持ってるし愛する努力を惜しまないと思うな。」
「でも、それで良いんでしょうか。」
恋愛に夢を持っている沢渡さんが、納得出来ないと言いたげに聞いた。
「姫さんなら、それで十分さ。
もともと、国の為に会ったこともない相手と政略結婚することが当然の立場だし。
最悪は、嫌いな相手とも仲良くして子供を作らなけりゃいけない場合もあったんだ。
それに比べれば、バカ殿様は大当たりさ。」
「なんだか、それって愛し合って結婚するのとは違うような気がしますけど。」
「サクラちゃんはお子様だな。」
タクの話は続く。
恋愛して結婚というのは、日本や欧米先進国でもごく最近のことで数十年前までは日本でもお見合いを始め、自由恋愛以外の始まりかたが普通だったし、それで幸せな家庭を築いた夫婦は多いと。
逆に、愛し合って結婚したはずが、一緒に暮らしてみて相手に幻滅してしまうこともある。成田離婚などはその最たる例だ。
タクに言わせれば、恋愛や結婚のキッカケは見合いであろうが政略であろうが、大切なのはその後だと言うのだ。
「アバタも笑窪という言葉があるだろ。
好きな相手の短所を長所と思い込むことは少なくないんだ。
優柔不断を優しさと勘違いしたり、独断と専横を指導力があると思ったりすることは多いんだ。」
ギャップ効果というのがあるそうだ。
乱暴でみんなに怖がられていた男が雨に濡れた子犬を拾って、懐に入れてやる様子を見た少女が、乱暴者が本当は優しい人なんだと思って胸キュンしてしまう。恋愛にはこういう勘違いが多いらしい。
同じことを普段から優しいと思われている人間がしても余り感動を呼んだりしないという。
「それって、本当は優しい人だというのは勘違いなんですか。」
「勘違いというより、一面しか見てないということさ。
人はTPOによって色々な面を覗かせるもんだ。その一面だけを見てその人の本質だと思うのは間違いの元だ。
90%の状況では乱暴で自分勝手な男が、たまたま動物だけには優しかったということもある。」
いずれにしても、恋愛というのは相手に対して誤解したり、幻想を抱いたりしている場合が少なくない。
タクの考えでは、恋をしている間は現実の相手を見ているのではなく、自分の理想像を相手に投影している場合が多いという。
従って、甘い恋愛感情が薄れた時に現実の姿が見えてきて、愛が壊れることが多いのだ。
そこで大切なのはお互いを許し合う寛容さと、相手を理解し支え合おうと努力する態度なのだ。
昔と今の結婚の最大の違いはお互いに不満を我慢することがなく、お互いを理解し助け合う努力を余りしなくなったことだ。
不完全な人間が二人で一つの家庭を築くのだかち、軋みもあれば衝突もあるだろう。
自分自身が不完全なのに相手には理想を求め、それと違う姿を見せると幻滅する。
相手を許し、自分の至らない点を反省して直していこうとする努力がお互いに求められるのだ。
しかし、昔は主に女性に我慢を強いる形で家庭を守ってきたので、今我慢する必要があまり無くなった女性が不満を持つと、比較的簡単に家庭が崩壊するようになった。
ファランシア姫は政略結婚をするのが当然の立場なので、決められた相手といい夫婦関係を築く努力をする覚悟が最初からあると言うのだ。
外国の王族に嫁いで、もし相手と険悪になったら両国の関係にも影響しかねない。
国内の貴族でも同様だ。王族が嫁ぐ貴族は国内でも有力貴族と相場が決まっている。
その貴族が反王室の立場をとるようになったら、国を混乱させかねない。
「タク、うるさいぞ。
僕の事だけでなく姫様のプライベートとか軽々しく口にするもんじゃない。」
僕は堪りかねて、後ろを振り返って強い口調でたしなめた。
「ちゃんと認識阻害をかけてるよ。
周囲には何を話してるか解らないはずだ。」
「それでも、僕と姫様のことに君が口を出す必要はないだろう。」
僕は、心の中にづかづかと土足で踏み込むようなタクに苛立ちを感じて声を荒げた。
「言うべき時に言わないで、行動すべきときに行動しないで、後悔することになっても知らないぞ。」
タクは立ち止まり、僕を真剣な面持ちで見つめた。
「経験があるのか?」
思わず問いかけた僕に、タクはわずかに顔を歪めて答えた。
「ああ。命の恩人に礼を言えなかった。
その人は俺を助けるために死んだんだ。
何も解らず苦労していた俺に親切にしてくれたのに、騙そうとしていると疑うばかりで酷いことを言ってた俺を助ける為に。」
僕は言葉を失った。
僕たちをからかっていると思っていたのに、余りに衝撃的な告白に僕だけでなくみんな黙ってタクを見つめていた。
「そんな驚いた顔をするな。
俺だけじゃないはずだぞ。
確か、姫さんはドラゴン討伐で皇太子だった兄さんを亡くしたはずだ。
国軍の半分と一緒にな。
詳しい話は聞いてないが、カオリンだって勇者召喚されるような世界で人の生き死にと無縁だったとは思えない。
お前だってあっちの世界で親しくなった人が死んだりしたことはないのか。」
確かに、僕がドラゴン討伐する際に、案内を兼ねて同行してくれた騎士たちの数人が亡くなったり怪我をしている。
直接ドラゴンと戦ったのは僕だけだが、ドラゴンの巣にたどり着く旅も決して安全なものでは無かったのだ。
一緒に旅をしてそれなりに親しくなった人達だった。
あちらでは隣町に旅するのもある意味命がけなのだと説明されたが、小さな子供だけで田舎の祖父母に会いに行く姿がテレビで微笑ましく映される日本との違いに愕然とした記憶がある。
「だったら、明日死んでも後悔しないような生き方をしないとな。
少なくても、俺たちはそういう覚悟が必要だと知ってるはずだろ。
魔法が使えようが、勇者のスキルを持ってようが死ぬ時は死ぬんだ。
俺は絶対勝利という馬鹿げたスキルを持った奴がゴブリンにあっさり殺されるのを見たことがあるぞ。」
「何故、絶対勝利のスキルでゴブリンなんかに負けるんだ?」
「だから、戦わなかったんだ。
最強のスキルを持ってると油断して、スマホで音楽を聴きながら歩いていて、森に潜んでいたゴブリンの毒矢に殺られたのさ。
オリンピックの試合会場で審判の合図にあわせて勝負するんだったら、金メダル取り放題だったんだろうが。
そんな心構えというか日常生活での注意を怠った為に死んだ勇者は多いぞ。」
なるほど、日常の生活の場に危険が潜んでる世界では、常在戦場の心構えが必要というわけだ。
スマホを操作したり、両耳にイヤホンをしながら自転車や自動車を運転して平気な人間は、自分がいかに危険なことをしているか自覚していない。
歩行者でもそうだ。音楽を聴きながら左右も確認せずに車道を渡る人は少なくない。歩行者優先だから車のほうが止まるはずだとの思い込みでこういう危険な行為を平気でしている。
そういうのに慣れた人間は確かに異世界ではどんな強力なスキルを持っていても長生きできないだろう。
実際に、異世界の多くで馬車に乗るのは貴族などの身分の高い人間であり、平民が馬車の前を横切ったとしても止まったりしない場合が多い。
いや、急停車出来ない。そもそも馬車には急ブレーキ等無いのだ。
逆に、昔の大名行列を遮ったために手討ちにされる町人同様に処罰の対象になりかねない。
貴族の馬車を無理に停めようとするのは暗殺や誘拐又は盗賊だと疑われてもしょうがない行為だ。
生きていても捕らえられたうえに拷問まがいの尋問を受ける可能性が高いだろう。
これは平民の馬車でも同じで、馬車を持てる裕福な者には常に誘拐や盗賊の危険が有るため、歩行者を引き殺しても原則的に罪に問われることはない世界が多いのが現実だ。
馬車の前に飛び出た歩行者が悪いというのが異世界の常識なのだ。
勇者召喚した側も武器の使い方や狩りの仕方などは教えても、彼らにとって当たり前の日常常識を教えきれないのが実情だという。
物語では親切な人に教えてもらったと数行で終わるし、何度か失敗談が描かれるだけだ。
しかし、そういう日常の注意事項は多岐にわたり、教えてもなかなか短期間に身につくものではないし、全てを教え尽くすこともできないのが現実だ。
例えば井戸水でも直ぐにそのまま飲まない。
場所によっては寄生虫や砒素などの有毒物質が含まれる場合があるのだ。
水質検査の考えも技術もないので、見た目綺麗なら飲料水として利用している地域は少なくない。
そもそも現代の地球でも途上国で綺麗な水を得ることが困難な地域は少なくないと言われている。
私達の世界でも、途上国では透き通った濁りのない水というだけで飲料水に使われている例は多い。
または、河豚やじゃがいもの芽と同じように食品にも有毒な部分を持っている場合がある。
風土病と言われる病気を調べていくと、日常の飲み水や食べ物、小さな蚊などが原因だった例がある。
異世界では子供でも知っていて、あえて教える必要があるとは考えないような事で、召喚された勇者が病気になったり死んだ例は少なくないらしい。
「バカ殿様は勇者だそうだが、何もドラゴンと戦うだけが勇気じゃないぞ。振られるかも知れないのに告白するのも勇気だ。
少なくても、後悔するようなことだけはないようにしろよな。」
タクの言葉にみんな黙りこんでしまった。
そして、みんな何か考え込むような雰囲気のままレストランにたどり着いた。
食事は美味しかったと思うのだが、タクに言われたことが頭の中をぐるぐる巡って、正直味ははっきり覚えていない。
姫様も口数が少なく、思い悩んだような表情を浮かべている。
「ここで領地経営について教えてもらうことになってるんだろ。せっかくの機会なのにどうした。」
タクが僕を見ながら話を振った。
「姫さん。領地経営で一番大切なことは何だろ?」
話を切り出せない僕に代わってタクが姫様に聞いた。
「今日だけで政治や経済について詳しく聞くには時間が足りないんじゃないか?
それに姫様には失礼だけど、経済学なんかこちらの専門書を真面目に勉強してもいいし、必要なら大学の講義を受けるつもりだ。
今のところ、内政チートを発揮できるほどの知識はないけど真剣に勉強すれば大丈夫だよ。
ドラゴンを倒して手に入れた財宝も半分は僕が貰って使い道も無かったから残ってるし。」
僕がタクに返すと、向かい側に座った姫様が口を開いた。
「人だと思います。」
姫様の言葉に皆姫様を見つめた。
「人?」
僕が繰り返すと、姫様は僕の目を見返して頷いた。
「はい。人です。」
現代人の政治や経済の知識が有れば過去や異世界で上手くいくのなら、それが溢れている現代社会が上手くいかないのは何故でしょう。
一日1ドル以下で生活している人がいる国が無くならないのは何故でしょう。
欧米などの先進国の成功例?があるのですから過去の知識や経験から学んで実践すれば成功するはずなら、少なくても最貧国といわれる国々はなくなるはずだと思うのですが。