土の匂い
想殿ではまた水瓶の水を矛でかき混ぜで渦を眺めた。
渦が消えるのを眺めている間、葵亥は国産みの神話について考えた。
神話によるとこの国は伊邪那岐命と伊邪那美命が天沼矛を使って島を作ったところから始まる。
それが本当の話かどうかは分からない。
でもこの国の地がどうやってできたのか、それが実際のところどんな風であったとしても、神秘的な事であるという事には変わりがないと思った。
渦が消えると机に矛を置いた。
葵亥はまたしばらく瓊瓊杵尊の天孫降臨の絵を眺めていた。
想殿から社務所に戻ると、落ち葉を集め終えた雪笹と五姫婆が社務所の中で休憩していた。
導仁が社務所の中を覗いて声をかける。
「五姫婆、雪笹殿。差し支えなければ、焼き芋をする際は私たちもご一緒させていただきたいです」
雪笹が少し迷惑そうな顔をしたが、五姫婆の方は機嫌が良かった。
「ああ、構わないよ。ところであんたたち若い男三人で落ち葉をあの袋に詰めてくれないかい?」
「えっちょっと!五姫婆!導仁様たちにやらせるの?」
雪笹が驚いて言った。
導仁のことを嫌っているかと思えば、さすがに雑用をやらせるのには反対の様子だ。
導仁はそれを見て愉快そうに笑い、着物の袖を捲くりながら言った。
「任せてください。雪笹殿、大丈夫です。
たまには働かせてください。これくらいできますよ」
「ええ、私もやります」そう言って菊守も着物の袖を捲くった。
「菊守様まで!」雪笹ががっくりとして言った。
「雪笹、いいからやらせてやりな」
五姫婆は菊守が落ち葉を麻袋に詰める様子を見ながら言った。
葵亥は雪笹に怒られないよう、黙って袖を捲くって働いた。
「結構楽しいですね」
そう言う菊守は初めて泥遊びをする子どものように無邪気な表情をしていた。
落ち葉を掴むと土の匂いがして、麻袋に入れるときは麻の匂いがした。
袋に落ち葉を押し込むと細かい塵が舞い上がって顔にかかる。
当然着物も砂ぼこりで汚れたが、菊守はむしろわざと汚しているのではないかと思える程、盛大に落ち葉を鷲掴みにしていた。
普段は無駄のない洗練された所作で上品な御人だが、たまに子どもっぽい表情を見せる。
麻袋に詰め終わると、社務所の脇の大きな銀杏の木の下に置いた。もちろんそこへ運んだのも葵亥たち男三人だった。
そんなに重いわけではなかったが、葵亥としてもこの力仕事を巫女三人でやらせるほうが気が引ける。
ついでに明日は早めに来て掃き掃除を手伝うことになった。
「ご苦労様。助かったよ。
もう昼だし、あんたたちはどこかへ食べに行っといで」
そう言って五姫婆がまた葵亥たちを神社から追い払った。




