むっつりスケベは神客らしい
「君は、自分の性癖を周りに知られたらドン引きされるんじゃないか、と恐れて隠し、表向きは純粋な人のふりをするタイプだ」
当たっている。いやでも、どうしよう。ここで肯定するわけにもいかないし、かといって否定しても意味なさそうだし。
「肯定する必要も、否定する必要もない」彼は落ち着いた様子で言う。「それに、君のような人はわりといる。気にすることはない」
「あ……」
正直、私みたいな人がたくさんいるかどうかなんてどうでもいい。性癖を暴露されたうえに不採用になるとかいう、踏んだり蹴ったりな結末にならないかどうかだけが心配だ。
「むっつりスケベは最初が大変だ。要求をなかなかすなおに言えないし、感情を表すのが苦手だから、喜ばせる方法を探るのが難しい。だが、一度指名してもらえるようになって、付き合いが増えるようになると、とたんに神客に変わる」
「そうなんですか?」私、神客候補なの?
「ああ。すなおにサービスを悦んでくれるし、無茶苦茶な言動はしないし、スタッフと客としての距離感の取り方もしっかりしている。最高のレディだよ」
「それは、褒められてるって受け取っていいんですか?」もしそうなら、考えられる限りもっとも最悪の褒め方ではあるけど。
「ああ、褒めている。君は採用だ」
「え、本当ですか!」
「ああ。ようこそ、我がパーティへ」
「あ、ありがとうございます!」
「ただ、満点合格ではない。君には弱点がある」
「え、なんですか?」
「君は臆病すぎる」
「それは、そうかもしれません」
私が水魔法を好んで使うのは、遠距離から攻撃できてかつ近距離からの攻撃に対応できるからだ。要するに、戦闘で傷つくリスクが低いのである。臆病だからこそ、そういう選択をしたという側面はあるかもしれない。
「もっと自分の欲望に忠実に生きたほうがいい。なんなら、忠実になる方法を教えてやろうか?」
「え?」
「仲間のよしみで一回だけ、無料でセックスのサービスをしてあげてもいい」
「えええ⁉」
それはつまり、ダンさんにあれやこれやをされてしまうってこと⁉
これ、なんて返事すればいいんだろう。
と、ダンの背後から女性がこっちへ向かって歩いてくる。もしかして、あれがエリナさんかな?
「そうか。もし、その気があったらいつでも──」
「え、ちょちょちょ、何してんの⁉」
女性は驚いた様子で言う。
「ん? ああ、エリナ。今ちょうど面接が終わってな。この子を採用したよ」
やはり、この女性がエリナさんらしい。
「は、え? なんで!」エリナさんは驚いた様子で言った。
ダンはその問いには答えず、私に向かってこう言った。「もしその気があったらいつでも言ってくれ。セックスしてあげよう」
彼女はものすごく怖い顔をした。かと思うと、ダンの後頭部を平手で殴った。
「バカじゃねえの、お前! どっか行け、消えろ!」彼女はそう怒鳴ると、彼の首根っこをつかんで、ぽうんと向こうへ抛り飛ばした。
「あー……うちの仲間が本当に失礼しました。先日仲間にしたばっかなんですけど、まさかあんなやつだとは思わなくて」彼女は私に向かって謝ってきた。
「ああいえ、気にしないでください! 全然怒ってませんし、むしろいろいろ有益なアドバイスをいただけて感謝してるんです!」
「有益なアドバイス?」
「はい。臆病だから、もっと自分の欲望にすなおになったほうがいい、とか」
それを言うと、彼女は変な顔をした。
「うん、まあ。あの、あいつの言ったことは忘れてください。それと申し訳ないんですが、改めて私ともう一度面接をしてもらえませんか?」
「あ、彼には一応、採用すると言ってもらえたんです、けど……」
なかったことにされてしまうのだろうか。だとしたら、あの時間はいったい、なんだったのか。
「あ、それはもちろん考慮します。あいつとうまくやれるかどうかが一番重要なので、うちのパーティでは」
「そうなんですか?」
「ええ。見ていてわかったと思うんですけど、あいつマジでアホなので」
やはりそうだったのか。でもそうだよね、最初から最後までずっとおかしなことばかり言っていたし。
そのあと、エリナさんと面接をして、無事採用してもらえた。




