プロローグ1-3
――“変わる”って、前に進むことだと思ってた。けど、そうじゃなかった。
寺田中学校は、取手市にある中規模校。私は二年生で、パーカッションを担当している。この学校の吹奏楽部は、「全国」が目標だった。それを初めて聞いたのは、一年生の冬のことだった。
「うちは、全国を目指します」
顧問の先生は、まっすぐにそう言った。私たちは戸惑った。「そんなの夢であって、現実の目標じゃない」って。けど、その日から先生は、毎日のように繰り返した。
「本気でやれば、夢じゃなくなる」
私たち二年は、はじめは信じ切れなかったけど、少しずつ、先生の言葉が胸に残るようになった。それがちょうど、空気が変わり始めたころだった。
しかし、県南前に誰かが急にやってられないと言い、来なくなったり、それで誰かが泣いたりと…。結構酷かった。しかし、まだ、これはまだマシだった。
今から一週間前、先生が突然倒れた。何日か部活が止まった。音がほとんど鳴らない部室は、こんなに静かだったのかと初めて気づいた。
「どうする? 誰が見てくの?」
「今やる意味あるの?」
そんな言葉が飛び交って、みんなが迷子になった。でも、立ち直れた。
練習は正直、しんどかった。パーカッションは、見えにくい。聴こえにくい。でも、支えてるってわかってる。リズムがズレれば、全体が崩れる。だから、誰よりも冷静でいようと思った。誰よりも、音を聴こうとした。
泣きたくなった日もあった。打点が安定しなくて、スネアの音が浮いてるって何度も注意されて。でも、仲間がいた。
「後ろがいないと、吹けないんだよ」
そう言ってくれた先輩の声が、今でも残ってる。
今日、私はその証として、ここにいる。この手に持ったスティックと、身体に染み込んだテンポが、すべて。
見えないところで支えてきたリズムで、私はこの場所まで来た。その先に何があるかなんて、まだ分からない。でも、分からないままでいいとも思ってる。
私は今、舞台袖に打楽器を運搬するために立っている。ここまで来れた。それだけで、少し、強くなれた気がする。




