変色
その後も通りのたまたま目に入った店に寄り道しながら架橋神社の方へ戻って行った。
途中の小さい本屋で菊守がまた大衆小説を買おうとしていたが導仁に取り上げられていた。
しかしその後導仁の目を盗んで菊守が別の本を買っているのを葵亥は見逃さなかった。
菊守は笑顔で葵亥の目を見て、声を出さずに何か口だけで伝えようとしていた。
葵亥は読唇術は得意では無いが、多分「内緒ですよ」だった。
神社の近くまで来たとき椿嬉が思い出したように言った。
「あっせっかくなので葉香園に寄ってから帰りませんか?
四葉も焼き芋に誘ってあげなくちゃいけないし」
「たくさん歩き回ったのでお茶も頂きたいですね。」
実際に葵亥も少しのどが乾いていた。
葉香園に行くと四葉と女将さんが店にいた。
「四葉、お茶しに来たよ!」
「椿嬉ー!いらっしゃい。
どうぞどうぞ、こちらへ座ってください」
「よかったら四葉殿も一緒にお茶しませんか?」
導仁が四葉に声を掛けた。
さすが、できる男だと葵亥は思った。
「ありがとうございます!それならお茶を運んできますね」四葉が嬉しそうに奥へ茶の準備をしに行った。
葵亥、菊守、導仁、椿嬉の四人は四葉に勧められた席についた。
少し離れた席にも男が二人座っている。
一人は丸顔の男で、もう一人の男は綺麗な深緑の根付を付けている。
多分以前にもこの葉香園で見たことのある男たちだ。
「今日は色々な店を見ることができて楽しかったです」
菊守が誰に話しかけるでも無く独り言のようにつぶやいた。
「私も楽しかったです」
葵亥が言うと、椿嬉が懐から独楽を取り出して眺めた。
「皆さん、明日回し方教えてくださいね」
もちろん、と葵亥が答えると四葉が茶を運んで来た。
四葉が皆の前に茶を配り、最後に椿嬉の隣に自分も座った。
「四葉、今度皆で焚き火で焼き芋作ろうって話があるんだけど、四葉も来るよね?」
椿嬉が誘うと四葉は目を輝かせた。
「焼き芋?!もちろん参加するわ!」
「農家の方に薩摩芋を貰ってからだから四日後の予定なんだけど」
「いいわよ、四葉。いってらっしゃい」
丁度みたらし団子を運んで来た女将さんが言った。
「じゃあ決まりね」
そう言うと椿嬉はみたらし団子を頬張った。
「うんうん、おいしい。幸せー」
葵亥もみたらし団子を口にした。
たれが甘じょっぱくて美味しい。
今日は神社で國造りの儀の後で落ち葉を麻袋につめて、うどん屋へ行き、色々な露店を見て、独楽を買い、その後も適当に店を見ながら歩いていた。
こうして振り返ってみると、とても充実した時間だったように思う。
大したことはしていないのに。
不思議だ、と葵亥は思った。
少し疲れた身体に団子の甘みが染み込んで身体が軽くなったようだった。
「大勢で焼き芋だなんて楽しみですね」
菊守がみたらし団子を食べながら言った。
葵亥は皆で焼き芋作って食べる様子を想像して、口元が緩んだ。
焼き芋が特別好物だというわけではないのに、自分でも意外な程わくわくしている。
「そうですね。今から楽しみです」
葵亥が言うと、四葉が微笑んだ。
「こういうのって当日に想いを馳せるのも楽しいんですよね。
楽しみな予定を立てると、ぱっと世の中の色が明るく塗り替えられた様な気持ちになるんですよ」
何だか分かる気がする、と葵亥は思った。




