変態の力
依頼文によると、キングブラッドホーンはとある村の近辺に現れたらしい。もしそいつが村にやってきてしまった場合、死者が出るおそれがある。何しろキングブラッドホーンは危険度6のモンスターだ。Aランクハンターでもない限り、討伐はできない。一般人など、手も足も出ないはずだ。
さて、問題はダンがそいつを倒せるかどうかだ。
もうすでに捜索隊から、キングブラッドホーンの居場所を発見したとの報告があがっている。今はモンスターのもとへ向かっている最中だ。
「もしキングブラッドホーンを討伐出来たら、仲間になりましょう」
「わかった」
わずかな地響きを感じる。おそらく、キングブラッドホーンが歩いたことによって起きた地響きだろう。
「近いわね」
「わかるのか? さすがだな」
「当たり前でしょ。こう見えてもSランクなのよ、私は」
「さすがだ。ではSランクの実力がどんなものか、お手並み拝見といこうか」
「なんであなたが見る側なのよ。私があなたの実力を確認するためにここへ来たんでしょ」
「そうだったか?」
「あのさ、ここでもうお別れしてもいいんだけど、どうする?」
「心配するな。キングブラッドホーンの一匹や二匹、何とかしてみせるさ」
「あっそう。じゃあ、二匹出た時も一人で頑張ってね」
「もちろん。泥船に乗った気で待っていろ」
「泥船じゃ沈んじゃうじゃないの……」
大丈夫かな、こいつ。心配だ……。
地響きとともに足音が聞こえてくる。姿は見えないがもう近い。
足音のする方角へ歩いていく。すると、キングブラッドホーンの姿が木のあいだから見えた。
角の長さだけで、私の身長よりも大きい。あれには気をつけなければならないと思う。
もっとも、今回戦うのは私ではないけど。
「じゃあ、ダン。行ってきて」
〇
「じゃあ、ダン。行ってきて」
エリナは言う。
彼女は俺がキングブラッドホーンを倒すものだとばかり思っているのだろう。あるいは、泣きながら戦えませんと土下座してくると思っているのかもしれない。
だが、事態はそう単純ではない。彼女は大事なことを見落としている。キングブラッドホーンに気をとられすぎて、もっと大きな問題に気づけていない。
「エリナ、もう一体モンスターの気配がする」
「え――」そこで彼女はようやく気付いたらしい。ばっと、右を見る。
彼女はゆっくりと、右へ進む。俺はその後へついていく。
そして、気配の正体が見えた。
「あれは、ハーキュリーバイトスネーク」
大昔の英雄を毒の牙で噛み殺したとされる蛇の子孫だと言われているモンスターだ。危険度は6。だけど……。
「まずいわね……討伐は中止ね」彼女は言った。
「なぜ?」
「なぜ? 当たり前でしょう? あれはキングブラッドホーンを捕食する。キングブラッドホーンを討伐しようとして騒げば、あれが寄ってくるわ。そうなったら、とても危険よ」
「簡単なことだ。ハーキュリーバイトスネークのほうも討伐すればいい」
「私たちの任務はキングブラッドホーンの討伐よ」
「それは違う。我々の任務は、村人の安全の確保だ」俺はハーキュリーバイトスネークに向かって歩いていった。「キングブラッドホーンを頼んだ」
「ちょっと!」
彼女は何か言いたげだが、残念ながら話している余裕はない。ハーキュリーバイトスネークが俺に気づいてしまった。今、やつは鎌首をもたげた状態で、俺をにらんでいる。俺に攻撃する隙を探っているのかもしれない。
と、向こうから別のモンスターの雄たけびが聞こえてきた。エリナがキングブラッドホーンと戦い始めたのかもしれない。
雄たけびと同時に、ハーキュリーバイトスネークが大口を開けて、俺に襲い掛かってきた。
俺は左に大きく飛んで、その一撃をかわした。よけてから、前に手をかざす。
「イけ」
ハーキュリーバイトスネークが、全身をガクガクと痙攣させた。
それによって生じた隙に乗じて、ハーキュリーバイトスネークのしっぽをつかんだ。そして、やつの体を振り回すと、思い切り地面にたたきつけた。
大きな地響きがする。と、ハーキュリーバイトスネークのしっぽが、ものすごい力で俺の体をぐいっと引き寄せてきた。そして一瞬のうちに俺はしっぽに巻き付かれてしまった。そして、やつは俺の体を締め付け始めた。
だが、その力はけっして強いとは言えない。俺の顧客の一人だった武闘家によるだいしゅきホールドのほうがはるかに威力が高い。
エリナの身が心配なので、はやく片をつけなければならない。めんどうだが、ちょっとだけ本気を出そう。
「イき続けろ」
ハーキュリーバイトスネークの全身がガクガクと震える。今度は連続で絶頂させているので、けいれんは止まらない。
やがて、ハーキュリーバイトスネークのけいれんが止まり、しっぽからも力が抜ける。イきすぎて失神したのだろう。
俺はハーキュリーバイトスネークの頭のほうへ跳躍すると、かかと落としをして、頭をつぶした。
そして、エリナのほうへ手伝いに行こうとした。そしたら、立ったまま茫然としてこちらを見ているエリナと目が合った。




