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パラノイド・ノーマッド  作者: nekodendislike
1章: シニカルコメディ編
18/18

18話: パラノイド・ノーマッド

 自分でも起きている事に収拾がつかない。今まで見てきたものはなんだったのか?そして今見ているものは何か?…これちゃんと回収してくれるんだろうな!?

 

 少し整理しよう。何だったんだ今のは。あの男は誰だ。自棄になって強く出てしまったが、気分を害してないだろうか。…さっきまでいた爆乳アイランドだったら、正直な話をすればヴァーチュオに嫌われないように最大限気を使っていたのだが、どうせここも四日持たずに帰れない場所となるのだろう。そういう不安が俺を襲ったんです。まあこれで正当化の材料にはなるな…なるな…無理あるか。もうなんでもいいよ。

 

 「よう。」

 考え事をする間も無く、謎の声が響く。ただ視界のない部屋で口だけが動く。

「誰ですか?」

 と俺は咄嗟に返すと、男の声は

「わしか?気にしちゃいけねえ。お前にお告げをしに来た。」

 という壺の勧誘と思われてもおかしくない発言を飛ばしてきたので、疑心暗鬼に返すこととした。

「そんな胡散臭い事を言われても…」

「そういうのは本人に言わないのこの捻くれ坊やが。」

 こいつもどこか、俺と同じような匂いがしている。ちくしょうめ、そもそも俺を起こす努力もしないで無粋に話しかける阿呆はどこのどいつだ。そもそも俺も、自分の置かれている状況に早く気づくべきだった。極論こいつも男だろう、エロい女紹介してくれないなら強く出てやるよ。…ひどく前向きだな。…そしてドクズナンパ師みたいな語り口で嫌だな…ドクズではあるか。

 

「そもそもここはどこやねん。俺を起こす努力もしないで何を企んでんだ?」

 男は少々驚いた様子で、

「急にお前態度変わったな!?なんなんだよ!?」

 といった。この様子が若干面白かったので、俺はこのキャラを貫くこととした。

「そもそも『お告げ』ってなんだよ!?弱みに漬け込む商売でもする気かよ!?」

「まあ確かに胡散臭く聞こえるかもしれないけどねぇ…お前ぐらい賢いやつをわざわざ騙しにいかんぜ…」

「おべっか使ってる時点で余計怪しいね。」

「とにかく悪いことは言わないから信じてくれよ!」

「泣き落としかよ!?もうちょい騙す方法考えてこいよ!?」

「これ泣き落としって言うの!?」

「そこかよ!?」

 …こいつアホすぎて埒が開かない。俺を起こす話をどこかに逸らそうとして、飛んだひょうきんを働いていそうな節が透けて見える。本当だったら短い人生、こんなやつに時間を使っているのも勿体無いので、自力でどうにか自由意志を取り戻す方法でも模索したいところだが、今は会話のような何かをすることしか叶わない。こうなったら単刀直入に助けを求めるしかないのか。くっ…殺せ…

「とにかく俺を起こしてくれよ。そうしないと話できねえよ。あんた外部から話しかけているんでしょう?」

「起こすと言っても…どうやって?」

「知らないのかい。本当に何が起こってるの?ここはどこ?俺は誰?お前どこ中?」

「ジョーク飛ばせる余裕はあるんだな。」

「うるせえよ。」

「あーもう!と!に!か!く!わしは上から『言え』と命令が下ってるからお前が聞こうが聞くまいが言わなきゃいけないの!」

「随分とメタいな!?」

「やかましいわ童貞!」

「うるせえよ詐欺師!」

「詐欺師でもなんでもいいよ!本当にさ!会話のテンポぐだぐだで読者が飽きるから勘弁して!?」

「それが何になるって言うんだよ!?」

「…もう軽く言っちゃうわ。読者が離脱するとその数字を気にして作者が凹む。それが続くと奴が話書くのやめて、わしらの未来は提供されなくなる。あとで説明してやるよ。」

「面倒くせえ性格してるな…」

「モチーフはお前らしいぞ。」

「いやそれは逆やろ。」

「え?」

「え?」

 

「…話始めていい?」

「ええよ。」

「ゲストも呼んであるぜ。」

 そう言った矢先、瞼が開く感覚がないにも関わらず、後頭葉が確かに視界を認識し始めた。今週の謎技術である。四肢の感覚にもどこか拭えない、それこそ夢を見ているかのような違和感があるが、無視できる範囲である。もうこの時点で色々突っ込みたいが、謎技術という言葉に全部押し込めることにする。疲れた。


 そこで見たのは、どこまでも白くなにもない空間に、俺によく似た外見のヒョロガリで、眼鏡をかけており、自信がなさげな表情をした男と、不透明度と透明度を間違えて設定してしまったのかと思うほど、文字通り透き通る男だった。服は着ていないが、肩より上は見えないので問題はない。どんなチー牛が拝めるのかと思いきや、恐らく眼鏡さえ外せばそれなりに悪くない顔をしている。やはり背後に存在するご都合主義と商業的圧力を感じずにはいられないが、本当にブサイクなキャラなんて誰も観たくないでしょうから、まあ事情はわかる。

 ヒョロガリは言った。

「私は何を見せられているのか。」

 その声にピンと来た。前の話で俺とケンカをやりあった相手そのものだった。互いにそれに気づいたときには、何ともいえない静寂が訪れている。なんかデジャヴあるんだよな…そうだ、俺とヴァーチュオの会話だ。

 そんな思慮を巡らせるだけ無駄であるため、さっさとこの均衡を破ることにした。

「俺は…えっとな…ニコラっつーんだけどさ…」

 ああくっそ、なんであんな名前をつけたんだ。

「ああ、私は[検閲により削除]と申します。この前会いましたよね、あの時はすいませんでした。」

 …こいつ何に謝っているんだ?

「いえいえとんでもない!そちらこそ大丈夫でしたか?」

 …俺は何を心配しているんだ?

「ええ、なんとか。」

 そう彼が言ったきり、貼り付けたような静寂は再び流れる。会話下手すぎないか。堪らず俺は透明人間に対して、この空気感をどうにかしてくれと言わんばかりに、苦手なアイコンタクトを送った。幸いにも、それは直ぐに伝わったようで、透明人間は

「…話し始めていいか?」

 と切り出してくれた。


 透明人間は若干腹が立つような眉間の使い方をしたのちに、口を開いた。

「まずな、お前が何者かを説明してやる。お前は、『パラノイド・ノーマッド』という小説の主人公なんだ。」

 という、クソしょうもないテンプレート(個人の感想です)展開をまさか目の当たりにするとは思ってもいなかったから、俺はたまらず

「結局転生ものかい。しけてるな。」

 と返す。例のヒョロガリも

「訳がわからないよ。」

 と、きな臭い喋りのまま続けている。透明人間は、これに対する反論を用意していたかのように返した。

「けど話は決まっていないのさ。それを切り開くのは、お前のこれからの行動。」

「…んじゃあ普通の物語じゃねーか。卒業ソングの野田洋次郎みたいな言い方すんなよ。」

 考えがそのまま口に出てしまった。

「…まあまあ、自分の人生にタイトルをつけたら…まあなんかカッコいいでしょうよ。」

 誰も理解できないようで、完全に場が凍ってしまった。そのケツを拭くかのように透明人間の話は続く。

「…でもさ、誰かに造られた過去よりは、ずっとマシに思えないかい?」

 いいやなんの話やねん。ヒョロガリもこいつも揃ってポエマーかよ。俺そういうの本当に嫌い。その…自分に酔ってる感じが。都合よく気障なこと言っておけばいいと思えば大間違いやで…と、思ったことを並べていたら、ヒョロガリがやや自慢げに

「それを、人生と言います。」

 と、これまた気障ではあるが程よく代弁してくれた。

 

 待てよ、…そう言えば俺はこれまでメタ発言を大量に繰り返してきたが、まさか本当に自分が物語の一枚目なのであれば…本当に読者がいるのか?誰に吹き込まれた?待ちやがれ、やや癪な言葉ではあるけど、人生の主人公は自分という、頭に温室でもついているのかよ、と思うほど世間知らずな言い草がある。そう考えたら、俺の人生なんてそう珍しいものでもないはずだし、追っても面白くないだろう。むしろ勝手に誇張改変された上で自分の恥を晒しあげられるなど、もはや何のプレイだかわからない。ただ、俺も気づけば演者となる自分がいて、読者がいるという環境に相当慣れきっていた。その時点で何か言っておけば、こんな媒体を通じて公開処刑されることなどなかったはずなのに…


 人間とは追い詰められると、よくわからない覚悟を決めてしまうものである。俺は普段の女々しさからは考えられないほどあっさりと、もう俺の堕落した人生が嘲笑の的として消費されるのであれば、せめて最高の演者であり続けてやる、と決めた。


 透明人間は、自分の思考が一段落したのを見透かしたかのように、次の話を始めた。

「ついで、お前らの話の設定がどうなっているのか。簡単に説明すると、お前が大事にしていたものが壊れてしまったのさ。」

 いや、さっき切り開くのはお前言ったやん。何?不幸イベントだけ投下していくスタイル?

「といいますと?」

 ヒョロガリが場を繋いだ…場ってそんな刹那的なものじゃないでしょう。

「お前さ、さっきからずっと見ていないものがあるはずだ。」

 見当がつかない。そもそも過去を見渡しても、今を見てもひたすらに混沌としている中で思い出すこと自体に無理がある…もしかしてこいつ、質問を投げかけて薄い話を引き延ばそうっていう魂胆じゃねーのか?なんて邪推をした刹那、ヒョロガリが答えた。俺ももう少し建設的に議論すべきか。

「もしかして…コペンのことですか?」

「1発で正解するなよ…面白くねえな。」

 そういえば、俺はここしばらくコペンを見ていない。簡単にいうと、俺に三人称視点をくれる犬である。信じられないと思うがこれ以上に説明しようがないんだ。俺が三つの時から、どんな時も自分を支えてくれる相棒だ。はい、説明パート終わり。

「私も確かに気になっていました。小さな頃から、学校にも付き添ってくれていたコペンが、ここにきて突然いなくなるなんて。」

 お前絶対存在忘れてたでしょ…俺もだけど…ちょっと待て、いや待ってもらってる、何でこいつがコペンと一緒にいたと言っているのか?いくら何でもそれは違うだろ。

「え?コペンは俺のペットだけど?頭おかしいんじゃねーの?」

「何を言いますか。気狂いはあなたでしょう。」

 ああ、本性表したな。咄嗟についた嘘を庇っているだけなら、さっさと謝ればいいのに。けどこう言う時こそ冷静にならなければならない。ピキったら負けだ。

「建設的に話そう。俺が指してるコペンとお前の言うコペンが違うかもしれないやん。それだったら謝る。お前にとってのコペンとは何だ?」

「三人称視点を私にくれる犬でしょう。やはり信じ難いけど。」

「一緒だなあ…えっと…えっと…?これどっちが狂ってるんだ…?」

 そこまで同じとなれば、確かにコペンである。怒りよりも先に中身のない疑問が脳を埋め尽くしてしまい、もう考えることをやめてしまった訳ではないが、まともに思考が回らない。何から突っ込めばいいのかわからない。いつの間にか、手が震えている。ヒョロガリも震えている。何か破壊的なエネルギーが漲ってしまいそうである。

 透明人間が焦りながら言った。

「ああくそ、言うんじゃなかった!」

 まもなく、ただ何もないはずの空間に、明確な揺れが訪れた。それはまるで巨大地震のように、大きく不規則に、尚も気持ち悪く、軋む音を立てながら、どことなく食器の割れる音もした。俺も、ヒョロガリも、こんな揺れでは立っていられなくなり、咄嗟にしゃがみ込んで、本能的に頭に手を回した。いくら何でもこのタイミングでって、都合が良すぎないか?

 揺れが大きくなる中で、天面にヒビが入り、ポロポロと破片が飛び散り始めたと思いきや、数センチはあるだろうパネルが、続々と落ちてきた。まさかのこの空間はハリボテである。目が開けられなくなる前に、割れた天面の隙間から、只管に吸い込まれてしまうような、際限のない外の黒と虚無を垣間見た。

 透明人間が、空気も読まずに叫ぶ。

「いいか!お前らはな!狂っているから小説の題材にされるんだよ!」

 今言う話じゃないだろ!

「どうか逃げるんだ!そうすれば、彼が君の苦しみや悲しさを、全部買い取ってくれる!」

 透明人間は言うことも聞かずに話を続けやがった。流石に腹が立ったので、

「つまりそれ体の乗っ取りじゃねーか!都合の良い所ばっか切り取りよって!」

 と言い返してやった。奴はそれをもろともせず、まるで遺言のように叫ぶ。

「これからお前らには沢山の苦痛が待ち受ける!沢山の孤独に苛まれ、沢山の死を目撃し、沢山の人に裏切られ、沢山の恥を晒すことになるだろう!どうか!パラノイドの!ノーマッドであれ!どうか!正気であれ!」

 こんなシーンでタイトル回収するな!

これにてひと段落終了です。これで、私は編入の勉強に専念できます。…でも勉強から逃げるべくぽちぽち書き出してしまう未来も見えます。

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