才能の裏にいる作家
バイオレットの告白は、アカメの中に同情に似た何かを呼び起こした。落ち着いた表情の裏で、静かな痛みが胸に沈んでいく。
彼は彼女の信頼を取り戻したいと願っていた。自分のVTuber事務所の才能として、そして小説スタジオの作家として、彼女が本心から加わってくれると思えるほどに。その野心は、彼自身が表に出す以上に、彼にとって大切なものだった。
アカメは考え込むように顎に手をやり、視線を一瞬テーブルの脇の窓へ向けた。
「へえ、全国大会の短編王者だったんですか。それは興味深い」
手を下ろし、ゆっくりと頷く。
これで、バイオレットとヒミコがこれまで説明してきたことの全体がようやく腑に落ちた。
「なるほど。公開前に、一緒に物語を磨いていきましょう」
アカメはしばらく黙り込んだ。
空気が少し張り詰めすぎたと感じ、彼は二人に何かご馳走することで場を和ませようと決めた。あえて何気ない笑みを浮かべながら。
「何か注文されますか、姫星さん? フィオーリは?」
アカメは、バイオレットの表情が少しずつ和らいでいくのに気づいた。一方ヒミコは、ほとんど飲み終えたカプチーノの最後の一口に戻っていた。カップの縁にわずかに泡が残っている。
「ありがとうございます、赤和女。アメリカーノをお願いしてもいいですか」
アカメはまた驚かされた。今度はバイオレットがブラックコーヒーを好むという意外性に。
「も、もちろんです。フィオーリは、もう一杯カプチーノにしますか」
ヒミコは飲みかけの手を止め、それから首を横に振った。
「いえ、大丈夫です、赤和女。私にとっては、もう一杯のコーヒーより、ヴィオの方がずっと大事なので」
アカメは頷き、ウェイターを呼んでバイオレットのアメリカーノを注文した。
「他に何か話しておきたいことはありますか、姫星さん」
バイオレットはゆっくりと頷きながら、鞄からノートを取り出した。何度も持ち歩いてきたせいで、角が少し折れている。
「赤和女さん、このノートには五章分の下書きが入ってます。短編作家の私にしては、もうかなり長い分量だと思います」
彼女はそのノートをテーブルの上に置いた。
「よろしければ、読んでいただけますか」
バイオレットは頷き、ノートをアカメへ手渡した。
アカメはそれを受け取り、読み始めた。
一語一語を丁寧に、ゆっくりと読み進めていく。店内のざわめきは、彼の意識から完全に消え去っていた。
タイトルだけで、すでに好奇心をかき立てられた。
続けてあらすじへ目を移す。そこにあったものは、本物の恐怖と、燃えるような好奇心の両方を彼の中に呼び起こした。
村のネコたちを救ったというだけで、なぜその人物は追い詰められ、パンの詰め物にされてしまうのか。
アカメはページを一つも飛ばさず、すべての章を読み通した。
やがて第五章の終わりに辿り着いた。
満足感が彼を包み、いつもの落ち着いた表情の奥から、ささやかで本物の笑みがこぼれそうになる。
それでも、頭の片隅で何かが静かに引っかかっていた。
もう一度ページを遡り、その違和感を確かめようとする。
まもなく、アカメは原稿の中に埋もれていた矛盾を見つけた。
「姫星さん、この設定は本当に恐ろしいです。物語には引き込まれますし、特に描写の不気味さが好奇心をずっと保たせてくれます」
アカメはノートをバイオレットへ返しながら、説明を続けた。
バイオレットはいつも通り平坦な表情を崩さなかったが、アカメはその目にかすかな興奮の光を見て取った。彼女自身、それを表に出しているとは気づいていないだろう興奮だった。
しかし彼の言葉は、注文していたアメリカーノを運んできたウェイターによって一瞬中断された。
「タイトルも、あらすじも、そして全体の構想も、僕は好きです」
アカメはバイオレットの隣に置かれたノートへ視線を向けた。
次に何を言うかで、これからバイオレットが自分自身の書く力をどう捉えるかが変わってくるかもしれない。そう意識しながら、彼は言葉を慎重に選んだ。
彼はバイオレットに、これからはヒミコという唯一の読者にだけ頼り続けるのではなく、自分自身の判断も信じられるようになってほしいと思っていた。
その結論は、原稿を何度も読み返したあとで、ようやく彼の中に固まったものだった。
彼は再びバイオレットに視線を戻した。表情が真剣なものへと変わり、先ほどまでの温かさは、より抑制の効いた口調へと変わっていく。
「姫星さん、あなたがこれまで、親友のフィオーリの助けにかなり頼ってきたことに気づいています。でも、学び続けて技術を磨いていけば、短編を書いていたあの頃を超えられると、僕は本気で思っています」
アカメの視線は、まだアメリカーノを口にしているバイオレットへ向けられた。
彼はしばらく考え、批判が彼女の意欲を削がないよう、言葉を慎重に選んだ。彼女の平坦な表情の奥にすでに感じ取っていた、静かな誇りを気に掛けながら。
まもなく、彼は自分が重要だと考える文章の基本をいくつか説明することにした。
「一方で、いくつかの基礎を忘れかけているようにも感じます。その一つが、一人称限定視点の使い方です。まだ少し一貫性に欠けている部分があります」
バイオレットは黙ったまま、返事もせずアメリカーノを口に運び続けた。
そこへヒミコが口を挟み、アカメの注意はそちらへ移った。
「すごい。あなた、本当にしっかりした文章力があると思う。あなたになら、ヴィオを任せられそう」
アカメは頷いた。ヒミコの言葉に込められた気持ちをありがたく受け止め、短い賛辞ではあったが、素直に心を動かされていた。
「褒めていただきありがとうございます、フィオーリ」
彼は少し間を置いてから続けた。
「実は、以前友人と一緒に小説を書いていて、この事業はもともと小説スタジオのプロジェクトとして始まったものなんです。でも、まだ多くの人に僕たちの作品が読まれる前にその友人が早々に諦めてしまって、結局僕一人で書き続けることになり、そこからこのプロジェクトをスタジオとVTuber事務所の両方へと育てていったんです」
アカメは一瞬目を閉じ、息を吐いた。あの古い友情の記憶は、これまでの出来事すべてを経てもなお、はっきりと傷を残していた。
「それでも、彼から多くのことを学びました。一人称限定視点から、全知の三人称視点での書き方まで。母親や父親、十代の若者、それ以外のあらゆる人物の考え方や話し方の捉え方も身につけました」
アカメが注文してくれたアメリカーノを飲み終えると、バイオレットが再び口を開いた。
「ヒミコの言う通りだと思います。私がヒミコの助けに頼ってきたことに気づく人は、あまり多くないはずです。それに気づいてくれたことは、素直に評価します」
アカメはバイオレットとヒミコを交互に見た。
「温かい言葉をありがとうございます。次回の打ち合わせでは、姫星さんが演じるキャラクターをお見せできればと思っています。それと、次の下書きも読ませていただき、いずれ最終原稿も拝見したいです」
アカメはバイオレットが頷くのを見届けてから、隣にいるヒミコへ視線を移した。
「次回の打ち合わせは、姫星さん一人で来ていただけると助かります。誰の助けも借りていない、そのままの文章を見せていただきたいので。次の下書きまでは、引き続きフィオーリの助けも構いません。でも、最終原稿は完全にご自身だけの力で仕上げていただく必要があります。それから、姫星さんがすぱべーすの最初の才能であることを、お二人で守っていただければと思っています」
ヒミコは頷いた。
そのあと、三人は連れ立って喫茶店をあとにし、近くのバス停で自分たちのバスを待ちながら、日本のあれこれについて気軽に話し込んだ。先ほどまでの張り詰めた空気は、いつの間にか心地よい気安さへと溶けていた。




