雪月の思い
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その後もあやかしについては、雪月の作品の題材ということもあって華乃子と雪月の会話の話題に上るようになった。雪月は話の題材を探すふりをして、華乃子が今まで抱えてきたあやかしに関する愚痴を言わせてくれた。視えることを隠さなくてよく、また、辛い過去を肯定してくれた雪月に対し、華乃子は徐々に打ち解けていった。
「だって、仕方ないと思われませんか? 私の目にはちゃんと女の子に見えるし、大人の男の人に見えるんです……。そんな姿をあやかしだと疑えということに無理があります。異形の姿をしているあやかしならまだ無視も出来ますけど、人間の姿で話し掛けられたら応えてしまうのが普通じゃないですか……」
華乃子の話を穏やかな顔でふむふむと聞いている。この頃になると華乃子の賄のおかげか雪月の顔色もすっかり良くなり、やや細かった腕にも筋肉が付いてきた。しきりに華乃子のおかげだと感謝を述べる雪月は、華乃子の話についてこう言った。
「現世と幽世は表裏一体、とする説が多いですからね。だから、人々が信じなくなったあやかしたちは、現世から姿を消していった……。悲しいと思いませんか? 人間は確実に其処に『居る』のに、あやかしたちは人間が信じてくれないと此処に『居られない』のですよ。それを思うと、華乃子さんが『視て』くれるから、あやかしたちは華乃子さんに救いを求めたのかもしれませんね。存在を肯定してもらえるということは誰にとっても嬉しいことです。華乃子さんもご経験があるじゃないですか」
存在を……。
華乃子は考えた。過去、父や継母、弟妹や友達から受けた、自分を否定されるという仕打ちがどんなに辛いことか、華乃子は身をもって知っている。じゃあ、あやかしたちは昔の華乃子と同じ立場に居るということ……?
「……先生……、……私、あやかしのことをそんな風に考えたこと、ありませんでした……。……でも、彼らが私と同じ境遇だったら、それは辛かったですね……」
辛かった……。今まで誰にも理解されなかった、あやかしが視えてしまうという事実。それを雪月は華乃子が語るごとに肯定して頷いてくれる。それどころか雪月が大事にしている題材のあやかしと華乃子を、同じように扱ってくれる。不器用ながらに雪月は華乃子に理解を示してくれているのだと感じて、華乃子の心はじん、と痺れた。『視える』華乃子がそのままでいい、と言われたような気がする。……素直に嬉しかった。
「先生……。あやかしが視える私は、……このままで生きていけるのでしょうか?」
ずっと否定され続けてきた為、雪月に慰められた後も不安に駆られることがあった。視えることを忘れて生きたいとも思っていた時間は長く、それ故華乃子の心にこびりついていた。しかし、今の華乃子のままで良い、と雪月の口から繰り返し言ってもらうことが出来たら、華乃子が今まで抱えてきた辛かった思いはその度に昇華されて、最後には消えてなくなるような気がした。
「華乃子さんが、どれだけご苦労されて、どれだけあやかしたちに救いを与えたのか、僕が想像し得る全ての想像力をもって、僕が描く小説の中の華乃子さんを幸せにしたい……、そう思います。僕の思いは、これで伝わるでしょうか……?」
照れくさそうに微笑む雪月のことをこれほど信頼できると思えるとは、配属先が変わった直後だったらきっと思わなかっただろう。それほどまでに華乃子が抱えてきたあやかしとの『戦い』は華乃子の人生に暗く影を落としていたのだった。
「……是非、拝読させてください……。いつまでも待ちます……」
華乃子が微笑むと、雪月は耳を赤くして、照れますね、と頭を掻いた。その微笑みに胸があつくなる。華乃子の言葉に素直に反応してくれる、その誠実さが良い、と思った。




