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警察庁異世界犯罪特別捜査班  作者: 名梨権ノ兵衛
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SS 勇者様の内政チート?(5 )

また遅くなってしまった。申し訳有りません。

なかなか言いたいことを言葉にできず、文才の無さを痛感しています。

「人か。

僕はこれから出来るだけ勉強するつもりだけど、領地経営の経験も知識も無いし、経験豊かな代官とか雇ったほうが良ということかな。」

 

 首をかしげながら言う僕にファランシア姫は続けた。

 

「知識や経験よりも、お金や物よりも指導者が、ここでは志村様が最も重要だと思います。」


 よく聞く内政チートでは遅れた社会に現代人の知識を利用して政治経済を発展させていく話が多いが、姫様の言おうとするのは違うらしい。

 

「姫さん。もうちょっと具体的にお願いできるかな。

 姫さんはこっちの社会や経済も勉強したんだろ。

 その上で、バカ殿様が一番重要な要素だというのは何だ?」

 

 タクが疑問を口にした。

 姫様は冷めかけた食後の紅茶に口をつけた後、改めて皆を見回した。

 

「はい。短い間でしたが、橘様にこの世界の歴史や政治経済について学ぶ機会を与えていただきました。

 そして、我がローザンヌ国の歴史や私の知っている政治や経済の知識と比較してみた私の結論は、指導者の資質が最も重要だというものです。」

 

 ファランシア姫は、知識や情報の溢れた僕たちの世界でも貧困はあり、知識の有無が政治改革や経済的発展の要因ではないという。

 こちらの最貧国と言われる国にも先進国で学んだ人は多くいる。

 それは、内政チートを持った人が過去や異世界に行ったのと同じようなものだと言うのだ。


 しかし、その人達が学んだ知識をもとに懸命に国を豊かにしようと努力しても、結果がなかなか伴わないのは何故か。

 姫様も知識チートや内政チートという言葉は知っており、それを利用して異世界で成功する物語も読んだことがあるそうだ。

 だが、実際に異世界で内政チートを使ってその世界を豊かにした例は皆無に近いと言うのだ。

 

「タクは知っていたか?」


 僕はタクに訊ねた。

 

「俺も内政チートの成功例まで調べたことは無かったな。それは姫さんが調べたのか?」


「いいえ。橘様にお聞きしました。」

 

 橘検事が学者たちに依頼して、僕たちが今まで異世界で調査した結果を分析したところ、こちらの知識を利用した本人や権力者たちが豊かになった例はあるが、社会全体が改革によって豊かな住みやすい社会になった例はほとんどないという。

 

 現代知識を利用しての内政チートというのは物語の中だけのもので、実際には存在しないというのが異世界の調査分析を行っている学者たちの結論になりつつあるらしい。

 わずかな成功例も、指導者が周囲の人々の賛同を得て協力を取り付けることができたためで、新しい技術や知識があったためではないのだ。

 

 少なくとも、情報ギャップを利用した一部の人間が利益を得ることは有り得ても、社会改革まで発展することは殆どないというのが分析結果だという。これでは内政チートとは呼べないだろう。

 そもそも他の人が知らない情報や知識を元に利益を出すというのは現代社会でも有り触れたことであえてチートと呼ぶようなことでもない。

 

 一般人の無理解と非協力、権力者たちの反発や妨害。官僚などの怠慢と責任回避。

 これらは地球における発展の遅れの要因と重なる部分が多い。

 

 現状を正確に把握して問題点を分析し、自分の持っている知識や技術を活用することが重要なのであって、単に知識や技術情報を持っているだけでは内政チートはありえないなのだ。


 知識チートに戦史に詳しい少年が名軍師として活躍する話があるが、実際には過去の戦史がそのまま適用できる戦場など皆無だ。


 そもそも技術の遅れた世界では現状を正確に把握することが困難なのだ。

 戦場で敵を偵察しても報告を受けるのは数時間または数日遅れであり、今現在の状況を無線などで報告できるわけではない。

 正確な地図もなければ、敵国だけでなく自国の軍隊の詳細さえ把握することが難しいのが現実だ。

 孫子に「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉があるが、それが困難だからこその言葉だといえよう。

 封建時代においては家臣に軍勢を出すように命令することは出来ても、軍勢の総数はもとより騎馬の数や槍弓その他の内容については家臣の裁量に任されるのが普通だし、多くの場合は兵の練度も武器の質もばらばらなのだ。

 

 ましてや、戦争における情報収集や分析の重要性を理解する将兵は少なく、戦闘による手柄を放棄してまで地味で目立たない役割を行う人材が不足している。

 その偵察も十分な訓練と教育を受けていない者なら、軍勢の数を把握することさえ困難なのだ。

 試しにテレビで動物の群が出た時、一目で総数を把握することができるか試してみるといいだろう。

 素人だと一桁間違えることも珍しくないのだ。

 何をどう見るか判らない人間には、重要な情報がそこにあっても気づかないことさえある。

 

 つまり、現実においては数時間または何日も経過した古い(わず)かなしかも不正確な情報を元に、主人公は今現在の状況を推測し作戦を立てなければならないのだ。

 物語では敵味方の状況を俯瞰的ふかんてきにリアルタイムに説明しているので読者には状況が理解できてしまうために、過去の戦史の知識を活かして作戦を立てる主人公をさも当然のように見てしまうが、当事者が正確な敵味方の状況把握を行なうのは現代でも難しいのだ。

  

「言われて見れば、確かに内政チートで成功した異世界は記憶に残ってないな。

 バカ殿様は知ってるか?」

 

「いや。知識を利用して異世界で成功した召喚経験者は何人か知ってるけど、社会全体や国を改革した例は思い当たらないな。


 貴族に協力してその領地を豊かにした例は幾つか有るけど、社会改革というより貴族たちがより豊かになって、庶民はそのおこぼれに預かっているという感じだったな。」


「それはこちらの世界でも同様のようです。」


 社会改革は、それが他国で成功したものでも、自分の現状を変えてまで受け入れようとする人は少ないらしい。

 「外国の事例をそのまま我が国に導入することは出来ない。」と言う常套句は誰もが聞いたことがあるだろう。

 また、富や権力を所有している人達がそれを放棄してまで改革を支援する例は皆無なのだ。

 

 貧しい人達も、現状よりもっと悪くなるかも知れない改革よりも、慣れ親しんだ今の状態を続けたほうがましだと考える人が少なくない。

 

 安易な改革としては、既得権益所有者である金持ちや権力者を優遇することでより豊かにして、平民はそこから零れ落ちた僅かな分を受け取るという、権力者達から反発が起こりにくい方法がある。

 勿論、それでも以前より豊かになったら人々は喜ぶのだが。格差は以前よりも大きくなる傾向がある。

 GDP世界2位のさる国やア○ノミクスなども、発想からしてこの方法だろう。

 この方法は富の総量が僅かに増えても下にまでいき渡らないと、格差を拡大させるだけの結果になる場合が多いのだ。

 

 考えてみると、フランス革命のような急激な変革は人々が我慢の限界を超えた時になされるもので、我慢できる範囲なら貧困や差別も甘受するのが人間らしい。

 

 人々はどうなるか解らない痛みが伴う変革よりも、不満は在っても現状のぬるま湯に浸っているほうが楽なのだ。


知識や情報を持っていることと、それを活用することは別物なんですよね。

ただ知識を持ってるのは、本を本棚に並べているのと同じだと思います。


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