森人族との話し合い
荒々しい歓迎を受けた俺たちだったが何とか森人族の里へ到着した。
皇城をゆうに超える高さを持つ巨大樹を中心に広がる森人族の住まう地は長閑で穏やかな村といった印象を受けた。
実際、建物自体は木材中心に作られており石造りの建物はひとつ無い。
襲いかかる森人族を止めてくれた青年の先導で俺とリルは大きなホールのような建物に連れられた。
双子の姉妹の森人族が隠そうと努力していたが道中俺たちに向けられた懐疑と若干の好奇の視線をみるにやはり歓迎はされていなさそうだな。
建物の中はまさに集会所のよう…というか集会所なのだろう。
待っていたのは壮年の森人族が数名。
「里長、お連れしました」
「うむ。精霊の愛し子様、水の精霊王様、此度は我らが里まで御足労いただきましてありがとうございます。そして我が里の者たちがご無礼を働いてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、随分と珍しい歓迎をしていただきました。やはり異文化というものは興味深いものですね」
人魚族の時と同様にこれは交渉。
相手に負い目があるのならば付け入らない選択肢は無い。
挨拶代わりの先制攻撃を里長はゆらりと受け流してきた。
「そう虐めないでくだされ。あの者たちとて里を守らんと必死だったのです」
「だから許せと? 警告なく仕掛けておいて虫が良すぎるとは思いませんか? 普通の人間ならば死んでいたと思いますよ」
「お怒りはごもっとも。ですが貴殿から溢れる魔力は普通の範疇にはありますまい。人族には過ぎたる力、悪魔の受肉を疑ってもなんら不思議はない。故にあの者たちは警告なく攻撃を始めたのでしょう。それにこの里に住まうエルフの中で隠れし精霊の気配を確実に悟れる者は私のみ。気づきようのない事故であったのです」
ふむ。想像通り論理的に考えられる御仁のようだ。
こちらの勢いに負けて平伏するならそれも良し、一つずつ筋を通して語るのならばなお良し。
このやり取りだけで里長が無能ではないことと俺たちを見下していないことがわかった。
「さて、私をお試しになるのも良いですが本題があるのではありませんか?」
「そうですね。私の先程までの礼を欠いた言動は歓迎の件とで相殺とするでいかがです?」
「心遣いありがたく。要件に入る前に里の主要な者を集めさせて頂いてもよろしいですかな」
「もちろんです」
揃うまで里長と世間話をすること数分、数人のエルフが入ってきた。
俺たちを襲ってきた森人族の指揮官もいるな。
「お待たせいたしました。改めまして里長のアービルです。長老とも呼ばれております。さて、ご要件を伺いましょう」
「アルニア皇国第三皇子のルクス・イブ・アイングワットです。隣にいますは水の精霊王リル、私の契約精霊の一人です。此度は人魚族と我がアルニア皇国から同盟の使者として参りました」
「同盟、ですか。敵は…言わずもがなですね」
「えぇ。対悪魔のための同盟となります。既にご存知のことかもしれませんがこれまでに起きたこと現状をお伝えします」
俺は共和国に足を踏み入れたところから人魚族と盟を結ぶに至るまでの経緯と最新の情勢について語った。
これに対する反応は二つに分かれた。
嘲笑する者と深刻にみる者だ。
「我らが崇める風の精霊王様の契約者が何を仰るかと思えば我らに従え、ですか?」
「そうは言ってない。これは悪魔に対抗するための…」
「その悪魔に敵わないから我ら森人族に助けを求めているということでしょう? それを同盟という建前で我らを従わせようとしている。違いますか?」
アービルの隣に座っていた森人族が自信満々に囀る。
見当違いも甚だしい。まともに話が通じる奴なのかすら怪しいな。
「叔父上! そのような言い方はあまりに失礼です。先程説明してくださったようにルクス殿や人魚族は敵中で孤立している我らが悪魔にいいようにされないようにと…!」
「それ自体が我らを従えるための口八丁かもしれぬと考えられないのか? 相手を好意的にしか見れない時点で次なる長としては失格よ」
「ッ!!!」
庇ってくれたのは族長アービルの息子であるエルフ。
俺の説明から情勢を理解し深刻に考えていた一人だが一蹴されてしまう。
「そもそも我らは既に独力で悪魔を退けている。偉大なる先祖達がこの森に施された惑わしの結界がある限り、我らエルフが悪魔に遅れを取る事はない。つまり我らに盟を結ぶ利点がない。違いますか? 兄上」
「確かにナビールの言い分は一理ある。愛し子殿、悪魔たちが我らが里に攻め寄せる根拠はいるのですか?」
「確たる情報はありません。しかし、人族が一都市に追い詰められ、土人族が敗走した今、次に狙われるのは間違いなく森人族の人々でしょう」
人魚族は水辺でないと行動できないため悪魔たちからしたら目下、排除すべきなのは森人族に他ならない。
支配領域内にある敵対勢力など邪魔でしかない。
あの悪魔は目的のためには万全を期する堅実な質だと俺は感じた。
だから、人族の殲滅戦の前に確実に森人族を攻めるはず。
「愛し子殿の言うことも理解できます。しかし、事は我ら森人族にとって重大かつ大きな決断となります。いかに里長といえど一人で結論を出すことはできません。故に全ての同胞から意見を聞く時間を頂きたい。二日後の朝、同盟への参加の是非をお伝えいたします。それでもよろしいですか?」
「分かりました。ただ、情報を鑑みるにあまり時間はないかもしれません。返答は可能な限り急いでいただきたい」
「もちろんです。我らが答えを出すまでの間、愛し子殿には里に滞在していただきましょう。マーゼル、北側の空き家にご案内してくれ」
「分かりました。ルクス殿、こちらへ」
マーゼルと呼ばれたのはここまで案内してくれたエルフの青年だった。
できることならこの場で結論を出させたかったが仕方ない。
俺はマーゼルと共に集会所を後にした。
退出するまでの間、俺の背中には鋭い視線が注がれていた。
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