露店
「さて、何処へ行きましょうか?」
葵亥が椿嬉、菊守、導仁に聞くと、四人の中で京の都に一番詳しい導仁が答えた。
「美味しいうどん屋があります。そこへ行きましょう」
皆が賛成し、導仁を先頭におすすめのうどん屋へ向かった。
途中に楊弓場がありとても賑わっていた。米屋や、八百屋もある。
さらに行くと露店が並んでいるところがあった。
傘屋、簪屋、扇子屋、餅屋…色々な店があって面白い。
それから二軒ほど屋敷を通り過ぎると導仁が立ち止まり振り返った。
「着きました。こちらです」
『麺屋 長庵』という質素な看板が、飾り気はないが無駄のない店の雰囲気を表している。
四人で席に着いてそれぞれうどんを注文した。
葵亥はかき揚げうどんを頼んだ。
「雪笹殿も誘ったんですけど、今日は用事があるからと断られてしまいました。
私が誘うと何かと用事を思い出すみたいです」
導仁の声には十分なほど残念な気持ちが滲み出ていた。
「ええ、私も誘ったんですけど、何か用事があると聞きましたよ。
仕方ありません。また誘ってみましょう」
椿嬉がそう言うと、導仁は少しほっとしたような表情をした。
「そうでしたか。それを聞いて少し安心しました」
「そうそう、導仁様からいただいた貴重な水珠の国の菓子、ほとんど雪姉が食べちゃいました。
一人で抱え込むようにして、幸せそうにしていました。
雪姉は甘いものに目がないんですよ」
「それは本当ですか?
本人からは何も聞いていないので、打ち捨てられたのではと思っていました。
なるほど…甘いものですね。
椿嬉殿、ありがとうございます」
葵亥はさすがに雪笹でも貰った菓子を打ち捨てる事はないだろうと思った。
しかし雪笹が一人で菓子を抱え込んで食べる様子を想像するとなんだかおかしかった。
うどんが運ばれてくると、あたりに出汁のいい香りが漂った。
食べてみるとこしのある麺でとてもおいしい。
尾木の国とは少し出汁が違うようだ。
味噌汁と同じように地域による違いかもしれない。
葵亥がうどんを味わうのに夢中になって、ふと丼から顔を上げると菊守も美味しそうにうどんを食べていた。
菊守はこうやって市井のうどん屋でうどんを食べるのも初めてなのだろう。
それならもっと色々なところへ誘ってやってもいいかもしれない。
「ここへ来るときに露店がたくさんありましたよね。
特に何を買うという目的も無いのですが、覗いていきませんか?」
葵亥が三人に向かって尋ねた。
「いいですね!ぜひ行きましょう。
私も面白そうだなと思っていたんです」
菊守が賛成すると椿嬉と導仁も頷いた。
「私も気になっていました。露店」菊守だけでなく椿嬉も楽しそうだった。
皆でうどん屋を出て露店へ向かった。
まず初めに目についたのは立派な和傘の店だった。
ひとつひとつの柄がとてもきれいだ。
その隣は様々な髪飾りを取り扱っている店で、華やかな簪や櫛が並べられていた。
椿嬉が目を輝かせてそれを眺めていた。
葵亥が香袋のお礼に何か買おうかと言うと椿嬉が断った。
お礼は椿嬉のいないところでこっそり用意しなくてはいけない。
次に葵亥の目についたのは湯呑や茶碗などの焼物を扱う店だった。
簡素な意匠だがとても感じのいい焼物ばかりだった。
ふと気が付くと菊守がひとつ隣の店でなにやら熱心に商品を見ていた。
葵亥も行ってみると子ども向けの玩具を扱う店だった。
菊守が手に独楽を持って見ている。
「独楽、懐かしいですね」
葵亥が声をかけると菊守は、はっと我に返ったように葵亥を見た。
「はい、幼い頃よくやりました。
兄とやるといつも私の方が早く止まってしまって悔しかったので、正直あまり好きではありませんでした。
でも、ふとまたやってみたいなと思ったんです」
そう言うと、菊守は店主に金を払って独楽を袖にしまった。
菊守の兄、と言うと、桜仁親王の事を言っているのだろう。
独楽で遊んでいたということは兄弟の仲は良いようだ。
「それなら私も買うので対戦しましょう。
安心してください、私も独楽は兄達に負けてばかりでしたから」
葵亥も菊守の選んだ独楽と同じ大きさのものから、良く回りそうなものを選んだ。
実際にはよく回るかどうかなどやってみなければ分からなかったが、気持ちの問題だ。
「なら私はこれにします。
私は独楽やったことがないので教えてくださいね」
椿嬉も綺麗な花の絵柄の独楽を選んだ。
「私はこれで」導仁も淡い桃色の独楽を選んだ。
「最後のひとつのお饅頭を誰が食べるのか、独楽の勝負で決められますね」
椿嬉がいたずらそうな目をして言った。
「それは楽しみですね。ならば、」
菊守がはにかみ笑顔を見せた。
「饅頭は人数分より多い数で買うことにしましょう」




