新たな友の願い
更新遅くなり申し訳ありません。
書くのに夢中になるのも考えものですね。
「短い間ではありますがこちらの空き家でお過ごしください」
「ありがたく使わせてもらうよ」
割り当てられた住居の中は森特有の匂いが充満していて鼻腔をくすぐってくる。
マーゼルの言葉に頷いて備え付けられている椅子に腰掛けると俺たちの後ろを付いてきていた双子の森人族がお茶を淹れ始めた。
「ルクス殿、お疲れのところ申し訳ありません。折り入ってお話しがあります」
「お話し…ね。このタイミングでということは同盟に関することという認識で合ってるよな?」
「はい、その通りです。私の名はマーゼル。森人族の里長が子にございます」
最初に襲ってきた森人族の指揮官が次なる長と口にしていた時から察しはついていたがやはりそうか。
今にして思えばアービルに顔立ちもよく似ている。
「私は一刻も早く盟を結びたいと考えてます。しかし、ナビール叔父上を筆頭に里全体の意見は森人族単独での対抗に偏っています。特に自らが優れた種族だと勘違いする者たちがあまりにも多い。このままでは我ら森人族は早晩滅ぶことになる、というのが私の認識です」
「俺もそう思ってる。だからここに来たんだ。これ以上の犠牲を減らすためにな」
「ありがとうございます。現在私と志を同じくする者たちが里の者たちを懐柔して回ってますが、二日後の裁決までに意見が固まるかは正直のところ厳しいというのが現状です」
「だろうな」
森人族の里に入ってから向けられた視線。
純粋に人族が何故ここにというのもあっただろうがあの視線はもっと敵意や軽蔑に近いものだった。
恐らくは森人族に力を借りに来た身の程知らずな人族に見えていたのだろう。
「確かに我々森人族には優れた容姿と風魔術があります。弓の腕も含め人族に劣るとは私も思っていません。だがそれは他者を見下す理由にはなり得ない。これは戦争のお話しです。ルクス殿が語られた悪魔に属する敵の総数と力量を聞くに惑わしの結界があるといえど必ず滅ぼされる日が来てしまう。次期里長として、何としても防ぎたい。ですが、私の力では変えられない、抗うことすら許されない。ゆえに精霊に愛されし者《ルクス殿》に伏してお願いいたします。そのためにお力を貸して頂きたい」
マーゼルが机に頭を擦り付けるように下げた。
そこにあるのは次代を担う者としての責任。
里に住まう同胞を守るために努力し、思案し、自らの力ではどうにもできなくなったからこうして同盟への参加を求めに来た他種族の俺へと。
例え森人族の誇りを捨てたとしても、そのせいで同胞に蔑まれても、きっと彼はこの選択を間違いだとは思うことはないだろう。
そう感じさせるに十分な目をしている。
「顔を上げてくれ。これから友になる相手に頭を下げさせていては友と呼べない」
彼の決意には応えなければならない。
責任ある立場から逃げずに戦う者を俺は心の底から尊敬するし尊重したい。
「ルクスと呼んでくれ。友よ」
「分かりま…いや、分かった。我が心の友ルクス、私は何としても里のみんなを守りたいんだ」
「やって素を見せてくれたな。それで俺に何をさせたい?」
「先程もあげたが正直森人族の意見を共闘にまとめるのは難しい。時間をかければ可能だがそこまで猶予は残されていないだろう。故に保険を施したい」
双子の森人族たちが持ってきてくれたハーブティーを口へ運ぶ。
すっとする匂いが鼻腔を駆け抜ける。
マーゼルが語った強硬手段は奇しくも俺が考えていたことと同じだった。
そのことを伝えると新たな友はにやりと笑った。
「ははっ、やはり私たちは気が合うようだ。そうは思わないかファエリナ、フェネラ」
「嬉しそうだな」
「これまでマーゼルと考え方の合う者なんていなかったですものね」
「あぁ。今はこの出会いに感謝するばかりだ。そうだ、紹介させて欲しい。左がファエリナ、右がフェネラ。双子の同胞で私が最も頼りにしている仲間だ」
一糸乱れずに深々と礼をする。
顔つきはまさに瓜二つであるがファエリナは金色の長髪で後頭部のあたりでひとつに結んでいるのに対してフェネラは髪を下ろしているので間違わずに済みそうだ。
結びを解かれた場合は…うん、無理だ。
「よろしくお願いする」
「よろしくお願いしますわ」
「ファエリナは弓の名手でフェネラは里一番の風魔術の使い手。もし、例の保険を使わなければならない場面になれば必ず役に立つだろう」
「頼もしいな。それにしても双子の姉妹か」
ファリエナとフェネラを見ていると妹たち《フィアとシア》が頭をよぎってしまう。
二人は元気だろうか。
俺の状況を知らないでくれればいいが。
知ればきっと心配をかけてしまうから。
「どうした?」
「いや、俺にも双子の妹がいてな。少し思い出してた」
「そうか。里長に語っていた話では一人孤立してしまったのだったな」
「私たちが妹様達のことを思い出させてしまったならすみません」
「フェネラさんが謝ることじゃない。むしろこの窮地を乗り越えないとって改めて思えたよ」
可憐で繊細な妹たちと再開するにはどれだけ壁が高くとも乗り越えなければ。
決意と共に内心で気合いを入れ直していると三人の森人族たちは肩を竦めたりふっと笑った。
「その心の強さには尊敬の念が湧き上がる。私も負けていられない」
「そうだな。私たち森人族のことに巻き込むからには必ず良い結果を出してみせる」
「意気込むのはいいですけど空回りしないようにしましょうね。…時にルクス様。風の精霊王様はどちらに?」
「召喚も念話も通じない例の結界の外だ。丁度離れた時に結界を張られた。そのせいで単身悪魔と戦う羽目になったんだ」
「悪魔と…単身? …精霊王様の力なしで?」
「まぁな。普通に死にかけたし運が良かったよ」
実際あの地下に水路があったことやマルフェアと出会えなければ俺はここにいなかったはずだ。
やはり清廉潔白に生きていると良いことがあるものだ。
「ルクスですら追い込まれる相手か…。やはり悪魔の戦力は侮り難しか。今後の策の委細を悪魔の力を知るルクスと共に練り直した方が良さそうだな」
「練り直すことには賛成だけど俺は魔力が多いだけでそんなに強くないぞ」
マーゼルとて悪魔のことを甘く見ているとは思わないが実際に奴らの力を見て体感していなければ策の前提が崩れ相手の力量を見誤る。
だから俺がマーゼルの思い描いた策に助言と補足を加える。
確か学園では赤を入れると言うのだったか。
むかしエレニア姉上がそんなことを教えてくれたな。
「私のルクスほど魔力制御に長けていて底が見えぬ人物は知らぬ。言い方は悪いが森の外にこのような化け物が雑多にいるのであればこれほど悪魔に好き勝手を許さぬだろう?」
「それは…まぁ」
「謙遜も過ぎれば嫌味になる。もう少し自分の力を誇示してもよいと思う」
「そうか? 国だと精霊との契約も何もかも伏せてるから誇る場面なんてないんだよな」
「ならばこの機会に少し慣れておくことだ。いずれ伏せてはいられぬ時が来ると私は思う。その時堂々と胸を張れるようにな」
ふっと笑って語るマーゼルは預言者のように何か確信を持っているように思えた。
俺はその眼差しから逃げるようにハーブティーを口へと運んだ。




